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ゆっくりガオウ 〜1周年記念小説〜

作者: ゆっくりガオウ

1周年記念です。はい、今後ともゆっくりガオウをよろしくお願い致します。

 あれは今からどれくらい前だったかな……そうそう、だいたい俺が小学2年か3年の頃の話だ。俺の前に突然1体のロボットが現れたんだ。どっからきたのかわからない、変なロボットだった。そいつは体にハートをたくさんつけた奴でね。 しかも頭にはトサカのようなものまで生えているんだ。尻尾もハート型、足の裏にもハートがついている。なんでそんなにハートがあるんだって聞いたら、

「それが俺のアイデンティティだからさ。愛を感じるだろ?」

 って答えたんだ。はっきり言ってわけがわからなかったが、何故かその時の俺はすんなりそれを受け入れてしまった。そしてすぐに俺らは打ち解け、仲良く暮らすようになった。俺にできた初めての友達、それが奴だった。

 それから俺たちはかなりの時間を共に過ごした。朝起きる時も、俺が学校から帰ってきた時も、寝る時も、ずっと一緒だった。そのうち過ごしているうちにそいつのことが少しずつわかった。まずそいつは電池で動いていること。ロボットなら当然かもしれないが。次にそいつは水が苦手だ。これもロボットだし当然か。最後にそいつは、人を温めるのが得意だ。どんなに俺に辛いことがあっても、そいつがそばにいてくれたら心にできた深い深いクレバスが埋まっていく。削られた心がじわじわと治っていく。そんな気がしたんだ。

 だが、そいつとの時間は永遠ではなかった。なぜならそいつは強かったから。これも気づいたことで身体中には武器が大量に内蔵されていた。まるで戦うために生まれたのかもしれないってくらい。それでそいつはある日、旅に出てしまった。なんでもその武装をもってしても絶対に勝てない奴が現れたんだって。それで奴はそいつを超えたくなったようだ。だから旅に出ると。俺は奴を引き止めようとはしなかった。なぜならこれが永遠の別れではないような気がしたから。奴がまたいつか、いつの日にか帰ってくる、そんな根拠ない自信が心のどこかにあったから。

 旅の荷物をまとめた奴が出て行く。そんな奴の背中に不思議と涙は出なかった。ただ心の中にできたほんのわずかに小さなわだかまりだけを残して。

 それから俺は1人になった。部屋にはまだ奴と共に暮らしていた空気が残っている。この空気を俺はなかなか捨て切れなかった。きっと奴がいつ帰ってきてもいいようにするためだろう。そう勝手に決めつけた。それにしても相変わらず部屋の作りは変わらない。俺の心が変わらないせいだろうか。もう5年生になるというのに。あれから奴の連絡は来ない。ま、そのうち帰ってくるだろ。相変わらずなんの根拠もないけれど。でも一緒に暮らしていたからわかる。奴はきっと帰ってくる。俺と同じで性格も心も全く変わらないで、遊んだ後みたいに笑いながら帰ってくる。

 今日も俺は奴を待つ、なんの根拠も持たないまま。


 ある日、ふと見ると俺の周りを敵が囲んでいた。クラスの奴だった。比率的には男子の方が多いか。そいつらの目は妙にギラギラと輝いていて、傍目から見ても俺に敵意を向けているのは明らかだった。理由はわからなくもない。俺は他人から好かれないタイプだからだ。人という存在がさほど好きではないからだ。俺は人の誤解をよく招き、自分の考えを伝えられない性格でもあった。それで、人に何かをされてもそう簡単には起こらない性格でもある。

 したがって俺は格好のいじめの標的にされやすかった。クラスに俺の味方はいなかった。だって人間が嫌いな奴なんか、人間が好きになるわけがないから。俺は悪であいつらは正義、悪は決して正義には勝てない。そして悪人に味方もいない。そんな現実を俺は何も感じずにただ受け入れていた。嫌がらせも、正義の名の下に執行されるのは仕方がない。暴力だって愛のムチだと言えばそれは正しいこととなる。暴言だってその人を戒めていると言えば、それは正論となる。そんな理不尽を俺はひたすら受け入れた。

 そのうち自分の心が黒い何かで埋め尽くしているのがわかった。おそらくこれは正義の使者から与えられたもの。俺の心を埋め尽くし、今の俺を内側から壊そうとする正義そのもの。あいつらは今の俺を変えようとしている。そのためには、今の俺を壊す必要があった。正義の名の下に、正義の名の下に、あいつらは俺を壊し始めた。それが正義だと信じて疑わないから。


