表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わった物語  作者: 大地凛
終末のアラカルト・第一章━━死霊編
70/79

奇策

 その報告を、愕然として聞いていたのは、イヴァンだけではない、術者もまた、唖然として固まった。


 某が伝えた情報、それは、調査本部の二人が姿を消したというものだった。



「……ヨハンさん、正気?」


『正気なのだが。』


 話は、皇帝と術者の直接対決の始まる前まで遡る。ヨハンが打ち出した、皇帝の思惑を利用した作戦。━━その鍵となるのが、王都の中心にある、巨大な噴水であった。


『もう一度言うからな、まず二人は、結界を越えて城下に出る。すると、術者はそれを襲い、皇帝はお前たちを守らざるを得なくなる。術者が皇帝との戦いに翻弄されている間に、アルジェンタが噴水を目指す。』


「噴水……、水が、何か効果を?」


 アテナの問いに、ショーンが答える。


『噴水じゃなくて、噴水の内部にある浄化装置だね。もっとも、装置というには単純で、それでいて複雑すぎる……。』


 それは、ありとあらゆるもののマナに干渉し、有害なものを無害に、悪性のものを良性に変える伝説の秘宝、かつてワルハラ帝国の創始者、サン・フロプトが天から賜り、砂漠の民を渇水から救ったとされる、巨大な魔力鉱石の結晶、『テロメアの大聖杯』である。そして今それは、王都の中心の噴水の基部に組み込まれている。


 つまるところ、不可思議な力によって、煙の浄化を行おうという算段なのである。


『聖杯は、僕の魔術で固定されている、僕がそこまで行ければ、聖杯を使って浄化ができる。』


「それで、俺たちが注意を引き付けると。」


『万が一がないよう、サポートするから……。』


 光は腕を組んでアテナを見る。アテナもまた、気まずそうに、何かを伺うような目線を返してきた。二人の目的に向かう手段の一つであるとはいえ、危険を多分に伴うこの役目を受けるべきか。


 だが、皇帝の傀儡にはなりたくないという思いは、皆の中で共通していた。その先の、破滅的な最期も予想されていた。故に二人は、これを、必然的に受けざるを得なかった。



 そして、この考えは、画策されたものであった。皇帝を超えるその力━━運命といってもいいそれによって、この決断は全く予定されていたのであった。無論、それを知る者はここにはいない。ここにいる者は、皇帝という、種族として限られている人間に対する対抗を企んだにすぎず、さらに巨大な力の存在を、予期していなかった。そのことが分かるのは、かなり後の話になる。



 城下は、死に満たされていた。ここに足を踏み出すことは、当たり前だがためらわれた。マナに疎く、影響を受けにくい光はともかくとしても、マナに対して過敏なアテナに関しては、一層危険であった。現に、今マナの供給の問題により死にかけている人間がいる以上は、無策に突っ込んでいくことはできない。


 もちろん、策はある。アルジェンタの魔法によって、常に二人に魔力を流し続けるのである。通常の火砲の玉や、エネルギーの弾とは違い、魔法によるマナの玉は、自在に操ることができる。つまり、結界の中にアルジェンタがいれば、城下のどこにいても、光とアテナに魔力を供給できる。先程の作戦で同じようにしなかったのは、大魔導師程魔法に精通していなければ、一定のマナの継続的供給は難しいこと、また、煙を相手にするのには、一般の魔術師団員では分不相応であると考えられたためである。だが、今回は煙を相手にする訳ではないので、大魔導師は魔力の供給に集中できる。そして、皇帝と術者が互いに戦いを始めたときに、光、アテナと入れ替わったアルジェンタが噴水のところまで行って、聖杯を取り出し、浄化を行う。


「やるしか……、ない……?」


「…………ん。」


『もう出し惜しみはしないさ。一切を救う。』


 かくして、二人は城下へと踏み出した。背中には、確かな暖かみがある。それだけが、二人の頼みの綱であった。



「見つけました。」


 カスパーの耳打ちの内容を悟られぬように、皇帝は表情を変えずに頷く。だが、そのような小細工はまったくの無駄であり、術者は特異なマナの流れから、自らの求めるところが、自らの檻に入ったのだと分かった。


「……皇帝よ、交渉は決裂だな。後で(なれ)らも喰ろうてやるが、今は、あの二人よ。」


「ほう、……それを許すと思うか。」


 皇帝、イヴァンの目から、『皇帝』が消えた。代わりに宿ったのは、禽獣の光である。獲物をただ一つに定めた、猛獣の瞳である。自らのために他者を犠牲にすることさえ厭わぬ、残虐な豺狼(さいろう)の心である。


 前触れもなく、皇帝の指先から光が、雷火が放たれる。天空に向けて鋭く伸びていくそれは、術者の分身の心臓を的確に穿ち抜いていた。


「はっはっはっ……、無駄……だ、無…………駄……。」


 黒い塵となって消えていく術者を、皇帝は薄く笑いながら眺める。その心情が読み取れず、カスパーは困惑した。彼の頭の中では、この事態はどのように展開しているのか、読めない。可視のものは、千里眼で何でも見ることのできる彼であるが、皇帝の脳内だけは、見るどころか推し測ることすらできなかった。


「いい度胸だ、受けて立とう。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