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終わった物語  作者: 大地凛
終末のアラカルト・序章━━創成
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大きな駆け引き

「ほう、どういうことか、聞かせてもらおうじゃないか。」


 臆することなく、イヴァンはルードヴィヒに噛みつく。だが、ルードヴィヒからみれば、それは『開き直り』に他ならなかった。


 元来、ワルハラとシメリアは、仲が悪かった。歴史あるワルハラと、新興のシメリア。そのシメリアは、同じく新興のシレヌムと同盟し、瞬く間に勢力を広げ、遂にはワルハラなどと肩を並べる大国となったのだ。そうした道のりがあったのだ。だが。


「だからといって、なぜ僕が疑われなきゃいけないんだい。」


 濡れ衣だ。とそう言い切りたかった。だが、国王の集まる席上でのこの発言。他国からの信用を失う結果に繋がりかねない。ましてシレヌムやシメリアは他の大国に、地理的に囲まれているのだから、信用を失うことは、自国存続の根幹を揺るがす事態になる。


 だからこそイヴァンは、自分の知らないところから、その陰謀とやらの証拠が出てくることを恐れた。例え自分に覚えがなくても、自国が関わっていれば、大問題である。


 これに、ルードヴィヒが答えた。


「今日の今日まで戒厳令を敷いて秘匿していたため、ここにいる王侯が知らぬのも無理はあるまい。先の月の二十八の日、演説を行っていたシメリア皇帝リヒャルトが、馬車に乗ろうとした時に暗殺された。」


 決定的な言葉が放たれ、王侯はざわついた。ルードヴィヒは、その反応を確認すると、続けた。


「暗殺犯は、シメリア国内にいるワルハラ人の下級役人に依頼され、暗殺を行ったという。そして、その役人を尋問したところ、お前の名前が出てきた、という訳だ。」


 そんなことか、とイヴァンは感じた。確たる証拠あっての行動だと構えていたために、よも、このような不確かで、いくらでも捏造できるものを出されるとは思わなかったのだ。尋問によって引き出した証言というのも、その証言を導き出すために拷問紛いのことをすれば相手はそう話さざるを得ないのであるし、そもそも調書を書き換えれば、なんということもない。いや、もしかしたら、取り調べ自体も捏造かもしれない。


 ともかく、イヴァンにしてみれば、いくらでもひっくり返せる讒言であった。となると、問題は、なぜルードヴィヒはこんな明け透けな言葉を、よりにもよって諸王侯会議の場で発したのだろうか。下手をすれば、他国の不信感や反感を買い、戦争を仕掛けられてもおかしくはないのだ。


 いや、或いは。


「僕はそんなことを指示したこともなければ、いくら反目していたとはいえ、敵国王を暗殺するほど落ちぶれてもいない。もし、敵が邪魔ならば、戦って決着をつければよいだけのこと。」


 会議の座がざわついた。イヴァンはルードヴィヒに、先の発言を撤回しなければ、戦争を仕掛ける。と遠回しに言ったようなものだったからだ。


 ルードヴィヒは微動だにしない。その真意が読めないイヴァンらは、当惑した。このままでは、本当に戦争が始まってしまう。いや、ルードヴィヒのことだ。やはり戦争を仕掛けさせようとしているのだとイヴァンは目当てをつけた。戦争を仕掛ける加害者になるより、戦争を仕掛けられる被害者になった方が、国内世論はまとまりやすい。


(シレヌム帝国は、内部分裂が激しい。だが、それはワルハラも同じだ。内の結束を促しつつ、我々の分派を一つ一つ潰して、覇権を手にしようという算段か。)


 ちらりと、他の王侯を見回す。ギュスターブは腕組みをして、じっとこちらを伺っている。クロードは、ニヤニヤしながら、どうなるかと見ている。フェリクルスは、会議をどう軟着陸させるか、両脇の王と話している。目線を戻す、ルードヴィヒの横にいるカタリナは、うつむいて、こちらを見ようともしない。


(もしシレヌムと戦争になったら、誰が味方になってくれるのだ。誰がシレヌムにつく。戦争にならなくとも、政治的繋がりを強めた方がいいのは……。)


