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終わった物語  作者: 大地凛
終末のアラカルト・第一章━━死霊編
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喧騒

 翌日、光は外の喧騒の音で目が覚めた。この時間にしては、外が騒がしい。何かあったのか、と窓から伺おうとしたそのとき、戸を叩く音がした。来客とは珍しいと思いながら戸を開けると、オリバーと似たような服を着ている人物、つまり、騎士団の某が立っていた。その顔色は、今現在が異常事態であるという事実を、はっきりと訴えていた。


「あの、何か?」


 まだ寝ぼけているのだ、元来の寝起きの悪さは流石に自覚していた。騎士を相手に、生返事はいけないと思いつつも、ぼーっとしたまま答えることしかできなかった。


「いや、墓所で事件が起こってね。犯人を探しているのだが。」


 意識は、はっきりと覚醒した。鼓動が、突き上げるような感覚を伴い、大きく体内に響いたからだ。


「墓所ですか、何が……。」


 団員は、淡々と事件のことを述べた。


「明け方に墓所で人が倒れているのが発見されてね、瀕死の状態だったが、すぐに息を引き取った。診察した医師の所見では、自然死の可能性もあるということだったが、それでは説明のつかないことが多くてね。」


 死体が纏っていた淀んだマナも、その説明不可能なことの一つだった。光は、それを聞き、アテナが墓所で放った言葉を、思い出した。


『あるんですよ、こんな風に、マナの吹きだまりみたいな、窪地みたいなところが。』


 しかし、この団員の言うマナと、アテナの言うマナは、まったく異なるもののように、光は感じた。


 何かが引っかかる。しかし、その原因に結局至れなかった光は、何も知らないと言って、戸を閉めた。



 騎士団員も引き上げた後、光は、恐らく王宮にいるであろうアテナの元に向かった。件の噂と、不審死事件は、なんらかの関係があると思ったのだ。だが、マナを感じとれない光が、あれこれと考えても無明だということだ。


 対策本部の扉の前には、見知った人物がいた。それが、ワルハラへと向かう車両の中で出会ったエルヴェのメイド、イーリスであることに気づいた光は、至極当たり前の質問をした。


「あ、えっと、イーリスさん? なんで掃き掃除なんかしてるんですか?」


 イーリスは、困ったような顔で、箒の柄を握りしめた。そして小さな声で、大臣に頼まれましたので。と返した。


「何でまたエルヴェ大臣は掃除なんか……。」


「それは……いえ、理由は特にないんです。」


 それだけ言うと、イーリスはノブに手をかけて、扉を開けた。その中にいた人物━━エルヴェは、扉の向こうの人物が誰かを確認すると、すぐに手元に目線を戻してしまった。どうやら、本を読んでいるらしい。


「……エルヴェ大臣、何をなさっているんですか?」


 椅子にどっかと深く腰かけ、ふんぞり返って書物に目を通す彼。答える気のない素振りの大臣に代わり、イーリスが答えた。


「えと、大臣は調べ物があってここに来たのです。確か、ノアキスについてでしたよね。」


「ん。」


 どうやらそれは、肯定の意味らしかった。なぜ大臣が、こんなところに来てまで資料を見ているのか、話を聞くと、どうやらここにある資料以上に詳しいものは、王宮図書館にしかなく、その中でも国家に関わることは、半ば禁書指定されており、見ることが難しい。ましてや仕事ではなく、興味本位ではなおさらだということだった。


「ということは、大臣は気が向いたからノアキスについて調べているということてすか。」


 イーリスは、首を横に振った。


「いえ、そういう訳では……。ここだけの話ですが、図書館で調べれば、問題になるようなことをやっているようで。私が見張りをしていたのは、そのためです。ヒカル様とアテナ様は、止めて置けば、返って怪しまれるので。」


 耳打ちするように顔を近づけるメイドに、多少の恥らいを覚え、後退する。そうして、一歩だけ下がり、俯瞰で見ることで、今の状況が掴めてきた。図書館には劣るだろうが、ここの資料は、現地で集めた一級のものが揃っている。何か、調べものをするのには、絶好の穴場であった。だが、だからこそ、それを誰かに見られるのはまずい。自分が、ここの人間ではなかったら、追い返されていたのだと悟った。


 とりあえず、大臣が何を調べているのかは、聞かない方がいいだろう。邪魔にならないように外に出た光は、壁に凭れて、アテナを待つことにした。




「……ハァ……ハァ……。やっと着いた。ヒカル君、今日は早いですね。」


 若干寝坊気味のアテナが駆け寄ってきた。光は、うん、まぁね。とすげなく返す。本当のところ、言葉を返すにも、なんと言えばいいのか分からなかったのだ。朝から暗い男だと思われるかもしれないが、礼を欠くことを言ってしまうよりかは幾分かましに思えたのだ。無論、アテナはその部分に関しては、なにも言わなかった、その事実に甘えて、自分の悪いところを隠そうとしているのであった。


 マリアの言う、蓋をした状態であった。


 さて、聞き込みだけでは効率が悪いと判断した二人は、騎士団の詰所に行くことにした。オリバーから頼まれた仕事だが、その墓所で起きた事件の捜査に、駐在していた騎士がついに乗り出したのだ。こうなったら、いっしょに調査を行った方がよさそうだ、人手は多い方が助かるし、危険なことだから騎士と行動を共にした方が安全なのだ。


 オリバーの考えとしては、自分たち騎士団の管轄外の事案の解決のために、二人に協力を依頼したのだろうが、死人が出てしまっては、二人だけでの解決は難しくなる。無論、この時点では墓所の不審者と不審死を結びつける証拠は何一つなかったのだが、それでも二人は、なにかつながりがある、と半ば確信めいた推測をしていた。先行して墓所へ行ったことが、捜査の手助けになればとも思ったのだ。

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