 そう思った瞬間、俺の頰を一筋の闇が伝った。全てを覆い、消してしまいそうな、最後のかけらとなった自分自身の象徴。悪、無限に広がる闇、俺そのもの、それが俺の心から溢れ出す。ドクドクと音を立てて溢れ出す。やがてそれは大きな波となり、俺自身を崩してしまいそうなくらい。

 そして俺は目から大量の闇を流した。枯れてしまいそうなくらい、自分自身がなくなってしまいそうなくらい。俺は誰にも見られないよう、誰も来ないような場所で、誰にも聞こえないくらい小さな声で、小さく小さく縮こまって、目から溢れ出す闇を手の中に吐き出した。

 そんな時だった。

「やっほー! なにしてんの? こんな隅っこで。」

 ふと、頭の上で明るい声が聞こえてきた。俺は目をこすりながら辺りを見回した。しかし誰もいない、そもそもこんなところに人が来るはずもない。気のせいか、それとも俺に向けた言葉ではないのかもしれない。

 と思ったら矢先、

「こっちこっち! 上だよ! 上!」

 今度はたしかに聞こえた。俺は声のする方、つまり上を見上げた。するとそこには、

「やっと気付いたね。どーも、はじめまして。僕はななしさんって言うんだ。」

 空中に立つ、1人の女性がいた。俺がその存在に気付くと同時に、彼女はストッと目の前に降りてきた。見ると髪の色はこれでもかと言うぐらい真っ白だった。白髪とかそういう感じではない。おそらく素で白い毛が生えている。それに身長が高い。女性にしてはかなり。ざっと見ても175cmはある。そんで……胸がでかい……めちゃくちゃ……

「あ、ちなみに僕、男だからね。たしかに胸とか大きいけど。」

 えっ!? 俺の頭はその言葉により数秒間フリーズした。こんな人が男だなんて、信じられない。かと言って冗談を言っているようにも見えない。だがしかし、そんなバカなとしか言えない。

「あはは、よく言われるよ。お前、本当に男なのかって。でも正直な話、僕自身もよくわかってないんだよね。実際、僕にはチ○コとかついてないしさ。あ、昔はちゃんとあったよ。今はないってだけで。見る? 見事にツルッとないから。ってなに? なんかお股の辺りが勃ってるよ。まさか、ぼっ……」

 俺は慌てて彼女、いや彼か。彼の言葉を遮った。たしかにこんなに胸が大きかったら、触ったらきっと柔らかいだろうな。いや、問題はそこなのか? それに彼が言った……股になにがないって……? いや、見ない。見たくもない。そもそも初めて会った人の股間なんて見るはずがない。というかこの人、いったいなんなんだ? 初めて会うのにこんなに積極的にからんでくるなんて。今は1人にして欲しいのに。勃った俺の股を見ないで欲しいのに。誰も俺に話しかけて欲しくないというのに。いや、1人だけいたか、今の俺に話しかけられる奴。むしろ話しかけて欲しい奴。俺に心のぬくもりを与えてくれる、体にハートをたくさんつけた奴。

「ふーん、それじゃ少しほっとくか。じゃね、気が向いたらまた。」

 男? 女? 改めて聞くとどっちかよくわからない声が聞こえた。男と女の声を合わせるとこんな感じになるのだろうか。ふとその声の方を振り向くと、すでに彼の姿はなかった。思わなくても不思議な人だった。人の心の隙間にスルスルと入ってくるし、変なこと言いだすし、でもそれはなぜか悪い気がしないし。

 今なら少しだけ一緒にいて欲しかったかな。奴の代わりなんて言ったら失礼かな。

「君、面倒だね。ま、僕は別に構わないけどさ……ふぁ……5分経ったら起こして。寝る。」

 なんて思ってたら急にまた目の前に現れた。まるで心でも読んでいたかのように。すると彼は現れるなり俺の横で寝てしまった。おいおい、こんな自由な奴初めて……いや、そうでもないか。奴もまあまあ自由な性格だったし。俺は自分の横で寝るななしさんという一見女に見える男の寝顔を眺めた。しょーがない、5分経ったら起こしてやるか。


