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終わった物語  作者: 大地凛
終末のアラカルト・序章━━創成
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偏屈な才人たち

  「おかえりなさい、ヨハンさん!」


 部屋の中には、二人の人間がいた。その内一人、銀髪の女性が声をかける。いきなり振り向いたため、持っていた盆が大きく揺れて、乗せてあったティーポットがぐらりと傾いた。


「……っと。危ない危ない……。あら、ヨハンさん、その子は?」


 盆の上の食器の位置を直した女性は、そこで初めて、ヨハンの後ろに影のように張り付いた少年の存在に気づいたようだ。髪をかき上げながら尋ねる。


「あ……、はじめまして。高橋光といいます。」


「出張の成果、結果、戦利品なのだが。」


 微笑を浮かべ、ヨハンは得意気に言う。その発言の意味を理解した女性は、ポン、と手を打った。


「なるほど、能力者とは彼のことでしたか。ふむふむ……、どんな能力を持っているのですか?」


 眼鏡を押し上げながら、女性が問う。しかし、その問いの答えは誰も知り得ないために、光とヨハンは窮した。


  まだ、能力を開花させていないことを伝えると、女性は納得した顔になった。彼女もヨハンと同じく、光から発せられる魔力は感じとっていたらしかった。



  「……カリン、質問なのだが、総長は何をしているのだ。」


 ヨハンが女性に言う。女性はカリンという名らしかった。カリンは、困ったように、部屋の奥に目をやった。部屋の奥には、もう一人の人物がいる。組んだ指の上に額を乗せ、机にもたれるようにして、椅子に腰掛けている。と言えば聞こえはよいかもしれないが、その実、寝ているとしか思えなかった。かすかに聞こえるのは、恐らくは寝息だ。


「見ての通りです。」


「質問を変えよう。総長は、どうして参謀本部の(デスク)で寝ているのだ。」


「さぁ。」


 ヨハンはため息をつく。総長、ということは、参謀本部の中でも最高位の人物である。それほどの人物にしては、やはり威厳がないといえよう。


  総長に近づいていくヨハン。その様子を見ながら、起こさない方がいいですよぉ。と忠告するカリン。ヨハンは、耳を貸さずに、総長を揺り動かす。


「…………、はっ。な、なんだなんだ。」


 がばりと起き上がる総長。投石機のような動きに巻き込まれないよう、ヨハンは後退りする。総長は、誰が自分を揺らしたのか気づくと、その赤く、小さな目でヨハンを睨んだ。


「おはようございます、総長。」


「おはようではないよ、ヨハネス君。昼寝する上司を起こすものではないね。あ、そういえば。おかえり、ヨハネス君。長旅ご苦労さん。」


「……ただ今、戻りました。」



  部屋の中の四人は、同じテーブルで紅茶を啜っている。光の家にあったものと比べれば、その品質の良さは明らかだ。ほのかに立つ香りは、鼻腔を撫でるように通りすぎる。


「しかしまぁ、国王も無理をしたものだ。ここまで首尾よくことが進むのも、珍しいといえば珍しいね。」


 ちらちらと光の方を見つつ、総長が呟く。引っ掛かりを感じた光は、思わず突っ込んだ。


「首尾よくって、うまくいかないことは……、いや、あるか。うまくいかないときは、どうなるんですか。」


 総長は、痛いところを突く、と言いたげな顔をした。つまりは、強行、ということか。これ以上詮索するのは、あまりよくないだろう、と判断した光は、黙ってカップを傾けた。



  「少し落ち着いただろう?」


 底の見えたカップを眺めていた光に、ヨハンが語りかける。光が頷くと、ヨハンが立ち上がった。


「では、今後の話をせねばな。」


「……そうですよ。俺は普段、何してればいいんですか?」


 出発前、ヨハンの話の中で、暮らす場所はある、と伝えられていた。それは、ワルハラの首都にあるヨハンの家だ。調査の結果の情報を付き合わせたり、謎の核心を推理するにあたって都合のよい、邪魔の入らない場所であるとは思うのだが、ヨハンが仕事をしている日中は、どうしていればいいのか。よもやずっと家で待機している訳にはいかない。そんなことをしていたら、気が滅入ってしまう。


