森の町
スープを飲んだ翌日の仕事
時間的には、頭上に太陽が来ていてもおかしくないはずだが、この森は相変わらず、地上まで太陽の光が届かないようだ
1人と1匹はどこまでも続く森を、小さなランタン片手に、歩き続けていた
「ねえ、ヨフ」
「なんさね、ヒト。お腹なら空いてるよ」
「さっき見つけた野イチゴならあるよ。ところで、ちょっと重いから降りてくれない?」
ヒトが手渡した野イチゴをヨフが頬張る。数回咀嚼すると、顔が皺くちゃになった。どうやら渋かったようだ
数秒たって、渋い余韻が過ぎたように表情が戻る
ヨフは、ヒトの右肩で揺られながら欠伸をし、ダラけるポーズをしたまま不機嫌に言い放った
「やだね、ここが良いのさ」
「動きにくいんだけど…ふぅ。それにしても木ばっかだね、全然森を抜けられないや」
これ以上言っても無意味だと分かっているようで、ヒトは軽く息を吐いて話題を変えた
「そうさね…ん?」
ヨフの萎れていた耳がピクピク動く、と同時に、垂れ下げていた尻尾をブンブン振り始めた
振った尻尾がヒトの頭にペシペシ当たる
「ヒト、光が見えるよ」
「ヨフ、やめないとご飯抜きだよ」
「たった1食抜いたところで、狼は屈しないさね。屈しないし辛くもないけど、勘弁して欲しいさね」
ご飯抜きは流石に嫌のようで、尻尾をシュンとさせ、ヒトの左肩に置いた
「よろしい。じゃ、光とやらを見に行こうか」
「はいよ」
森を進んで光に近づく
どうやら、光源に近くなる程、木の根っこで足元がボコボコして、平らでなくなっていくようだ。とても歩きづらい
ヒトが掲げたランタンが、暗い色の壁を照らす
「うわぁ!なにこれヨフ。この壁、すっごく大きいよ。まるで城壁だ」
周りの木が、地面から木の葉まで、目測で3メルに対して。この壁はどうだろう。木の幹が、周りの木の葉を貫いて、天まで伸びているかの如き大きさだ
高さも大きいが少し見渡しても、少なくとも見える範囲では途切れていない
「ヒト、ちょっと壁に寄って」
ヨフが鼻をクンクン鳴らす
「この壁、全部生きてる木さね。」
「ほんと?じゃあ、気をつけて調べよう!」
壁に沿って歩く。地面は木の根らしきものに覆われてていて、非常に歩きづらいが、ヒトは持ち前の身軽さで進んでいく。ヨフは未だに肩の上だ。ヒトが跳ねる毎に、尻尾がふわふわ揺れている
「これは、どこまで続いてるんだろう」
10分程壁に沿って進んだだろうか、依然として壁は続いている
最初に遠くから見た光は、時々ある壁の隙間から漏れているものだった。壁伝いに進んでいると、他にもいくつか見つけた
覗こうとしたが、光量が多くて何も見えなかった
「森に入る前には別段高い木は見えなかったさね。恐らく、光の屈折で遠くからは見えないようになっている、と考えるさね」
「隠しているって事?」
「さて、どうさねぇ」
そんな会話から、また暫く歩くと遂に壁が無くなった
今まで続いていた壁の一部が、内側に湾曲している。約直径2メルの円形に、壁の内側へと曲がっている。奥の方は渦状の暗闇で見通せない
内側を見つめていたヒトが口を開いた
「ヨフ、これなんだっけ?記憶から出そうで、出ないんだけど」
「力場の結界。たぶん、町とかで使われてるのと同じさね。効果としては、町に害する意思を持ったものを通さない、ってところさな。ま、通ってみないとわからんさねぇ」
ヒトは腕を組んで、考え込みはじめた
それを尻目にヨフは欠伸しつつ、再び尻尾でペシペシ
「どこかで見た事があるんだよ。ん〜………あ、思い出した。前に行った回ってる町で見たんだ」
そこまで言ってヒトはふと、あることに気がついた
「これってもしかして、町の入り口だったりするのかな?」
「かもねぇ。問題は、こんな日の通らない深い森に、好き好んで住んどるのが、良いヤツか良くないヤツかわからんことさね」
などと言いながら、暗い穴を見ているヨフの目は輝いている。きっと好奇心が警戒心を、抑え込んでいるに違いない
実のところヒトも、警戒より、中を見てみたいという思いが強い
「入ってみる?」
「かまわんさね」
訊いてみたところ、無愛想な口ぶりで返ってきたが、さっきから尻尾の勢いが強くなっているので、もう待ち切れないのだろう
ヒトは、思わずクスッと笑い漏らした
「じゃあ行こうか」
「はいよ、笑ったぶん後でご飯多めで許すさね」
「尻尾当てたから無しだよ」
好奇心に胸ふくらませつつ、1人と1匹は謎めいた木壁の中に入っていく
書く時間が少ないのでこんなもんに落ち着きました。
次回は壁の中に入っていきます。




