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一太刀愛せ その瞳に映る世界  作者: 谷花いづる
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第四太刀

PV500以上に達しました!ブクマもしてくださって有り難うございます!

とても励みになってます。


木の格子窓の大きさを五センチから、二十センチに変更しました。

 しかし、首輪(目印)に関して私は一つ疑問に思っている事がある。

 それは、何故、左目下などという身体の中でも特に目立つ部位に、家の象徴とも言うべき家紋の刺青を彫ったのか。(大体、くノ一の首輪は雇い主の家紋の一部を彫っている事が多い。桜もその一つだ。)



 実はこの首輪、呪術の一種で"口封じの術"と呼ばれているものである。

 人の命が、軽く扱われているこの世界。情報を洩らすような裏切り行為は、そのまま自身の死と直結している事に他ならない。故に、元々は自分たちの身を護る(すべ)として開発されたものとされている。

 (あるじ)の秘隠すべき情報を少しでも漏洩しようものならば、呪いの効果が発揮され声が出ないように、喉が強制的に絞まる構造だ。更に無理矢理、洩らそうとすればするほど、喉へ圧がかかり最悪、死に至らしめる。

 正に、死人に口無しとはこの事。呪術に分類される訳だ。

 人を呪いで縛るなど恐ろしくはあるが、これが主に真の忠誠を捧げていますアピールにもなるので、忍びでなくても後ろ暗い所のある裏の人間には主従の契約のように割りと躊躇なく重宝されていたりする。



 だが、化粧などで隠す事が出来るとは言え、そこに首輪をするのは可笑しな事だ。どれだけ自身と主の素性を隠し通し、且つ与えられた任務を完璧に熟すことが出来るかに命を賭けている、その道のプロであるくノ一にとって見たら、それは枷でしかない。

 だと言うのに、彼女らのそこには堂々とその存在を知らしめるように彫られていた。

 通常、首や腕、胴、足など見えない所に入れるのが暗黙の了解なのだが。今回、奇襲を仕掛けてきた奴等の主はそんなものまる無視である。口布とかで隠す努力の痕跡すら、見当たらない。

 ただまぁ、それがこちらを誘きだす罠である可能性もまだ、捨てきれないけど。



 と言うのも、私が捜していた行方不明者なのだが、奇襲を仕掛けてきた奴等の主の正体を考えるとやはり、どうにも一番初めに感じた私の直感が的を射ている気がしてならないのだ。

 こういう時の直感は、悪いものほど良く当たる。

 私は多少、落ち着いてきた呼吸と背中の痛みに取り敢えず安堵の息を吐き、呆れた様子で何かを考え込む姉を横目に見た。そして、周囲に自分たち以外の人の気配が無い事を確認し口を開く。




 「ところで姉様、本日の帝のご様子は、如何でしたか?」

 「…………さぁてね。私はもう、専属の影ではないし四六時中、張り付いて監視している訳でもないから、詳しくは知らないわ。今日も影の護衛に付いてるのは、千景(ちかげ)だし。けど、そうね。ここ、三日間は非常に()()()()()だった、とだけ聞いたわ」

 「そうですか…………」




 姉様は私の一見、唐突な質問に柳眉な片眉を跳ね上げ怪訝にするも、次の瞬間にはニコリと良い笑顔で答えてくれた。

 あ、千景とは私と姉様の従姉妹だ。頭目である母ーー空座(くうざ)ーーの妹(私からしたら叔母に当たる人)ーー千歳(ちとせ)ーーの娘である。

 十五歳と若いながらとても優秀で、主に影の要人警護として頭角を現している。姉様によると、ここ三日は帝の影を頭目からの命で請け負っているらしい。



 そして、私はその答えに嫌な予感を確信に変え、思い切り頭を抱えたくなった。

 もう、流石に察していると思うけど、敢えて言わせて欲しい。本当は今にも現実逃避して、私の精神衛生上できるものなら、このまま事実から目を逸らしていたかったけど。認めるまでの心の準備として、付き合ってもらいたい。

