刃の如く
ガリエノは、メリアを掴んでいるのと逆の手で、影の服をつまみ上げた。
「ちいちゃな嬢さんかと思ったラ、魔法なんて使いやがル。一体全体お前さんはなんなんだイ?」
顔を覗きこむようにして、尋ねるガリエノに対して、じたばたともがくことで応える影。
「やっぱり、それ、メリアさんの人形……よね。」
「……間違いない、店で見たやつだ。」
そう、尚も手足をばたつかせる影の正体。それは、メリアの人形であったのだ。確か、先ほどメリアに、ロロ、と呼ばれていたが。そのことが露見したロロとメリアは、無念がった。
「……バレちゃったぁ……。」
「もう、だから行きたくなかったんだ!!」
今まで、誰にも知られないで生活してきたのだろう。そのせいもあって、二人、或いは一人と一体は、さんざんに嘆いていた。
「へーぇ、ほんとに人形なの……、あ、ほんとだ。」
空いた方の指で、ロロの肌を押したジャックスが、その肌の固さに、少し驚いて声を上げた。陶器のような感触であったが、そのペールオレンジの無機質な素肌は、どこか暖かみがあるものだった。それで、初め人間と見間違えたのも頷けた。光たちが店で見たときもそうであったが、姿形は、人よりも人らしい人形である。
「レディに勝手に触れるとは……、失礼ね!それでも騎士団員!?」
「いや、つまみ上げられてることには触れないのかヨ。」
「さっきからずっと触れてたじゃない!」
半ば諦めているのか、それとも疲れたのか、ガリエノにつまみ上げられるがままにされるロロ。不機嫌そうな顔のまま、目を閉じた。
「ところで、さっきからの口振りから察するニ、お二人さん、この怪しいやつらと知り合いだナ。ひょっとして、この前言ってた人形師って、コイツらなのカ?」
左手でロロを持ち上げ、右手のメリアを顎で示すガリエノ。光は首肯したが、ふと、疑問を感じた。
「あれ、二人とも調べてなかったんですか?」
「忙しくて忘れてたのヨ。」
それでいいのだろうか、まぁ、結局ここで会ったのだから、手間が省けたという考え方もできないことはないのだが。
「信じてください!私は犯人じゃないんです!」
「でもなァ、公式で自然死って発表されたのに、なんで『犯人』なんだヨ。」
「連続して不審死事件が起きただけでも大変なのに、わざわざ自然死です、なんて発表して、その上騎士団が警戒を続けてたら、誰だっておかしいと思うでしょ!」
縄で捕縛されたメリアとロロは、団員たち相手に、必死の弁明を試みていた。ここは騎士団の詰所。何人かの団員に囲まれた一人と一体は、正面に座るハルシュタインの尋問を受けている。
「あの、取り巻きは黙っていてくださると嬉しいのですが。」
かなり険のある口調で、ハルシュタインが騎士たちをたしなめる。威嚇のようにも感じられるその迫力に、剽悍の騎士団員もさすがに黙りこんだ。静かになった詰所の中で、改めてハルシュタインが尋ねた。
「つまり、その人形が数日前に、墓所で何らかの魔術儀式が行われているところを見たというのですね。」
「その質問何度目よ……。でも、そうよ。分かってよぉ。」
「それを証明できる人は。」
「だからいないって言ってるでしょ!?」
と、こんな具合で、尋問は先ほどから堂々巡りとなっていたのである。ロロの見た怪しい光の話も、他に目撃者がおらず、墓所で見つけた足跡も、気づけば他の人の足跡に紛れて分からなくなってしまっていた。
「どうしようかしら、とりあえず捕囚しておきますか。」
さらりと重大なことを言うハルシュタインに、メリアとロロは青ざめた。このままでは、無実の罪で罰せられてしまう。
「どどど、どうしよう……。打ち首獄門引き回しなんてことになったら……。」
「あなたは人形だから、く、砕かれておしまいよ……。」
「何もそこまで言ってはいないのだけれど。どちらにせよ、無罪である可能性がある以上は罰することはできないわ。」
しかしそれは、裏を返せば、無実が証明できなければ解放もされないということだ。ということは、このまま解放されずに月日が経っていくということもあり得るということだ。万事休すか。とメリアとロロは顔を見合せた。
その様子を、光とアテナは、騎士たちの輪のさらに外から見ていた。皆逞しい男たちであるから、尋問の成り行きを伺うためには、背伸びをするなり、体の間からうまく顔を出すなり、工夫をしなければならなかった。
「……でも、あの人が嘘をついているようには見えないけど……。」
光が何となしに呟くと、アテナも首を縦に振った。しかしながら、状況はメリアとロロにとって、明らかに不利であった。これが覆るには、何かしらの大きな一手が必要だった。
その大きな一手が、足音も軽やかにやってきたのは、ちょうどメリアとロロが騎士団員たちに連れられて、座敷牢へと向かおうとしていたときだった。
かちゃり、と小さな音を立てて、詰所の扉が開かれた。屋内の面々の視線が、扉の外にいる人物に注がれる。その幾多の視線に臆することなく、彼女はツカツカと靴音を立てながら、中へと入ってきた。
「ほんと、ダメダメだわ。」
そして開口一番、彼女は批判の言葉を口にしたのだった。




