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終わった物語  作者: 大地凛
終末のアラカルト・第一章━━死霊編
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墓所の調査と対応の齟齬

 城下は、至るところに煙の残渣が残っている状況であった。低いうめき声が、騎士団員の担ぐ担架の上から聞こえてきた。


「オイ、ジャックス、ガリエノ。お前ら大丈夫なのか、街なんかに出てきてさぁ。」


 つっかかってきたのは、騎士団第四小隊のディルヴァ・ギネヴィアーズだ。騎士団に入った頃には、ジャックス、ガリエノ、ディルヴァとその他数名で、よく飲みに行ったものだった。今もその親交は続いている。


「へっ……、やるしかないんだヨ。お前らはそこで頑張ってナ。」


 ディルヴァは、そうかいそうかいと苦笑した。



「おい、ガリエノ。確認できたぞ。墓所の周辺には強力なマナの反応も、残留マナも、加えて通常のマナもないと。大魔導師様のお墨付きだ。」


「それなら黒魔術も使えないな。よし、行くか。」


 一行はゆっくりと、石造りの家々の間を縫うようにして墓所へと向かった。重苦しい空気が取り払われた代わりに、いつも以上の静けさが鎮座する街をひたすらに歩いた。墓所へと続く道は、いつしか大通りから小路地に変わっていた。これが近道だと前行く二人は言うが、光は見通しのいい道を選んだ方がいいのではないかとも思った。



「さて、着いたナ。」


 砂を蹴る音で、整備された路面から、未整備の道に行き当たったことに、はたと気づいた。それまでは、ずっと下を向いて歩いてきたからだ。


「けど、なんもないんじゃないんですか。」


 普段通りに見える墓所を目で示し、光は騎士団の二人に声をかけた。木の葉の揺らめきが幽霊の手招きのように感ぜられる以外は、別段不思議なところもない。


「はぁ、一体なんだったんだ、あの霧は。」


 墓所の入り口で、じっと中の様子を伺う一行は、しかし、ここに延々といる訳にもいかないので、慎重にその中へと入っていった。


「……あー、見ろヨ。名前が足されていやがるゼ。」


「でも、もう術は発動しないようね。」


 件の六芒星の頂点には、新たに出た犠牲者の名前が刻まれている。ガリエノは、事件の大元となったこの墓石を睨み付けるように見ていた。未だに番人は分からぬままであり、真相も明らかになっていないのだ。だが、これ以上の犠牲者は出ないという安心感も、一行の中にはあった。


「はぁ、今頃術者は何やってんだろうな。」


「無能な騎士団のことを、隠れて笑っているんじゃないかしら?」


 ソフィーの毒舌を、ジャックスは苦々しげな顔で聞いていた。言い返せなかったのは、内心でその通りであると思っている彼がいたからであろう。



「じゃ、行くカ。調査も大体終わったしナ。」


「そもそも、こんなんで良かったんですかね……。」


 やや拍子抜けした感のある光に、アテナが笑んだ。


「大丈夫ですよ、多分。誰かがやるべきことをやったんですから。ね、ソフィーさん。」


 アテナに初めて名前で呼ばれたソフィーは、口を尖らせて、まぁね。とぼそりと答えた。



「大丈夫だったようです。」


 騎士団の二人からの連絡を受けたハルシュタインは、送話器を壁にかけ直した。報告を受け取ったイヴァンは、しかし無反応であった。何事かを考え込んでいるような顔つきに、ハルシュタインは当惑した。彼女には推し測れない、そして、どれ程皇帝に近しくとも分からないであろう皇帝の深奥が、口を開けているように感じた。


「陛下……?」


 呼びかけに対して、イヴァンは厳しい顔のままであった。長考の後、ふと頭を上げた彼は、そろそろとハルシュタインの方を向いた。その怯えたような表情に、ハルシュタインは戸惑った。


「……ハルシュタイン。もしかしたら、今我々は、非常にまずい状況なのかもしれない。……誰か、言っていたよね、これは帝国転覆を目論んだ反乱であると。」


 空気の微弱な振動に、不吉さを覚えたハルシュタインが窓の方を向くと……。


「な、何故結界が……。」


 王宮を守るために張られていた結界が、霧消していた。



 それは、光たちが墓所に着く少し前のことだった。王宮の門の前には、治療を待つ人たちがいたが、処置は全く間に合っていなかった。ただの怪我ではないために、王立病院の医師たちもお手上げ状態であった。


「ドクトル、どうします。我々では手の施しようがない。」


 ドクトルこと、ジョシュ・クレイモン医師は、丁度瀕死の女性の体内に残留したマナを半分程抜き終えたところであった。しかし、それらの治療のせいで、王城門付近のマナは、著しく安定性を欠いていた。このまま治療を続けることで、状況は良くなるのか。


 はっきりいえば、それは否であった。手際の悪さが一つ、治療の中断による人体への悪影響が一つ、不安定なマナが治療中、治療後の人体に逆流することが一つと、ここでの治療は難しかった。しかし、王立病院は先程まで靄の中にあったために、マナ関連の治療はできないと考えられ、影響のない王宮の最奥での治療が望まれていた。


「アトラス様、結界を解除するよう、大魔導師様に頼めないでしょうか。」


 ドクトルが結界の解除を依頼したのは、黒いマナに汚染された人は、結界を通り抜けることができないためであった。


「分かりました。ですが、恐らくは大丈夫でしょう。」


 そして、アトラスの考えていた通り、結界の解除には、さほど時間はかからなかった。城門に控えていた兵士や医師は、総出で搬入にあたり、傷病人を全員結界の中に入れることができた。

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