ワルハラの風
「馬鹿みたい。そんな下手な筋書き、まさか本気にしてる訳じゃないですよね。」
ハルシュタインが言う。だが、それに賛同する者は、少なくともこの空間にはいなかった。オリバーの話は、光の周りで起きた失踪事件と酷似していることもあり、現実離れした話にも、信憑性が産まれていた。
「それが、本当にしろ、嘘にしろ、今の話は全部俺がその町人から聞いたことだ。どうだ、光、俺の話は役にたったか?」
「それはもう、もちろんです。今までそこまで詳しい話は、聞いたことがなかったから。」
オリバーは、そうかそうか、ならよかった。と笑んだ。
「騎士団に入りたかったら、いつでも来いよ。俺も皆も歓迎するぜ!」
「本気で加入するとなれば、無論相応の覚悟は必要となりますが。」
オリバーとハルシュタイン。正反対の性格の二人に見送られ、光はカリーニと共に、詰所をあとにした。
「どうですか、騎士団は。団員は、皆優しい人たちですよ。きっとよくしてくれます。……そりゃ、正式に加入すれば、苦労もあるでしょうけど。」
後半を口ごもるように、カリーニが言う。光は、否定こそしなかったが、肯定もしなかった。
「まぁ、それは今後決めます。」
それだけは、はっきりと告げた。カリーニは、それを聞いて安心したのか、ほぅ、と息を吐いた。
「とりあえず、私が案内できるのは、ここまでですかね。私はあくまで秘書だから、王宮の外で何かするってときは、助けることもできませんが。その代わり、王宮内のことだったらお答えできますよ。」
「本当にありがとうございます。これからのことは、これから決めようと思います。まだ、来たばっかりですし。」
光は、カリーニに頭を垂れた。それを見たカリーニは、いやいや、そんな、当たり前のことをしたまでですから。と両手を振った。
カリーニと別れた後、光は、王宮内を散策することにした。城下で、適職を探してみるのもいいかとも思ったが、一人で城下に行くのはいささか不安であったし、王宮内がどうなっているのか知りたい気持もあったので、探検をすることに決めたのだった。
先ほど使った入り口から再び王宮の中に入る。廊下を行き交うメイドたちから、希有なものを見るような目を向けられたが、ここへ来たばかりなのだから仕方ない。ただ、もう少し身なりに気をつけるべきだったかと後悔した。きちんとした服を着ていれば、見た目だけならこの王宮の中でも違和感がなかっただろう。
参謀本部を通り過ぎ、真っ直ぐな廊下を進んでいると、向こうから、一組の影が歩いてくるのが見えた。それは、光の知る人物、エルヴェとそのメイド、イーリスだった。イーリスは、影のようにエルヴェの後ろを、一定の距離を保ちつつ歩いていた。
「こんにちは。」
光が挨拶すると、エルヴェは軽く会釈をした。イーリスは、思いがけない再会に驚いているようだった。
「あぁ、光とやら。調子はどうだ。」
「まぁ、いろんなことが一気に起こり過ぎて、正直何をしていいのか分からないです。」
その答えを聞き、エルヴェは、はっはっは。と豪快に笑った。
「そうか、ならば仕方ないな。手伝えることがあったらば、なんでも儂に言ってみるがよい。」
光は不思議に思った。まだ二回しか会っていないエルヴェが、ここまで自分によくしてくれる理由が分からなかった。ワルハラまで自分を連れてきたヨハンと、参謀本部の面々ならともかく、エルヴェはなぜここまで優しくしてくれるのか。そのことについて光が問うと、ただ一言、陛下の命令であるからな。と答えた。
「あの……、ワルハラはどうですか、光さん。」
口をつぐんだエルヴェと交代で、イーリスが話し始める。もちろん、今まで会ってきたのは、皆いい人だったので、素敵な場所だと言った。
「王宮の人たちは優しいし、街は発展してる。それに自然もたくさんだったし、いい国だと思う。」
光は、列車の車窓から見える風景や、馬車から見えた街並み、そして、王宮の面々を脳裏に思い浮かべて言った。
「そうですか。それはよかったです。また、何かあったら、私でよければ、どうぞ、いつでも言ってください。お力になれるよう、力を尽しますから。」
光は、二人に礼を言うと、二人の歩いてきた方向に向かって、再び歩き始めた。




