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終わった物語  作者: 大地凛
終末のアラカルト・第一章━━死霊編
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思わぬ過ち

「何か?」


「おいおい、何かってなんだヨ。」


 騎士団の二人組は、苦笑いでそれに応えた。が、二人もおかしな雰囲気には気づいていたために、一笑に付すことはできなかった。


「結界が解かれたってことは、何か不測の事態があったのではないでしょうか。」


 アテナの心配は、光も同意見だった。もし、何か考えあってのことであったとしても、そこを狙われる可能性がある以上は、王宮に危機が迫っていることと同位であると、そう光はとらえていた。


「し、新参が何を言うの、大魔導師が気を抜くはずがないじゃない。すぐに結界を張ったということは、煙は入り込んでないということ、考えあって、結界を解除したに他ならないと思うけど。」


「でも……。」


 光は答えに窮した。あくまでも、これは自らの勘に基づく主張、論理的なソフィーの言に反駁することはできなかった。


 しかし、突然ジャックスの所持する通信用の鉱石が鳴動したことで、一行は、否が応でも王宮に急いで向かわなくてはならなくなった。


「……貴方たち、調査が終わったところ悪いけど、早く戻ってきて頂戴。」


「え、ハルシュタインさん。そりゃまたどうして……。」


「説明している時間はない。とにかく、急ぎなさい。」


 そう言うなり、ハルシュタインは通信を切ってしまった。騎士団の二人組は、ちらりと光の方を見て、そして互いに目配せした。


「皆、聞こえてたカ?」


「えぇ。王宮に、何かあったんですね。」


 ガリエノは小さく頷き、先頭に立って王宮へと駆けていった。



 王宮の正面にあるヴァルハリオン通りまで、一行は出てきた。通りの反対側には、まだ避難していない人々がいる。先程の煙には飲まれなかった区画ではあるが、いずれここも危険地帯になるのだろうという予感が光にはあった。


 城門の結界には、以前と比べて、特に変わったところは見受けられなかった。人が通る分には問題はなく、澄んだ淡緑のままにそこにある。これといった異常はないように思われた。


「なら、中で何かが起きタ、ってとこカ。」


 ガリエノの予想は、当たっていると考えて、まず間違いないだろう。大魔導師に何かがあったか、それとも、術者が侵入したのか。どちらにせよ、結界の解除は重要な分岐点であったのだろう。



 暫く進んでいくうちに、今は避難所となっている石室が見えた。そこには、王宮全体に張られているものとはまた別の結界が展開されていた。


「あ!お、おい。大丈夫か?」


 ジャックスが中にいる人々に声をかける。先程よりもかなり多くの人が、石室の中にいた。その内に、数名の医師と魔導師を見つけた光は、彼らが治療を行っているのだと気づいた。


「アルジェンタ、これは!?」


 ソフィーの問いに、大魔導師、アルジェンタは、困ったような表情で、頭を掻いた。


「泉から、飛び出してきたんだ。僕が思うに、あれは街に先刻まで溢れ返っていたものと同種だろうね。煙に苦しむ人を助けるために結界を解除したけど、こんなことになるなんてね。」


 彼女の話を整理すると、結界を通り抜けられない、煙に汚染された人々を、純粋なマナで治療するために王宮に運び入れたが、そのときに煙が泉の中の液体のマナに溶け込んでしまったために、現在王宮の中で煙が暴れ回っているという状況らしい。


「早く気づくべきだったんだ。結界は、王宮の周辺、半径十ローグまでを囲い込むことができる。地下の霊脈に流れ込む訳がなかったんだ。結局僕たちは、良かれと思ってやったことで、貴重な時間を無駄にしてしまったという訳さ。」


 アルジェンタは、首を振って目を伏せた、しかし、治療の手は一切休めることはなかった。己の過失を悔いながらも、自分にできることを精一杯にやろうと努める姿勢が垣間見えた。


「……今、煙が王宮内に入り込んでいるのカ?」


「あぁ、陛下はハルシュタインさんに命じて、騎士団の精鋭を煙の抑え込みを行っているみたいだけど。」


「対抗できてるのかよ、それ。」


「どうだろうか、でも、戦闘員は多いに越したことはないだろう。二人とも、早く行った方がいい。」


 騎士団の二人組は、アルジェンタが言い終わるか終わらぬかというところで、踵を返し、王宮の奥へと向かっていった。



「陛下。」


 ドアをノックせずに開けられるのも、すっかり馴れてしまった。皇帝、イヴァンは、嘆息しながら、王の間に入ってきたカスパーに、目で応えた。


「大変です、泉から件の煙が吹き出し、王宮内を汚染しています。どうやら先の結界解除の折に、地下の霊脈から侵入したようですが……。」


「……。」


「陛下……?」


 カスパーは、そこで、イヴァンが押し黙っていることに気づいた。とたんに、以前にも感じた恐怖、すなわち、皇国の柱石たるイヴァンが倒れる恐怖を感じたカスパーは、一歩、イヴァンに歩み寄った。


「被害は、どのくらい広がっている。」


 やにわに投げかけられた問いに面食らったカスパーだったが、自分が確認した情報を総合し、イヴァンに伝えた。


「い、いえ。今は、駐在していた騎士や魔導師を召集して、抑え込んでいますが……、どうやら無尽蔵に煙は出てきているようです。」


 イヴァンは、力強く頷いた。


「分かった、すぐ行こう。」

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