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終わった物語  作者: 大地凛
終末のアラカルト・第一章━━死霊編
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共闘

「ヒカル君、今のは……。」


 呆気にとられるアテナに、光は言う。


「居合、じっちゃんに教えてもらったんだ。……じゃなくて、逃げるよアテナ!!」


 はっとした表情のアテナだが、光の剣術が信頼できるものだと分かると、弱々しくも頷いた。


 次々と、矢のように襲いかかってくる煙。その全てを防ぐことは、たとえどれ程剣の道に精通していたとしても、不可能であろう。さらば、避けてしまえばいい。


 光は、煙の動きが、直線的であることに気づいていた。獲物を、無駄な動きなく仕留めるために付与された特性であろうが、しかし、裏を返せばそれは、容易に動きを予測できるということである。


「……前だ、前に走って!!」


 光が力一杯に前面を薙ぐ。既に射出されようとしていた煙の束が、細いところで切り落とされて、塵となって消えていく。そのまま前に走れば、元いた場所を、石畳ごと貫く轟音が聞こえる。その繰り返しであった。


 しかし、それでも最外郭の、厚い煙の壁は切ることができなかった。切れども切れども、下から湧出するマナによって補完されていくのだ。埒が明かない、ここまでかと、光はうなだれた。



「『炎の武具(フェア・アルム)』━━!」


 しかし、手元から放たれる閃光と温度に、少年は驚いて顔を上げた。━━剣が、炎を纏っている。刀身がでらでらと業火の中で光沢を放ち、より一層輝いている。


「アテナ、今のは火属性の……。」


「いいから、早くっ!!」


 迷っている暇はない。後ろから迫りくる煙を尻目に、光は精一杯、満身の力を込めて、その剣を薙いだ。



「離せ、僕が行かなきゃ!」


 一方、結界の中では、二人を助けに行こうとするアルジェンタを、ヨハンが必死に止めていた。


「二人を見殺しにするのか!?」


「そうは言っていないでしょう、ただ、貴女が煙に飲まれたら、勝ちの目がなくなると言っているんです!!」


 最早この王都に、術者を抑え込めるのは皇帝を除いて他にいない。その皇帝の命綱を握るジェームと、聖杯で浄化を行うアルジェンタ、そのいずれが欠けても、計画は倒れてしまう。そして、そのことを術者は理解しているのだろう。アルジェンタが結界から出れば、十中八九それを捕らえるはずである。━━故に、ヨハンは説いたのだ。彼らを信じる以外に方法はないということを。


「そうは言っても……、って、へえぇっ!?」


 アルジェンタが、突如として上げた素っ頓狂な声に、ヨハンも思わず目線を上向かせる。彼らの目に映ったのは、燃え盛る剣で煙の壁を切り裂いて脱出する、光とアテナの姿であった。



「よぉぉし、二人ともよくやったぁ!!」


 アルジェンタの放つ魔弾によって、二人に活力がだんだんと戻ってくる。足取りがしっかりとして、煙との距離がどんどん開いていく。そして……。


「よし、よしっ……! やったぞっ!!」


 二人は、ようやく煙の恐怖から解放されたのであった。



 その様子を、一歩遅れて到着した術者は、憎々しげに見つめていた。獲物を逃した蛇の目で、二人の姿を目に焼きつけている。


「……けに口惜しきかな、よもや逃がすとは……。」


 そう呟く術者の前に、替わって一人の男が立つ、一面に垂れ込んだ煙の原を掻い潜ってきた、イヴァン皇帝その人である。彼もまた、術者のような獣の瞳に、人間のものとは思えぬ冷酷な光を宿し、確かな殺意を纏って立っている。


 術者が群れて狩りをする狡猾な禽獣ならば、イヴァンは単身だけで敵を殲滅する獰猛な肉食獣である。おおよそ、人間の戦いではない。アテナは、雪山で自分を助けた男と、目の前で背中を向けて立つ猛獣が、同一のものだとは、どうしても思えなかった。彼女は、野性が、皇帝に内在しており、それが戦いに際して顕然しているのだろうと、そう結論していたのだが、あの柔和な表情の一切が掻き消えるのを間近で見、実際はさらに複雑な何かがあるのだと理解した。それ程までに、皇帝の豹変は印象的であった。



「じゃあ、僕は行くよ。聖杯を取ってしまえば、こっちのものだからね。」


 そう言って立ち上がるアルジェンタ、その背に、光は問いかけた。


「あの……、術者は、聖杯が浄化に使われることを予測しているでしょうか。あそこまで冷静に計画を進めてきたのなら、それもあり得るんじゃないかと。」


 アルジェンタは、光をちらりと見てから、顎に指を当てて考え込むような素振りを見せた。が、すぐに明るい表情に戻ると、薄く笑って答えた。


「……心配性だな、ヒカル君は。例え術者が予測して対策したとしても、皇帝がそれを許すはずがないよ。」


「……そう、ですか。」


 一縷の不安と疑念を残しながらも、光にアルジェンタを止める理由はそれ以上はなかった。二人は、再び城下へと繰り出す準備を始めた大魔導師をただ見ていた。


「それにしても、術者は強敵ですよね、ヨハンさん。」


 アルジェンタを見送りながら、カリーニが語りかける。ヨハンは、それに応えながら、はたと気づいたように顔を上げた。


「ん、ショーンはどこへ行った?」


 改めて周りを見渡すと、彼の姿がない。ヨハンは、また彼が何か悪いこと━━すなわち、ヨハンにとっての不都合を企んでいるような気がして、思わずため息が出た。仕方なく、ヨハンはカリーニに、ショーンを探しに行くぞ、と声をかけた。

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