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終わった物語  作者: 大地凛
終末のアラカルト・第一章━━死霊編
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鮮烈

 黒い衣をはためかせながら、術者は皇帝を睨みつけている。この王都の長にして、帝国の全てを握っている男、イヴァン。その肩書きをかなぐり捨てたような剽悍な動きの男は、装飾の少ない実直な剣を帯びている。━━アテナを保護したとき、ズーニグリを倒さんとして抜いた剣である。


 厄介だと、術者は見定めた。皇帝たる者、権威の象徴であるべきではないのか。これではまるで怪物(リヴァイアサン)である。恐るべき力で圧倒的な力でもって、人々を支配する怪物である。彼の剣は、王権のシンボルとしては使われない。騎士叙任の場において肩に置かれるべきものではない。━━あの剣は、一重に、殺すために作られたものである。ただ肉を立ち切り、骨を圧断するために握られるものである。


 いや、真に厄介なのは皇帝ではない。その裏で、━━皇帝を欺きつつ━━暗躍する謎の存在である。およそ、参謀本部の何某彼某であろうが、何を目指しているのか分かったものではない。だが、そちらに警戒を注いでいては、自分の命すら危うい。


 術者の考察の最中にも、皇帝は問答無用の攻撃を仕掛けてきている。電撃を放ち、怯んだところに一太刀。伸びた煙は横に跳びつつ切り落としては、雷によって浄化する。それを繰り返している。つまるところは、まったく互角の勝負を繰り広げているということだ。迷いなき太刀筋に対し、術者も的確に煙をぶつけていく。両者の魔力は、無限でこそないものの、無尽蔵にあるかのようである。戦いに、終わりが見えない。



「━━と、それはそれで好都合なんだよね~。」


 アルジェンタは、皇帝と術者が一騎打ちをする地点から西に少し離れた、王都の中心を南北に貫く大通りを歩いていた。煙が大量にあったとしても、それを扱う術者は一人、その術者は今、皇帝による応酬を受け、身動きがとれないのだ。当然、大通りを歩くアルジェンタは、彼女の持つ魔力に反応して飛びかかってくる僅かな煙を払うだけで済んでいた。


(まぁ、急がなければいけないことに変わりはないか。)


 あまり激しく動くと、かえってマナの減りが早くなる。━━自分と皇帝、二人のマナの供給を担当しているジェームの負担を軽減するためにも、聖杯を取らねば。


 できる限りで急ぎつつ、しかし慎重に、下手を打たぬように。アルジェンタは王都の中心を目指した。



「皇帝、何が狙いだ?」


 激しい打ち合い、轟く音の最中、聞こえるはずのない術者の声が雷霆の間を縫うように耳朶に響く。皇帝は、その問いに首を傾げた。その不可思議さ以上に、心当たりのない言葉に。皇帝がここに来たのは、調査本部の二人を救うためである。そして、自ら術者を討伐し、王都に再びの静謐をもたらすためである。いや、しかし、この状態で動く人間がいるとすれば。


「まさか、あの二人がまた勝手に……?」


「━━何を言っている、貴様は策のことを知らぬのか。」


 策……、イヴァンは、誰が書いた筋書きの上を走っているのかと、とたんに不安にかられた。正しくは、自分が書いた大筋を、誰かしら━━その人は自分を知っているし、自分もその人を知っているであろう人物━━が改変、改稿しているのである。


「なぁ、誰が、何をしているんだ?」


 イヴァンの問いに、答える者は誰もいなかった。イヴァンはこのとき、初めて術者に遅れをとった。戦闘においてではない、情報においてである。そしてそれは、戦いにおいて最も避けるべきものであった。



 イヴァンの思案が行き詰まっていたとき、アルジェンタは、噴水のある広場に到着していたところだった。━━彼女は、しかし、聖杯を取りにいくことはしなかった。否、できなかったのだ。


「どこに行ったかとは思っていたけどね……。」


 彼女の見上げる噴水、その石組みを覆うように、黒く巨大な骸骨が鎮座している。何らかの手段によって、今までその姿を隠していたのである。


 アルジェンタは、自らが身につけていた魔力を覆い隠すローブに編み込まれた術式の一端が、骸骨の周りに漂っているのを見つけた。やはり、術者も自分たちと同じ技術を手にしていたのだ、いや、それを超えるものを生み出していたに違いない。そうでなければ、先程の作戦中に、術者に気づかれないようにしていたのにも関わらず、的確に壁を作り出されて行動を制限されたことの説明がつかないのだ。大魔導師の術者を破る術を持ち、それを勘づかれないようにする、その力を、術者は有しているのだ。


 骸骨は、アルジェンタを虚の眼で見つめている。或いはその先の王宮を眺めているのかもしれないし、何も見ていないのかもしれない。ただ、微動だにしない骸骨は、獲物を、草むらに潜んで待つ獣のような、不気味な静けさに包まれていた。


 獣なら、こちらにもいるけれどね。そう頭の中で呟いたアルジェンタは、そのような野性を宿してはいない。故に、この骸骨をどうしてくれようかと悩み、腕組みしたのであった。



「ほんとに大丈夫なの?」


「んもー、心配性だなぁメリアは。このロロがついてるんだよ、心配いらないって!!」


 静まり返った城下には、皇帝の落雷の音が断続的に響き渡る。それよりずっと小さな音で、二つの女の声が聞こえる。


「だから、ほら。確かめるべきことは確かめないと。」


 人形、ロロはそう言って、自らの主人に笑いかけた。

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