 それが俺とななしさんっていう人の最初の出会いだった。それから俺たちはよく話した。って言っても学校からの帰りに話すくらいだけど。

「今日はどんなことがあったのー? ねえねえ、夕食はなにー? 僕、カレーライスがいいなー。」

 彼は俺にペチャクチャと、いったいどこからそんなに言葉が出でくるのか気になるくらい話しかけた。最初は返答していたけど、なんせ話の展開がコロコロ変わるし、話が終わったと思えば数分後にまた掘り返す。強引に話を自分に持っていったり、逆にこっちの話しかしない時もあった。話しているだけで疲れる人って多分こういう人なんだろうな。

「お? 今日はなんか元気ないね。どったの?」

 あんたに元気を吸われてるんだよ。もはやそれを言う気力すらも奪われてしまった。


 ある日、いつも通り正義の名の下に愛のムチを振るわれた俺は帰り道を変えていた。トイレの鏡で見た自分の顔は想像以上に酷くて、とてもこんな顔を彼に見せるわけにはいかなかったからだ。あんなノーテンキで常に笑っているような人でもあまり心配はさせたくなかった。いつもと帰り道が違くても大丈夫かな。帰りが遅いって思われないかな。

 でも平気か。彼のことだし、どーせ俺のことなんか1日くらい会わなくても。

 俺はやや大回りするような帰路を選ぶと、長くなる自分の影に目を落としながら歩いた。


 ドス!


 すると突然、俺は何かにぶつかった。感触からして人だろう。うつむきながら歩いていたから目の前の人に気づかなかったんだ。俺はすぐに謝ろうと顔を上げると、

「よっ、探したよ。いつもの場所で待ってても来ないんだもん。なに? 寄り道? 僕もよくやったなぁ。」

 そうとう見慣れているノーテンキな顔がそこにはあった。俺はポツンとごめんなさいと呟くと、彼の横をすり抜けて行こうとした。でも彼からは逃げられるはずもなく、

「どーしたの? なんか、嫌なことでもあったの? 大丈夫? おっぱい揉む? やわからいよ。」

 って俺の前を遮った。ああ、鬱陶しい。今はほっといて欲しいのに。そんな胸を見せつけないで。俺は手で払いのけるように彼を突き放そうとした。けど弱い俺の力では彼を払いのけるどころか、視界から消すことさえできなかった。

「嫌なことは飲み込まずに吐き出すといいよ。言葉にしてね。とは言ってもそう簡単にはできないよね。でもこれが意外とスッキリ……ってありゃりゃ。待ちなよ、今日は一段と増してブラックだなぁ。」

 終始俺の視界に彼の顔は映り込んでくる。いい加減にして欲しい。今は1人にして欲しいんだ。でなきゃ、声をあげて泣けないだろう。この悲しみが胸の中で渦巻いたままだろう。この手が、足が、体がこんなに痛むのに、それ以上に心が痛いんだ。体が壊れてしまいそうなくらい、俺という人間が崩れて、削れて、消えてしまいそうだ。誰にも言えない、誰にも言わない、けど吐き出さなくてはいけない、この胸の内をいったいどうしろというのか。なぁ、ななしさん。あんたなら俺を救えるのか。今の俺を見てどう言うんだ。俺の心が、魂が、今にも壊れそうなのに、体だけは妙に形を保とうとする。痛い、胸が張り裂けそうなくらい痛い。目からは俺の闇が、無限に広がる闇が滴り落ちていく。声にならない声が喉の奥の奥で響き渡り、声とならずに口から溢れる。それはドロドロとした何かになって、俺という形を保てない。

 ふと思えば足の感覚がない、手もない、体もなにもかも、全てない、視界だけがぐんぐんと上に昇っていく不思議な感覚だけを残して。

 そして景色の上昇が止まった時には、俺の体と顔は一体化してしまったかのような感触があった。

「おおっ、ど、どうしちゃったの? なんか体のデザインが頭だけになっちゃったけど……それになんか鼻も消えたね。髪型もちょっと変わったか?」

 彼は俺の頭の上でそう言っていた。自分はいったいどうなってしまったんだ。

 なぜか地面と目線がほぼ同じ場所にある。手の感覚が全くない、足もだ。体もない、が内臓の感覚はわずかに残っている。しかしそれがどこにあるのかはわからない。なんだ、自分になにが起きている。今の自分はどうなってしまったんだ。

 俺の頭はパニックを起こし、正常な判断を鈍らせた。それに気づくこともなく。するとそんな俺に彼は冷淡な口調で語り出した。聞いたこともない声だった。


「そうか、君は……人でなくなっちゃったのか。薄々感じてたけど、君は人でないものから、人でないものをもらいすぎたようだ。普通の人間ならそれを吐き出したり、消化したりできるんだけどさ、君はそれができなかったんだね。なぜかわかる?」