 その行方不明者とは、()()()()()()に間違えないだろう。



 私が命を受けた時の頭目曰く、漆黒の腰まである長髪と同色の瞳に中肉中背の女で、年の頃は十六歳くらい。山吹色の旅装束を身に纏い、日除けの(かさ)を被っている者が三日前から忽然と姿を消した。幸い、居なくなったその日にすぐ発覚し捜索を開始したのだが、未だに発見には至っていない。

 最後に目撃されたのは、都で今話題の和菓子屋で三色団子を一人で食べていた所。お金は置いてあったが、団子は食べかけのままいつの間にか居なくなっていたとの事だ。

 ここから先の足取りが曖昧で、どの目撃情報も正確性に欠ける。そこで田上家一、感の良い私なら何かしら有益な情報を掴んで来るのではないかと期待され、捜索に加わるように命じられたのだ。

 これが人捜しに至った事の顛末ではあるが、これ考えようによっては相当、切羽詰まってるよね。だって、人の感なんていう不確かなものに頼らざるを得ないくらい、最悪の状況だって事でしょ?

 言うなれば、警察だけではどうしようもなく手の施しようがなくなったので、一か八かの賭けで当たると評判の霊能力者を頼ってみたってところか。



 けど今にして考えると、頭目も藁にもすがる思いだったのだろう。

 まぁ、行方不明者がこの国の君主である帝なら、そりゃ頭目でなくても焦るわ。忍びの最高峰集団と謳われている田上一族の自分たちを、未だに欺き続ける事に成功している者たちなのだ。帝の御身が無事であるのか否か、不安は尽きない。



 人捜しにしては名前など身元が明かされず、不審な点が多々あった事をもっと疑うべきだった。けれども、頭目の立場から考えると余計な混乱や焦燥を煽るような事は避けたかったのだろう。何処から情報が洩れるか、分かったものではないし。

 その辺、貴族たちに帝の事が知れ渡ると面倒だ。彼奴ら、ここぞとばかりにそれを攻撃材料にして上層部の失脚を狙ってくるからな。

 唯でさえ、帝の事でてんやわんやなのに余計な仕事を増やさないでほしい。

 にしても、この国の頂点で誰よりも何よりも護られているべき帝が行方不明とは、本当、笑えない。頭目でなくても使えるものは何でも利用し、見つけようと言うものだ。

 しかし、お忍びで城下にいたのだろう事は容易に想像できるが、何故たった一人だったのか。

 護衛は、何してたんだ?護るべき対象が居なくなったと知るまで、どうして気づけなかったのか。

 これは、近衛らの職務怠慢と言うべき他無い。そういう意味では早々に、内部が荒れるな。

 今頃、宮中では太政大臣らが上へ下への大騒ぎになっている事間違えない、と思っていたのだが………。どうやら、()()()()で宮中上層は()()()になっているらしい。




******




以前、『逆恋』のストーリー内容を本当にざっくり、説明した事を覚えているだろうか?

 あの時、また詳しく説明するとも言ったと思うけど、改めて今、紹介しよう。



 ストーリーは、糸泉菊里と言う十六歳の女子高生がある日突然、異世界トリップしてしまう所から始まる。

 明日もいつもと変わらない、可もなく不可もない普段通りの日常が待っていると疑わず、寝て目覚めるとそこは主人公の見慣れた自室ではなかった。

 だが、そんな訳もわからない異常事態に、驚き困惑する暇も与えてはもらえず事態は思わぬ方向に大きく転がっていく事になる。

 主人公の菊里が目覚めたのは、どこか小さな小屋のような所だった。室内は薄暗く、窓と言うには余りにもお粗末な縦横二十センチ程しかない四角い壁穴に、木の格子が立て付けられただけのものが天井近くへ一ヶ所あり、光源はそこだけ。擦り切れボロボロになっている畳が一畳あり、その上にはこれまた襤褸雑巾のような薄汚れた布団が一組ある。

