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終わった物語  作者: 大地凛
終末のアラカルト・第一章━━死霊編
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魔導師と軍師

(なれ)は、一体。」


 術者が、怒りを圧し殺して問う。ロロは得意気にこれに答えた。


「ふふっ、お初にお目にかかりやす、あっしゃ人形のロロと申しやす。以後お見知りおきを。」


 意外な返答に、術者は眉を上げて訝った。ジェームはこの様子を見て、少しやり返したような気になった。しかし、一方のロロは、まったくそんな気にはならなかった。むしろ、得体の知れない恐怖に震えていた。


 以前墓所で見た禍々しい光の束に、ロロは相対している。大魔導師の二人はそれを恐らく視認できていない。黒い煙の不気味さをロロは知ることはなかったが、この怪しい光を理解する者が自分以外にいないのかと思うと、とたんに孤独感と不安感に襲われてしまう。それに飲まれぬように、気持を奮い立たせて精一杯に胸を張る。


「こいつをどうすれば良いの?」


「あの術者はマナの伝達によって煙を操っている、術者を人のいない市街地まで移動させた後、浄化を行えば煙は無害化される。そして街で術者を下せば、私たちの勝ちなのだわ。」


 この会話の間隙を狙い、術者は煙による攻撃を試みる。しかし、大魔導師二人が完全に迎撃に回り、さらにロロも加わったことによって術者はかえって押され始めた。


「…………小賢しい虫が……。」


 黒い煙と、無数の剣と岩石がぶつかり合い、浄化によって生まれたマナが飛び散る。両者はそうして発生したマナを固めては、相手にぶつけていく。


「虫なんて、失礼な奴だな君は。ジェーム、吹き飛ばしてもいいかい?」


「無茶はしないでね、……貴女、さっきまで操られていたのだから。」


 仕組みは分からないが、それを含めてあの術者の能力であるらしい。厄介な相手を倒すには、それを超える作戦を立てねばならない、そして、その作戦はいまだに手に入っていない。それを突破する方法は、当然一つであった。


「『鋼鉄の剣(フェー・エピーア)八重(オクタ)』!!」


 大量の、針のような鋭い金属塊が、術者を狙う。動揺することなく術者は手を翳すと、背後の煙が渦を巻いて術者の前に展開する。剣が砕けると共に、白い光が溢れ、アルジェンタの乾坤一擲の攻撃は防がれたように思われた。


 だが。



「『鋼鉄の槌(フェー・ダドム)極大(メギジム)』!!」


 煙による盾を叩き壊して、術者を吹き飛ばす。アルジェンタの魔法によって出現した巨大な槌によって、つまり、難しい作戦などなくして、三人は目的を達成したのである。


「よっしゃああ!!」


「えっ、ちょっ……。アンタ滅茶苦茶だな、何だ今のでっかいハンマーは。」


「気にしない方がいいのだわ。……今、貴族の邸宅の区域に落ちたようだわね。」


 三人は、壁に空いた穴から城下を見やった。人気のない街のいたるところから、煙が立ち上っている。術者の力が現れているようであった。怒りを力に換えているのか、しかし、そうして得られる力は紛い物であると、ジェームは信じていた。感情的になりながら戦うと、必ず足を掬われる、長期戦になればなる程、それは顕著になっていくのだ。


(まぁ、あの術者がアルジェンタみたいじゃなければ、の話だけれどもね。)



 一方その頃、城下では、とてつもなく運のついていない男が煙から逃げ惑っていた。


「……何故私がこのような目に会わねばならぬのだ!?」


 白髪の男、ヨハンを目標として、大量の煙が集まり、槍のようになっては、走る男に向かって放たれる。石畳に大きくひびが入り、その亀裂に足をとられたヨハンは、つんのめるようにしてその場に倒れた。


 ヨハンは倒れた体を起こそうとはしなかった。地面に座って、煙に相対したのだ。煙は、哀れな男を愚弄するかのように、ヨハンの目の前でゆらゆらとその無形の体躯を揺らす。


(ここまでか、俺はここで死ぬのか……。)


 嫌な予感に捕らわれかけて、頭をぶるぶると振ったヨハンは、地面に手をついた。石畳ではない何かの感覚に、ちらりとそちらの方を見ると、そこには、避難する内に、誰かが落としていったのであろう、広告の束があった。そして、ヨハンはこれを見て、ここから生き残るための作戦を一つだけ、思いついたのである。



「くそっ、どうしたらいいのだ!!」


 そう言いながらヨハンは、自棄を起こしたかのように、広告の束を煙に投げつけた。当然、何の変哲もない、ただの広告である。定形を持たない煙には、目眩ましにもならない。


 しかし、現実は違った。広告は、目眩まし以上の戦果をもたらしたのだった。


 突然、放散した広告が空中で細く丸まったかと思うと、そのまま勢いよく煙の周りを旋回し始めたのだ。奇術のような現象に、煙は注意を奪われた。明らかな混乱を見てとったヨハンは、掲げていた手を、下に打ち下ろした。


 刹那、針のようになった広告が、煙に向かって次々に発射される。何の細工もされていないはずの広告は、煙を、命中したところから、次々と浄化していった。そして、広告の攻撃が終わったときには、ヨハンを追っていた一群の煙は、跡形もなく霧消していたのである。


 ヨハンの能力、『懐紙』である。彼は、自らが触れたあらゆる紙を操ることができるのである。この触れられた紙は、それぞれ魔力によって動いているため、マナの集合である煙にも、攻撃の効力を発揮したのである。

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