「おい、イヴァン。」


 ルードヴィヒの声で、我に帰る。声の調子が一段下がったことから察するに、戦争をするか否か決めるのだろう。ルードヴィヒは、いつの間にやら、カタリナの代弁者としての役目を利用し、イヴァンとの戦争を主導しようとしていた。だが、戦争となれば、ワルハラは、シレヌムとシメリアの両方を相手にせねばならない。それは、かなり不利だ。


 となると、外交関係を鑑みるに、ワルハラはプロメタイ、ヴェイルと連衡する他ない。そうすれば勝算は十分にある。イヴァンはギュスターブに目を向けた。彼は瞬きしただけだったが、イヴァンはそれを承諾の合図と受け取った。


「貴様の卑怯な行いで、シレヌム、シメリアの首脳部では、開戦すべしの声が日増しに大きくなってきている。イヴァン、この場で罪を認めなければ、戦争は避け得ないと思え。」


「は。罪を認めようが、認めまいが、どうせ戦争を起こす気であろ。ならば同じだ。なぜ、罪を認めなければならないんだ。」


 言い切ったイヴァン。しんと静まりかえった部屋の中に、拍手の音が二つ重なる。


「その通ぉりだよなァ、オイ。ルードヴィヒ(そちらさん)の言ってるこたァ、信憑性もねェじゃねぇかよ。」


 プロメタイ皇帝、ギュスターブもまた、頷く。しかし、その他の国は言葉を発しない。尚も態度を決めかねるのか、とイヴァンは苛立ちを感じた。


 しかし、彼らが考えていることは、イヴァンの想像とは違った。どちらにつくか、決めかねていた訳ではなかった。多くの国が、シレヌム方についたのだ。かくして、諸王侯会議は、ルードヴィヒ方の王侯が退出したことで、解散となった。



「ノアキス王国、ブリューテルブルク公国、カッシーニ王国、いずれも中立だろう。我々は、難しい状況になったな。」


 重々しく、ギュスターブが呟く。三国の会合は、延べ数時間に及んだ。世界情勢を鑑みれば、数的劣勢に立たされていることは最早明らかであり、有効な手立てがあるでもないのに、軽率だったとは思うが、しかしそれでも、シレヌムとの開戦へと向かったのは、予想外であった。


「密約でも結んでいたか。そうでもなければ、自信を持って啖呵を切るなど、できる訳がない。」


「いぃや、案外、堂々と余裕を見せることで、中立派諸侯を味方陣営に多く引き込んだのかもしれねェぜ。」


 過ぎたことを悔やんでも仕方がない。今は対シレヌム、シメリアの作戦を練らなければならない。だが、結局、その場で解決案は出ず、各国は各々、自国に戻り、外交圧力をかけ、戦争を回避しようとした。


 しかし、事態の変化はそれより速かった。


 アーデルクを離れてわずか五日後、列車の中にいたイヴァンは、途中の駅で、緊急の通信だと言われ、一度車両を降ろされた。


 駅舎の中では駅員が、据付けの電話の受話器を持って待っていた。緊急だというので、奪うようにしてそれを受け取ったイヴァンは、誰だ、何があった。と聞いた。電話をかけたのは、アーネスト大公だった。ひどく狼狽した様子だったのは、受話器の声からひしと感じられた。


「シ、シレヌムから、最後通帳が届きました。陛下、奴らの言っておることは出鱈目です。それであるにも関わらず開戦とは、こんな理不尽がありますかや。」


「仕方があるまい、ことここに至っては、開戦回避など不可能だ。すぐに、僕の名前で総動員令を発動するんだ。攻勢をまともにくらえば、ワルハラは内部からも瓦解する。」


 正に内憂外患だった。しかしそれは、プロメタイ、ヴェイル、シレヌムやシメリアもまた同じことだ。ならば、せめて自分たちだけでも守らねば。


 イヴァンの命によって、二日後には総動員令が発令された。その翌日には、プロメタイ、ヴェイルもまた、戦争の準備に入ったのだった。

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