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終わった物語  作者: 大地凛
終末のアラカルト・第一章━━死霊編
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不吉な予感と夜の帳

 翌日から、ワルハラ帝国の王都中の騎士、憲兵たちが墓所の周辺に待機し、不審者の捜索、怪異の調査、墓所の警備を、輪番で行うこととなった。騎士の中には、これで騒動も落ち着くだろうという楽観視をする者もいた。


 しかし。



「おい何してる、お前ら、早く行くぞ!」


 墓所の警備をしていた兵たちの元にやってきたのは、第三小隊所属の、ヴィアラ・マクマホンだった、彼は掠れたような声で、王都の南の区画において、怪死事件が起こったと告げた。無論、この報告に兵士たちは動揺を隠せなかった。すぐに繋いであった馬や馬車に乗り込むと、あわただしく風のように駆けていった。



 南の一般市民区画の裏路地で、女は殺されていた。また、前回の変死事件のときと同じように、どす黒いマナを纏っていた。誰もが、殺害された人々は、何らかの魔術儀式のための人身御供なのだと悟ったのである。



 一方、墓所周辺の治安維持と巡回の役割を負っていたジャックスとガリエノは、頭を抱えた。


「おいおいどうする。墓所が怪しいって報告したの、俺たちだぜ?後でなんか罰が……。」


「今はそれどころじゃないだロ。被害者が増えないように、こうして見張ってるんダ。」


 あくまでも、ガリエノは冷静だった。それに彼には、一つの予想があった。それは、魔術儀式の要となる魔方陣についてである。


(あの魔方陣なら、墓石の頂点には捧げた人の名前が入るはずダ。それに、墓所という場所も気になるゾ……。)


 人も立ち入らず、普段は濃密なマナで満たされている空間。その状況を使って何かをしようとする者がいても、おかしくはないのである。ガリエノはそう踏んで、あえてこの場を動かなかったのだ。


 しかし、とうとう怪人物は現れないまま夜になった。その日の内に警備する区域は、王都全体に広げられ、結局ジャックスとガリエノの二人も新しく割り振られた管轄区域である、北西区画に向かったのであった。北西区画は、官僚や軍人の居住地区である。恐らく警備担当の兵士も、最も多いであろう区画だ。


 だが、幸か不幸か、引きが強いのか否か。ジャックスとガリエノは、その北西区画において事件の現場に遭遇してしまった。



 時刻は、手元の時計で深夜、夜の神(トヴァリ)の一の刻を指し示す。今日は当番の日ではなかったはずなので、いつもならば寝ている時刻である、と二人はため息をついていた。


「まぁ、仕方ないけどな。あ、そこの裏路地もちゃんと見ないとな。なんせ今までの事件、人の目の届かない場所で起きてるんだし。」


 手元の、火の魔水晶のランプをかざしながら、ジャックスはそう呟く。ガリエノに語りかけているのか、それとも独り言か、それとも見えない怪人に対して話しているのか。或いはそれら全てなのかもしれない。


 路地を数歩ほど歩いた、そのときであった。闇の帳を裂くようにして、断末魔の如き絶叫が路地の奥から聞こえたのは。二人は目配せをして、ランプを前につきだすようにして、声のした辺りを目指した。


「あ、おい。あそこだ。」


 ジャックスが指さす先には、黒に近い藍色の燕尾服を着た初老の男が倒れているのが見える。先ほどの悲鳴は、あの男性が上げたものに違いなかった。男を助け起こしたガリエノは、その顔をランプで照らして驚いた。


「あ……、こ、この人ハ……、ファルシエル・ランドンじゃないカ!」


 ファルシエル・ランドンは、ワルハラ帝国諮問委員会の副委員長を務めている政治家である。なぜ、こんな時間に、こんな裏路地にいたのかはいざ知らず、彼が三人目の犠牲者であることは、疑いようがなかった。


「だめだ、もう手遅れだ。」


 半身を、ゆっくりと寝かせる。死体独特の気味の悪い重さがずっしりとのしかかってくるのが、命の有無の違いを際立たせていた。 特に、こんな風に淀んだマナを纏っていては、必要以上の重みを感じるのも無理はない。


「とりあえず、俺はヤツを追うからナ。」


 丁度そこに、声を頼りにやってきた少数の兵士たちが到着した。ガリエノは、ファルシエルの亡骸の見張りを相棒(ジャックス)に任せると、自らは兵士たちの先頭に立って、怪人物を追いかけていったのだった。



 しかしながら結局のところ、兵士たちは逃亡した怪人を見つけることはできなかった。必死の捜索にも関わらず、その姿はおろか、影さえも捕捉することができなかったのだ。だが、真に恐ろしかったのは、墓所の六芒星の頂点に、犠牲者の名前がつけ足されていたことであろう。この事実は、屈強で知られる騎士団の面々にとっては、珍しい恐怖心をもたげさせたのである。


 報告を受けたイヴァンの命令により、この魔術儀式のことは、民間には伏せられ、あくまでも自然死として公表された。だが、戦争の直中にあるということもあって、民衆の不安を拭い去るということはなかったのであった。



「おいおい、どうすんだヨ。」


 引き続き、王都の巡回を行っている騎士団の面々は、民衆の不安げな視線を受け続けている。これは、帝国始まって以来、最悪の非常事態と言っても良かった。今までも、帝国の転覆を狙う魔術儀式や反乱、一揆の類いが、なかった訳ではない。しかしながら今回は、戦争と同時に起きているのだ。憂慮の波は、国内で増幅し、民衆を押し流さんとしていたのだった。

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