「そんなこと、自分で考えるのがよいと思うのだが。」


「えぇっ!?」


 予想外、まったくの予想外だった。そこまで根回しがされていると思ったのは、考えが甘かったか。すると、頭をかかえる光と冷笑するヨハンの間に割り込んだカリンが、机に肘をついて、ヨハンに言った。


「そんな意地悪なこと言わないでくださいよ。彼だって、突然のことが次々起こって、大変なんですから。」


(まったくです。その通りです。)


 心の中でカリンに謝意を抱きつつ、ヨハンに向き直る。


「む、確かに。まぁ、光のこの先の生活の問題など、考えていない訳がないのだが。」


「ふふ、ですよね。ヨハンさんはこう見えて優しいですから。」


 指を口に当て、悪戯っぽく言うカリン。それを見たヨハンは、いささか不満そうだった。このヨハネスという男は、見た目より幾分か和らいだ中身を持っているのだろう、と推察された。


「一応、考えているのは三つ。一つは、参謀本部にくる。一つは騎士団に行く。あとは、うん、王宮に居座って(まいな)いを受けるか、なのだが。」


 一つずつ指を立てながら、ヨハンが説明をしていく。


  参謀本部は、今いるこの場所である。つまるところ、作戦を立てたりするところだ。ただ、光がそこにいることが、彼らの仕事の邪魔になっては悪いと思ったため、脳内で立っていた一本目の指はたたむ。


  騎士団というのは分からなかったが、恐らくは、騎士団というのは、戦いを生業とする、皇国の忠臣、といったところであろう。ただ、賄いを受けるなどかは、もっての他であった。しかしながら、騎士団の生活が自分に会うとも限らない。何か、別の可能性も考えておかねばならないかもしれない。


  行くとしたら、まずは騎士団であろう、と答えると、ヨハンは、そうか、それがいい。と言った。口には出さなかったが、やはり参謀本部にいつかれるのは、迷惑であったのだろう。あからさまな安堵を漏らされるよりかはましだ。ちなみに、部屋の奥で耳を立てていた総長からは、あからさまな安堵のため息が漏れ出ていた。



  そうして、光はカリン、もとい、参謀本部付秘書のカリーニ・メストに連れられて、騎士団の詰所へと向かった。部屋を出るときに、カリンさん、と声をかけたところ、顔が赤くなったので、不思議に思ったが、どうやらカリンというのは参謀本部でのあだ名、といってもそう呼んでいるのは総長とヨハンだけであるらしく、普段呼び慣れていない人から『カリン』と呼ばれたことで、戸惑いと驚きを抱いたらしかった。ただ、焦ったのは光も同じである。それなら、ヨハンは教えてくれてもいいだろうに。と思った。当のヨハンは、今も本部で紅茶を楽しんでいるはずだが。


  気まずい雰囲気をどうにかしようと、光はカリーニに疑問を投げかけた。


「あの、騎士団ってどんな組織なんですか?カリーニさん。」


 銀髪を左右に揺らして歩くカリーニは振り返った。


「騎士団ですか。えぇと、どう説明すればいいんでしょうね。」


 腕を組んで考え込むカリーニ。このとき、光は、質問をしない方がよかったか……。と会話がなくなったことを後悔した。


  その後のカリーニの話を要約すると、騎士団とは、つまるところ自衛のための組織、及び戦争時の戦力ということらしかった。平時には、治安維持のために活動するそうで、いついかなる場合も『正義の味方であること』を求められる集団であるらしい。危険を伴う任務をこなすこともあるために、かなりの高給であるらしいが、それ相応の実力と働きがなければ駄目なのだそうだ。


「そんな人たちの中に入って、俺はやってけると思います?」


 絶対無理だ。という顔をして、光は言う。カリーニは、頬に手を当てて考えこんだ。首を傾け、長い髪が肩から流れる。


「うぅん、どうでしょうねぇ。今の団長も、農民から出世しましたし、小さいころは、ひ弱で気弱でしたし。」


 要は、修行次第ではどうとでもなる、ということか。問題は、その修行に光がついていけるか、なのだが。

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