 わからない、わからない、俺にはわからない。今の自分が、俺という人間が、いや、もう人間ではない自分が。

 俺は答えることができなかった。すると彼はフンと小さく鼻息を立てると、俺の顔をじっと見つめながら話し始めた。

「それはね、君が、君自身を愛しているからだよ。君は自分が好きだったんだ。どんなに人から傷つけられ、反撃できない自分に嫌気がさしても、君はどうしても自分が嫌いになれなかったんだ。よく自分が好きな奴はナルシストとか言うけどさ、それはとっても立派なことなんだよ。君のいいところだ。誇っていい。ただ、そんな君は君自身の中に溜まったものを吐き出せなかった。それは君がそれを自分ごと殺すことだからだ。だけど君は君が殺せなかった。だって君はなによりも君自身を愛していたから。別に君が悪いわけじゃない。君の心はまだ人の輝きを放っている。君はまだ人なんだ。でも体の形は正直だ。心に溜まった人でないものを、強く体に反映させてしまった。結果、君の体は人でなくなった、というわけさ。大丈夫、君がどんな姿になろうとも、君の心が消えたりするわけじゃない。ただ、ここの世界は今の君には小さすぎるけどね。差別よりももっと恐ろしい、区別というものが日常の中に溶け込んで一体化しているんだ。だってそうだろ? 女子トイレの中に男子が入ったら、それは大変なことになるよね。それは男子と女子で区別されているからだ。それだけじゃない、未だ人間には身分の差があったりする。でも人間はそれを変とは思わないんだ。なぜならそれが当たり前だから。いい? 真に怖いのは、なにも悪いことに気づかないことじゃない。それを悪だと知って行うことでもない。」


 彼は一呼吸置くとさらに落ち着いた口調で話した。


「何かが絶対的な権力を持ちながら、それが当たり前になることだ。差別は悪だけど、区別はなんでもない。今の人間の目はそれが見抜けないんだ。なぜなら絶対的な力の前に、みんな目をやられちゃってるから。なによりも恐ろしいことだ。それで、今の君がこの世界で生きようとしたらどうなるか……わかるよね。」

 俺は背筋が一瞬で凍りつくのがわかった。認めたくはなかった。まさか、こんなにも急に、こんなことが、今の自分に降りかかってくるなんて。


 でも、本当はわかっていた。心のどこかでそれを認めていたのかもしれない。人を愛せず、孤独に生き、人を避け、それがなによりも辛いことだと知っていたのに。俺はそんな自分が嫌で嫌で、せめて少しでも人のように、友達を作ってみたかった、誰かと馬鹿みたいな話をしたかった、心の底から笑ってみたかった、ゲームをしたり一緒になにかをしてみたかった、誰かと一緒に……俺は、俺は人になりかったんだ。人を恐れながらも憧れていた人というものに、俺はなりたかったんだ。だがそれを求めてしまうのは、今の自分を殺してしまいそうで、こんなにも好きな自分を、どうして殺せるというのだろうか、と。殺したくない、けど殺さなねば人にはなれない。自分のために自分を殺すのと、自分のために自分を生かす。正反対のことはどちらも自分のことを思っていた。自分を愛していたから、両方成り立つ正反対の願い。どちらかを叶えれば、どちらかは必ず叶えられない。

 その中に俺は、押しつぶされ、すり潰され、溶けて消えてなくなってしまうんだ。そして今の俺ができた。手も足も体も、何1つないモノに。


 頰を一筋の涙がつたった。人でなくなる恐怖よりも願いを叶えられない自分の愚かさに俺は涙を流した。獣のように吠え、嘆き悲しんだ。でももう戻れない。俺は、俺は、俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺……


 俺自身は壊れた。今までずっと大事に守ってきた俺自身が。音を立てながら砕け散った。


 俺は……そんな壊れた破片を必死に拾って、下手くそな手つきで直して、ない部分はしょーがないと割り切りながら、俺は俺を再構成した。愛する俺の姿が、壊れたままでは愛せないから。



 生まれ変わったらゆっくり生きたい。夏の日に光差し込む和室にポツンと佇むまんじゅうのように。自分を食べてくれる存在が現れるその時まで、静かに佇むまんじゅうに、俺はなりたい。

