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終わった物語  作者: 大地凛
終末のアラカルト・第一章━━死霊編
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秘めた力

「どーすんのよ!!見つかったじゃない!!」


 小さな拳を丸めて、太もものあたりをぽかぽかと叩くロロ、痛くはないが、声が漏れるのは、いささかまずい。


 すでに、墓所の入り口にいた数名の人間は、墓所の中に入ってきている。メリアとロロが隠れた場所は、墓石の背後の茂みの奥。ここから出るとすれば、道も何もないところを通らねばならなくなる。そうすれば、音でバレてしまう。しかし、かといってここに座り続けていては、いつ見つかるか、分かったものではない。


「こうなったら、さっと抜け出すよ。」


 そう言い聞かせて、メリアは、周りが静かになったのを見計らって、そろりと茂みから顔を出した。


 すぐに、ジャックスと目があってしまい、気づかれてしまったのだが。



「お前がこの事件の犯人なのか?」


 騎士団員の二人に取り押さえられて、じたばたともがくメリアは、ぶんぶんと首を横にふった。


「ち、ちょっと、二人とも、助けてよ!」


「……そんな、そんな人だったなんて……。」


「なんでこんなことをしたんですか!?」


 メリアの必死の嘆願。だが、この状況で、それが誰かに届くということはなく、アテナは目を伏せて、光は混乱し、メリアを疑う。


「だーかーら、誤解だって!」


「あー、分かっタ分かっタ。続きは詰所で聞くかラ。」


 そうして、連行されていくメリア。引きずられていく彼女は、とうとう最後の手段に出ることにした。


「こっ、こうなったらぁ……、逃げるが勝ちだよ!ロロ!」


 後ろの茂み、メリアが先ほどまで隠れていた茂みに向かって、鋭い声を発する。すると、それに応えるかのような声が聞こえた。


「チキショー!もうどーなってもしらないからね!」



 突如、茂みから、小さな影が飛び出してきた。


(猫か犬か。いや、違うな。)


 とっさに状況を判断する騎士団員の二人。不測の事態に対応する術は、日頃の鍛練で身につけているはずだ。


(しかし、ありゃなんダ?人カ?)


 だが、そんな二人を。戦闘のプロの目を持ってしても、その影の正体が何なのか、分からなかった。否、影の正体は分かった。真に問題となっていたことは、影と、彼らの経験則の間に若干の齟齬が生じていたということである。


(小人カ、妖精カ、はたまたゴブリンなのカ。……さてさて、コイツはどうするべきなんダ?)


 影は、メリアに、それを押さえる騎士団員たちと、光、アテナの間に、着地した。そこでようやく、光とアテナは、その影の正体を見ることとなった。


「……そこの、片言のあんた、なぁんか失礼なこと考えてるんじゃない?」


 じっとりと睨み付けるような目で、ガリエノに迫る影。ドスを聞かせたつもりなのかもしれないが、全く迫力のない声と共に、役には恐らく立たないであろう、木の枝を握って。


「まぁ、そんなことはどうだっていいんだ。早く、メリアを放せ。」


「いや、無理だよお嬢ちゃん。」


 相手の正体がはっきりと分かり、いつもの軽口を取り戻したジャックスが答える。顔をしかめてたじろぐ影に、メリアが口だけを動かして、『頑張って。』と伝える。影は、『いや、無理だって言ってんじゃん。』と口を尖らせる。


「なにやってんだか、この二人はさァ。のんきなモンだネ。」


 思わず失笑する、騎士団の二人の様子に、影は幾分か不快に感じたようだ。口を尖らせたまま、頬を膨らませ、いよいよ不愉快の感の極まるといった表情である。


「…………なめないでほしいんですけど?」


 そう言うと、影は、木の枝を握り直した。すると、その先に青色の光が燈る。それを見た騎士団の二人の顔は、一瞬固まり、すぐに戦闘体勢に切り替わる。『魔法』の発動の合図だ。この距離で魔法を使われれば、怪我だけではすまない。もろに食らえば、の話ではあるのだが。それもこれも、全ては影が、どれほど魔法に熟練しているかだ。


「この雑草だらけの場所で木属性とは。」


 厄介な。という言葉を飲み込む。その代わりに、息を吐き出すと、剣の柄に手をかけた。ジャックスがそうしたように、ガリエノもまた、いつでも剣が抜ける状態にする。騎士団員が常に二人組以上で行動するのは、もし片方が戦えなくなったとしても、任務を遂行できるようにである。


「今、メリアを解放してくれたら、あなたちはみぃんな助かるけど、もし放さなかったら……、分かるね?」


 一段と密度が濃くなる青色の閃光。しかし、メリアを放す訳にはいかないのである。ジャックスとガリエノは、それぞれ片手を、メリアの拘束のために使っている。故に、戦闘となれば、少なくとも一人は女性一人を放さぬようにして、戦わねばならないのである。


 二人は覚悟を決めた。もとより、このようなときのための相棒である。


 ジャックスの爪先が動く。少し遅れて、ガリエノの脚も反対へ動く。影は、メリアから離れた方へ、魔法を見舞ってやろうと狙いをすました。その集中するあまりに、影は、メリアが何かを言ったことに気づかなかった。



「…………えい。」


 ポンッ。


 気の抜けた声と、気の抜けた音がした。数秒後、墓所の上空に、青色の花火のように見える光が燈った。


 自らの乾坤一擲の一撃が、呆気なく霧消したのを見て、影はへなへなと崩れ落ちる。メリアは、あちゃー、と頭を押さえる仕草をした。


 影が魔力を溜めているその最中、メリアは見ていたのだ。影の背後から、アテナが近づいてきていることに。気づいて声をかけようとしたときにはもう遅く、影は後ろから腕を持ち上げられて、魔力を固めた玉を、空へと放ってしまった、という訳だ。

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