表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わった物語  作者: 大地凛
終末のアラカルト・序章━━創成
9/79

繁栄の帝都と白磁の王宮

  「聞きたいことは、たくさんあるんですけど、一番聞きたいのは、イヴァン帝の話。俺は、皇帝について、よく知らないので。何か知ってることはありますか?」


「イヴァン陛下、ですか。ごめんなさい、私も数えるほどしか会ったことがないから。あまりたくさんの情報は持ってないんです。」


 それでもいい。なにせ光は、数えるも何も、まず会ったことがないのだから。だから、とにかく、イヴァンという人物について、より多くのことを知りたかった。この際なので、敬語云々は忘れて情報を集めようと思った。そちらの方が、彼女も話し易いのだろう。


「でも、そうですね。私が初めてお会いしたときは、……えぇ、戴冠の翌々日だったのですが、とても荘厳というか、立派な方だと思いました。普通の人とは、何か違って。……とてもではないですが、ずっと見ていることなどできませんでした。畏れ多いことだと思ったので。」


 荘厳、立派、直視できない、と。光は、とてつもなく偉大な皇帝、イヴァンを頭の中で思い描いた。


  その後も、彼女から、様々なことを聞いた。光に足りないのは、ワルハラの情報であったため、イーリスの言葉は、とても助けになった。それによれば、イヴァンは緋色の髪と、緋色の目を持ち、まるで立ち上がった火柱のような印象を与えると。尊敬と、それによる誇張を含んでいるとしても、光の中でできたイヴァンのイメージは、人とは思えない、むしろ神に近いようなものになった。なるほど、直視できない訳だ。


「でも、それだけじゃないですよ。とっても優しくて、素敵な方ですよ。私のような身分の者も、気にかけてくださって。」


  それならば聖人か。正に聖人君子といったところだ。言い換えるなら、光の会ったことのない人種だ。イヴァンのことを知りたかったのだが、かえって分からなくなった。



  「……なんか、ありがとう。いろいろ教えてくれて。」


「は、はい。私は、力になれたでしょうか。」


 イーリスは、躊躇いがちに言った。光がもちろんだと頷くと、よかった、とニッコリと笑った。



  機関車の旅は続く。車窓には、相変わらず白い世界が。ただ、家の密度が上がったことのみ、目的地が近いことを教えてくれる。到着が近いのは、車内がにわかにあわただしくなったことからも伺える。


  「おい、起きているか。もうすぐ着くのだが、荷物をまとめておいて……、と、なんだ、もう準備できていたのか。」


 ドアを開け、矢継ぎ早に告げたヨハンは、すぐ側の大きな鞄と、小綺麗になった部屋に気付いた。


「まぁ、よい。列車を降りたら、すぐ馬車に乗り換える。それだけ言っておくのだが。」


 それだけ言ったヨハンは、またすぐにドアを閉め、行ってしまった。まったく、忙しい人である。



  列車が、ゆっくりと速度を下げ、やがて停車した。ぞろぞろと降りていく人に紛れて、光も列車を降りる。一行は、ワルハラ帝国の首都、ゲレインへ着いた。いろいろな人が、思い思いの方向へ歩く中、雑踏をかき分けながら進むと、列車で会話を交わした人が集まっているところを見つけた。先ほどのヨハンの話を踏まえるならば、馬車を待っているのだろう。馬車の目的地は恐らく、街の中心にそびえる巨大な城だ。


「光よ、これより王城へ向かうのだが、……心の準備は、できているのか?」


 心の準備も何も、今から会うのが決まっているのだから、仕方がない。光は、曖昧に頷くのみだった。ヨハンは、それを答えととると、ならば、馬車が到着し次第、すぐに行くぞ。と言った。



  「兄さんたちー、遅れてすみませぇーん。」


 大通りを進んできた馬車の上の御者が、声を張り上げる。白髪の青年だ、ということは。


「エゴールか。すまんな、ここまで出向いてもらってしまって。」


 やはり、青年は、ヨハンの弟の一人、エゴール・シモーニだった。彼は、王宮付の御者である。一同は、二代の馬車に分乗した。光は、ヨハンやアヒムと同じ馬車に乗り込んだ。


「あぁー、それでは皆さま方、しっかり掴まっていてくださいね。皇帝陛下が待っておりますので、急ぎますよぉ!」


  エゴールの鞭によって、馬車はたちまち弾丸のようになって大通りを遡上する。後ろから悲鳴も聞こえたが、気にとめない。もし、口を開いたら、舌を噛むだろう。そんな中でも、上を向きながらでも喋り続ける者はいる。


「……そうだ。エゴール、もう少し速くはならんか。」


「兄さん、無理言わんで。これでも最大限なんだよ。皇帝陛下を前に、僕が出し惜しみする訳ないじゃん。」


「そうか……。陛下は、もしやお怒りか?」


「いや、そうでもないよ。むしろ心待ちに、楽しみに待っているって感じかな。」


 ヨハンとエゴールの兄弟は、この状態に慣れているのか、尚も会話を続ける。ちなみに、アヒムは青ざめた顔で下を向いている。恐らく、海の男は、陸でスピードを出すことには慣れていないのだろう。



  「あぁあ、着いたぁ。」


 倒れるように、というよりほぼ倒れ込みながら下車するアヒム、それを踏まないように降りた光と、それをわざと踏みつけて降りたヨハンの顔を見回してエゴールは言った。


「えぇ、王宮ですよ。光さん。」


 光は、それに促されて前方を見る。目の前には、遠目に見えた白い壁の城、王宮が堂々と建っている。白い壁に青い屋根、尖塔のコントラストが素晴らしいのだが、何より光の度肝を抜いたのは、その大きさだった。


「……広い、っていうか、広すぎるだろ。俺ん家いくつ分だよ。」


 驚いて、それしか言えなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