 そしたらきっと、俺は自分が本当に好きになれるよね。誰かの役に立って、しかもみんなから愛される存在なのだから。

 最後にもう1つ、もし願いが叶うのならば、俺は今の自分を逆さまにしたい。別に愛せなくなったわけじゃない。ただ、いつまでも変わらなかった自分を逆さまにしてみたら、世界が180度変わると思う。今の自分を愛したまま、全く逆の自分を作る。なんだ、意外と簡単じゃないか。


 ゆっくりと生きる、逆さまの自分。


 名付けるならなんてしようか。


 自分が好きな名前、なんと難しい。


 そうだ、名前も逆さまにしてしまおう。いや、それだと安直過ぎる。それになんか読みづらいしな。


 うーむ……そうか、自分の名前を連呼すればいい。愛する自分の名前だから何度でも言える。何万、何億、何兆と言える。それに自分の願いを込めよう。


「ゆっくり……が……おー……が、おー……がおー、がオー……ガオ……ガオー……



『ゆっくりガオウ』!!」



 ふと気がつけば辺りの景色は変わっていた。知らない町、知らない人、知らない空、知らない雲、知らない空気。

 そんな中、唯一知っていたのは隣に立つ1人の人間。爆乳大要塞、性別詐欺、ノーテンキバーカ、そんで心優しい怪物のななしさん。

「ようこそ、ここは君が住んでたところとは全く別の世界。ま、基本的には君のようなまんじゅうしか暮らしてないんだけどね。たまーに遊びに来るから、そん時はお菓子でも用意しといてね。」

 彼はそう言うと飛んで行ってしまった。多分、彼にもまた会うな。そんな気がした。さて、今日から新たな生活が始まるのか。いったいどんな生活なのか想像もつかないな。ま、いいさ。今はすごく清々しい気分なのだから。

 っと、鼻歌でも歌いたいくらい呑気に歩いていると水たまりを見つけた。そういえば自分はどんな姿になっているのだろう。恐る恐る覗き込んでみた。


 ソ〜


「ぶふ! なんだこの顔! 間抜けそうな顔だな!」

 そこにいたのはシンプルな顔だけが自分と同じように笑っていた。たしかに人ではなかったが、この姿も案外悪くないかもしれない。というか、俺の心ってこんな姿をしていたのか。意外と単純だったのかもな。あんなに悩んでいたのに。

 ふと思い返せば、今自分がいる世界はあの世界ではないことを思い出した。一応自分を育ててくれた世界であるのに、なぜか未練というものがない。ま、いいか。それだけの世界だったということなら。ん? するともう俺は……奴に、『ポンポン』に会えないのか? いや、それはないな。確信はないけどまた会える、そんな気がする。だって彼は俺の友達、俺との絆はそう簡単に切れるもんじゃない。たとえ幾千と時空を超えても、たとえ宇宙の端から端までの距離が離れていたとしても、奴は絶対に俺に会いに来る。


 だって俺と奴は絶対に切れない絆で繋がっているのだから。






「ってな、小説を描いてみたんだけど、どうかな?」

「まんま実体験じゃん! でも君らしくていいんじゃない? 僕は好きだよ。」

「やっぱななしさんはわかるんだねー! 俺の小説の偉大さがさ。もっと褒めてくれてもいいんだぜ?」

「あっ、そういや僕今日、ポンポンと喧嘩する約束してたんだった。ごめんガオウ君もというp無し! また今度!」

「あら!? まったくななしさんは……ま、いいか。俺も動画の編集とイラストの作成があるしね。」


 彼はそう呟きながら部屋のデスクにあるパソコンを開き、キーを打ち込み始めた。

 空がこの世界に来てから、随分と時が経って、今となっては1人の動画投稿者となっている。部屋には他に3人のゆっくりが暮らしている。ちなみに全員ゆっくりガオウだ。まどろっこしいのでナンバー1〜4の呼び名で分けている。なんてこのことを説明するのはまた今度にしよう。


 それにしても、あれからいったい何人の人に出会っただろう。ななしさんを含めて怪物だったり、死神だったり、妖怪も、幽霊も、宇宙人も、いろんな人と出会って来たなぁ。そして1人のロボットとも。全身にハートをつけた奴。

 それは全て俺が望んだことだ。人間のように生きたいと。たっくさんの仲間を作りたいと。


 そしてその夢は叶ったよ。お陰で本当にいろんな人に出会えた。もう毎日が飽きないくらい、面白い人間に。ありがとう。そしてこれからもよろしくね。


 この『ゆっくりガオウ』をよろしく。

続かないけど、出てきたキャラクターの小説は描くかもしれない。から、もしその時はまたこのゆっくりガオウをよろしくお願い致します!

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