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終わった物語  作者: 大地凛
終末のアラカルト・第一章━━死霊編
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渦巻く疑念

 二人が調べようとしていたこと、それは、術者の素性についてである。━━きっかけは、ロロの一言であった。


『おっかしーなー、あの魔力の気配、どっかで見たことあるんだけどなー。』


 魔力の気配というのは、つまりは、体中のマナの配合のことである。木が何割、水が何割というように、それは各人に固有である。一般的に、その割合の一番大きいものが、その人の扱える魔法の属性となり、例えばメリアは、木が最も多いために木属性である。……まぁ、人形に命を宿らせた時点で、ただの魔法使いという訳ではないのだが。


『お客さんの中にいたんじゃない?』


『いや、毎日のように見てる気がするんだ……。』


 それって、もしかして、私?



 もちろんであるが、大魔導師も、魔力組成のことは気づいていた。だが、魔力組成自体が似るということはままあることだ。だが、ロロには、二人に見えないものが見えていた。それは、ロロにだけ見える、複雑な、極光のような輝きを放つ煙。それと同種の、霊気ともいうべきそれが、自らの主人と重なって見えたのだった。つまり、術者の魔力の霊気とメリアの魔力の霊気は、その力こそ異なるものの、非常に似ているということである。


 考えてみれば、メリアには両親がいない。母が過労によって帰らぬ人となった後、父親は失踪した。丁度その頃連続して発生していた失踪事件に巻き込まれたのである。その頃まだ幼かったメリアに、両親の記憶は朧気にしか残っていない。メリアはその後、孤児院へと預けられ、そこで人形師としての技術を身につけて、成人してゲレインへと移り住んだのだ。


 だからこそ、メリアにとって両親を確定する決め手となるのは、自分に刻みつけられた魔力組成と、能力だけなのである。━━この二つは、両親の影響を強く受け、遺伝すると言われているからである。そして、そのことをジェームに話した上で、メリアとロロは城下に出てきたのである。危険は承知であるが、もし術者が親類━━父親だとすれば、何故こんな事件を起こしたのか、あらかたの予想はつく。



「まぁ、洗いざらい聞かせて貰おうじゃないの。」


 そう言って不敵に笑うロロだが、筋道がはっきりと見えているという訳ではない。まして、巨大な骸骨を前にしてはなおさらである。だが、術者が未だに強大な力を有している以上は、話を聞くことすら叶わない。━━話は、この骸骨を倒し、テロメアの聖杯を手にしてからである。


「あまり、近づきすぎない方がいい。魔力に反応して、襲ってくるから。」


 アルジェンタが言い終わるより速く、ロロの足めがけて一筋の煙が飛んできた。


「うあああ!!『十花繚乱(フルーア・デカン)』!!分かってるんだったら先に教えてよ!!」


 ロロが必死の形相で、煙の攻撃を弾く。骸骨は、思わぬ反応に身を捩らせて、次の一手を繰り出す。骸骨の精製した煙の矢は中空で静止し、三人に狙いを定めた。


「厄介な……、『光神の盾(イージス)』!!」


 アルジェンタの素早い詠唱とともに、結界に似た、淡緑の壁が現れる。それに遅れること数秒、煙の矢が、魔力の盾に深々と突き刺さる。その(やじり)の数本が壁を貫通しているのを見たアルジェンタは、術者本人でないにも関わらず、これ程の魔力を扱えるこの骸骨を、強敵と見定めたのだった。



「失礼するぞ。ミカエル、いるか。」


 参謀本部の扉を開いたのは、意外な人物だった。その人物の叔父、ジュゼッペに代わって総長の椅子に座っていたミカエルは、当惑の表情を浮かべながらも、彼を出迎えた。


「……これはこれは、大公殿下。一体、如何なる用事ですか。……私の部下が、何か不手際を?」


 アーネスト大公は、部屋の角を見つめながら、そういう訳ではないのだが、と曖昧な口調ではぐらかした。


 ミカエルは、大公の態度から、彼が皇帝の企みのためにやってきたのだと予想した。その企みというのは、つまり、件の少年少女に関することであるのだろうということも、同じく。


「……では、何を。」


 大公は、意を決して、用件を述べ始めた。



「………………承知しました。それが、皇国のためならば。」


「お前の信条に背くということは、よく分かっているさ。だが、世界帝国の実現のためだ。……すまない。」


 そう言って俯く大公を、ミカエルはじっと観察していた。この男が、本当に、本心から謝意を抱いているのかということについては、甚だ疑わしいところがあった。━━少なくとも、ミカエルにはそう思われたのだ。この男は確かに人情ある人物であるが、それ以前に皇帝の手足だ。皇国のために、どんな犠牲をも厭わない皇帝と、考えを同じくしている人間だ。だが、参謀本部きっての秀才の頭脳があっても、結局、大公の真意は分からなかった。底知れぬ雰囲気は、皇族の特徴なのか、と、ミカエルは頬に手を添えて、ため息をついたのであった。


 ただ、ショーンがこのことを知れば怒るのだろうという予測はできた。あの男は一見冷静だ、しかし優しすぎる。故に皇帝や、或いは帝国の非道の企みには協力をしたがらないのである。ミカエルはあくまで、大公のもたらした作戦の成功のために、ショーンはもちろん、参謀本部の誰にもこのことを話さないようにしようと誓ったのであった。

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