 そして、正面にあるこの小屋唯一の出入口だと思われる扉には、何時からそこにいたのか、茫然とした表情を浮かべている二十代後半くらいの美女が立っていた。



 ここが何処で、何故気づいたらこんな怪しさ満点の見知らぬ小屋にいたのか。兎に角、寝ている間に何が起きたのかを知りたかった菊里は、困惑している相手の様子にも気づかず、何か知っているのではないかと詰め寄ってしまう。が、菊里の勢いに先に冷静になった美女に、まずは落ち着くよう宥められ、漸く平静を取り戻す。

 菊里に充分な落ち着きが戻った事を確認すると、美女は名を福部有明(ふくべ ありあけ)と名乗った。彼女は主人公にこの世界の様々な情報を提供し、フォローしてくれるサポートキャラだ。大和国の最高権力者である、帝の近習。

 その彼女に色々聞き出し、自分は異世界にいると言う驚愕事実を知る事となる。これからどうすれば良いのかと途方に暮れる菊里に、何やら考えるように黙していた有明は、一つ提案を持ちかけた。



 それは、三日前から何の予兆も無く忽然と姿を消した帝の代行をしてほしい、と言うものだった。彼女曰く、菊里と帝の容姿は瓜二つであるらしい。声から背格好から、何から何まで本人だと言われれば疑う事無く素直に納得してしまえるほど。

 今現在、秘密裏に大捜索を行っているが結果は芳しくない。更に三日後、后候補として大貴族の子息等が続々と後宮へ入内(じゅうだい)する予定を控えている。この世界では入内したその日に顔合わせする事になっていて、改めて候補者たちがどんな人物であるのか、将来の后として相応しいかどうかを吟味するために、どうあっても帝本人が対面しないといけないのだ。対面しなかった場合、その貴族家との間には大変深ぁ~い亀裂が出来上がる事、間違え無しだからな。

 それはこれから先、まだ始まったばかりで長く続くであろう帝の時世のためには何としても避けなければいけない。

 だから、どうか。この事実が世に知れ渡ってしまう前に、カモフラージュ(偽者)として本物の帝が見つかるまでの期間、代わりを務めてしてほしい、と言う提案だった。



 元来、超のつくお人好しな性格(と言う設定)の菊里。加えて、何もかも分からない、知らない世界にたった独りという不安でしかない孤独な現状。そこに提示された希望の選択肢に、救いや安心を求めて飛び付かない人などいるのであろうか。

 どうしても必要な時以外は彼女が仕事全般を請け負い、これを成し遂げてくれた暁には帝が見つかった後も、身分と衣食住の保証を約束しようとまで魅力的な交換条件を出されてしまっては、元々行く宛など無い菊里に否やを言える筈もない。

 有明のその提案に、菊里は是と答えるのであった。

 斯くして、主人公を取り巻くめくるめく異世界での恋の波乱が、幕を開ける。



 とまぁ、私の説明力が足りなくて長々と語ってしまったが、大まかなチュートリアルはこんな感じだった。……………………多分。

 記憶の問題で、完璧だと断言は出来ないけど。

 後は、攻略対象者の誰を選ぶかによってシナリオが変わっていく。

 しかし、本当何で、こんなにゲームに関しては事細かく憶えているんだろう……。そんなに思い入れのある乙女ゲームでは、なかったと思うんだけど。

 でも、役に立つか立たないかで言ったら、この先の展開がある程度予測しやすくて凄く有難いとは思う。これから、自分がどう行動をすべきかも計画が立てやすいしね。



 で、唐突にチュートリアルの説明をしたのには、ちゃんと理由があってだね。

 私が姉様との会話で、頭を抱えたくなった要因。それは何も、行方不明者が帝であったという驚愕事実だけではないんだな、これが。

 あの会話には私が今一番、知りたかった情報が多く含まれていたのだ。



 乃ち、『逆恋』のストーリーは始まっているのか否か。

 この世界はゲームのシナリオを、なぞっているのかどうなのか。何処まで、物語は進んでいるのか。

 その全ての答えが、あの会話にはあったのだ。



 まず、行方不明者が誰であるのか自力で辿り着いた事を悟られぬように、帝の様子をそれとなく伺ったのだが。姉様のあの反応は、私が知ったとバレてるな。返しも私が欲しい言葉を的確に、さらっと与えてくれてるし。

