プロローグ
新連載です。よろしくお願いします!
一五二〇年 下野国 祇園城
「おお、これが我が子か! 良い顔つきをしておる」
知らない若い男の声で目を覚ます。
ここは一体どこだろう。
目を開いてみるが、どういうわけか視界がぼやけていてよくわからない。なんとなく近くに人らしき姿を確認することはできたが、その人影は自分の何倍も大きい。まるで巨人だ。
すると近くにいた人らしき影がぼーっとしてた俺に近づいてきて手を伸ばしてきた。俺はなんとかしてその手から逃れようと身体を必死に動かそうとするも、手足をばたつかせることしかできない。
結局ほとんど抵抗できずにあっけなくその手に捕まってしまい、そのまま抱きかかえられてしまった。
「これ、お前様。そんな大きな声をあげたらこの子が驚いてしまいますよ」
どうやら自分を捕まえたのは女性だったらしく、そのまま膨らみがある胸元に抱きよせてきた。女性の肌からはほんのり甘い匂いがしたと同時に妙な安心感を覚えた。
そのせいかは知らないが、突然猛烈な眠気が襲ってきた。正直何が起きたのか全然わかっていないのに、自分が危機感とかパニックに陥っていないことにも気づかないまま、その眠気に誘われるように瞼が重くなっていった。
だめだ……意識が……ぐぅ
「おや、眠ってしまいました。てっきり誰か様の大声で泣いてしまうかと思いましたが」
「それはすまなかった。しかし待望の嫡男が産まれたのだから仕方なかろう」
「そうですね。それに初めての子供が立派な男児でほっといたしました。ところでこの子の名前はいかがなさいますか? 」
「それについては今さっき決めたぞ。こやつの名は犬王丸だ。赤子の癖に儂の大声にも全く動じぬのだ。ここまで肝の据わった赤子はそうはいまい。いずれ儂の名跡を継ぎ、この小山家を大きくしてくれるだろう」
母親の腕の中ですやすやと眠る赤子──犬王丸を見つめながら若い男性──小山左京大夫政長は慈愛の表情を浮かべる妻とは対照的に厳しい表情を浮かべていた。
政長は見逃さなかった。母の中で眠る赤子の瞳に一瞬理知的な自我が浮かんでいたことを。
「はたして生まれたのは獅子か物の怪か」
妻には聞こえないように、そうつぶやいた。
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