 妹の考えなど、姉には透けて見えるらしい。この人には、隠し事なんて出来る気がしないな。



 早々に姉様を探るのは止め、与えられた言葉の裏に隠された意味について分析する。

 帝が行方不明となって、三日。私が捜索の命を与えられて奇襲に合うまで、半日も経っていない。それからまる三日間も意識不明だったのだから、今は七日目の昼。だとすると、どうやら今日が本編突入の日みたいだな。

 気絶から目覚めて間もない自分は兎も角、姉様からも未だ行方不明者が見つかったと言う情報は無い。にも拘らず帝はここ三日、()()()()にいつもの場所でいつもと変わらずそこに存在し、執務に勤しんでいた、と。



 これは、とても可笑しな事だ。

 いる筈のない者が、何故か存在しているという矛盾がここで発生している。誰かが帝を装い偽っている可能性が、非常に高いと考えるべきだろう。

 と言う事は、今のところ順調にシナリオを辿っていると見て良いのか。



 ゲーム通りであるならば、取り敢えず貴族たちの混乱を避けるために主人公の第一発見者の福部有明が提案し、条件付きでそれを飲む。そして、三日後の行事に備え無事に乗り越えられるよう、この世界の様々な常識や知識を詰められるだけ詰め込み、本番に挑んでいる真っ最中って所かな。

 三日で合格点は難しくとも、及第点には達していなくてはならないのだ。それはもう、凄いプレッシャーだろう。

 嘗て、体験した事の無い緊張感の中にいるその姿がいつも以上に鬼気迫っている事は、想像に難くない。

 后候補たちや偽者と知らない貴族たちにバレでもしたら、一貫の終わりだからな。おいそれと気の抜けない三日間だっただろうが備えあれば憂い無しとも言うし、寧ろこれからが本番だ。主人公の菊里には、提案に乗ってしまった時点で何があっても生きる事を第一に頑張ってほしいとしか、私からは言えないな。

 けど目覚めて数分後には、既に死の淵に立たされている現状って………。私はごめんだ!と声を大にして言いたいけれど、何だか前世を思い出した時に同じく死の危機に直面していた自分としては他人事とは思えない。

 まぁ、私の方は物理的な死の淵だったけども。もし会う事があったら、同情の目で見てしまうのは否めないだろうな。



 それはそうと多分だが、千景は新たに現れた帝と自称する者の存在がこの国にとって害となり得るのか、またその目的とは何かを探るために、ゲームの事など知る筈もない頭目が送り込んだ密偵だろう。

 そうやって得た(にせ)帝の人物像と共に、この三日間の様子をお忙しそうであったと言葉を少し濁して姉様にも報告したのだと予測する。

 しかしその実、これは千景の忍者(くノ一)としての判断力をも同時に試されている事が容易に理解出来てしまった。私も"白夜"の称号を拝命する前に、同じ事をやらされた口だから分かる。あとは本人がそれに気づいて、行動出来るのかどうか。

 要人警護と銘打ってはいるが、真の目的は別にあると見て良いだろう。

 それは、非情な選択を迫られた時、躊躇なく己の手を血で汚せる覚悟が出来ているかいないか。



 千景はまだ、忍びに成り立てだ。影に徹する事の難しさ、本当の殺し合いと言うものの残忍さを知らない。

 この任務では、暗殺者としての資質や決断力など、諸々を試され問われる事だろう。

 言わば、一人前の忍者として正式に認めるための通過儀礼のようなものだ。



 さて、菊里(ヒロイン)に我が千景(従妹)はどんな決断を下すのだろうか――――――?

読んでくださって有り難うございます!


今回、長いうえに主人公の分析回でした。

おかしいな?予定ではもうヒーローが登場している筈だったのに・・・。


次回も更新は決まってません。早めの更新が出来るよう頑張ります。

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