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一太刀愛せ その瞳に映る世界  作者: 谷花いづる
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第三太刀

やっと、新キャラが出せました。

前回と違って、会話文多めです!

 目覚めた君親の視界は、板張りの天井を映し出していた。

 数度、まだ冴えない頭を覚ますために瞬きを繰り返して、何となく違和感を感じる。

 身体にではなく、部屋全体に。

 右へ頭だけを動かし見やるが、そこには白い障子しかない。そこから差し込む陽の明るさを見るに、今は昼のようだ。今度は左へ向いてみるも、大きくも小さくもない絶妙な高さと幅の桐箪笥が二(さお)あるだけ。

 生活感の窺えない、何ともさっぱりし過ぎた部屋だ。

 必要最低限のものも置かれていない、寂しい和室は殺風景の一言に尽きる。



 これが今世の自室みたいだが、何と言うか………。君親という人間は、極端な人物であるという事が分かった。

 物欲がないと言えば聞こえは良いが、真実はただ興味がなく、無関心だっただけ。生活していくのに、困らない程度のものしか持たない主義なのだ。物がなくとも苦にならない、質である。



 君親の購買判断基準は、"くノ一にとって必要かどうか"。

 どんな安物でも高価なものであっても、それが仕事の役に立つのか立たないのかが、君親には重要だった。

 要するに、根っからのくノ一馬鹿である。諜報員や暗殺者として自己を殺しながら生きてきたためか、自分というものが全くない訳ではないが、希薄であった。



 部屋は本当の自分が出ると言うけど、ここを見るとその通りだと思う。君親には、生きる事以外にさして執着するものが無かった。

 いや、一つだけ他のものとは別格なのがあったな。というか、前世の記憶が甦って、より強くなったかもしれない。

 それは、家族、特に兄の秋風の存在だ。

 さっき、その姿を見るために再び息を吹き返したようなもんだしね。



 息を吹き返したと言えば、今更だけど私、よく生きてたな…………。

 じんわり、実感が徐々に湧いてきて、もう一度、室内をグルリと目だけで見回した。



 先ほど覚えた違和感を、また感じる。

 彷徨う自身の視線。



 八畳ある部屋の中央、布団を敷きその上へ寝かされている身体はずっしりと重く、起き上がるまでに時間を要しそうだ。微かに身動ぐと、傷を負った部分に締め付けるような感触があった。恐らく、包帯のように清潔な布でぐるぐる巻きにされているのだろう。

 誰かが、手当てをしてくれたらしい。その誰かのお陰で、死線を無事に乗り切れたようだ。



 私はじっと真上、板張りの天井を見定める。



 まだ生きられている事に、感動で身体がうち震えそうになる程の嬉しさが込み上げてくる。その助け手当てしてくれた誰かに、感謝してもしきれない。



 だがしかし。だがしかし、だ。




 「仰向けって、どういう嫌がらせだよっ……………!?」




 痛いっ!物凄く、背中が痛いよっ!!?

 確かにね、切り傷に打撲でお腹も痛いけども!一番酷いのは、背中だから!!

 仰向けで寝かせた人は、絶対に鬼畜だ!鬼畜!!

 こうやって、手当てしてくれた人とは別の人だよね!?幼い頃から鍛え上げられた観察眼ナメんなよ!!!



 ハッ!何?この悪寒。

 今、凄い肌がブワッと粟立ったんだけど?

 これ以上、仰向けにした人を心の中で罵り続けたら、死よりも恐ろしい事が自分の身に起こる気がする。

 うん、私は何も思ってない。感謝の念しかないですよー。アハハ。

 あ、悪寒が少し和らいだ。

 ふぅ、アブナイ、アブナイ。

 しかし、この何だかよく分からないけど、安易に逆らってはいけない感じとこの天井の違和感は、もしかして………。




 「姉様(あねさま)、先程から姿を隠して無言の圧力をかけないでください。あと、背中が限界なので、うつ伏せにしてもらえないでしょうか。お願いします!」

 「あら、もう?鍛練が足りないんじゃなぁい?まぁ、瀕死の重体で帰ってきた事を(かんが)みても、貴女に色々足りなかったのは事実みたいだけど」

 「ぐっ…………」




 そう、先ほどからの違和感の正体は、四つ上の姉ーー松月ーーだったのだ。多分、悪戯好きの姉様の事だから、天井裏に隠れ潜んで私の反応を窺い楽しんでいたのだろう。また敵かと思って警戒したのに、紛らわしい登場の仕方だな。

 ま、忍び邸に侵入しようなどと命知らずな事を考える愚か者なんて、そうそう居る筈はないだろうから、そこまで危険視していなかったけどね。



 違和感の正体が姉であると判明して安堵し、若干の早口でお願いしてみるも無音で左真横にフッと突然現れた彼女は、けれどもそれを許さなかった。

 両膝をつき、君親を真上から覗き込むように黒の忍び装束を纏わせた身を屈める。束ねず背中へ流していた、ふわさらアッシュオレンジの長髪が、優しくじわじわ(しゃ)のカーテンの如く私の視界を囲った。

 甘苦(あまにが)いべっこう飴のような琥珀の瞳が、有無を言わせない怒りの圧迫感を伴って見下ろしてくる。

 次第にヒリつく、空気。

 鬼気迫る緊張感で、背中の痛みのせいか流れていた脂汗の他に姉の怒気に当てられて冷や汗が大量に噴き出していた。



 すると、ふいに姉のぷっくりとした艶やかな唇が、ニィィと妖しく弧を描き笑みの形を作る。

 目は、笑っていなかった。

 包帯の代わりに巻かれている白い布、というよりも仰向けである事を示すように君親自身を指差し。




 「仰向け(それ)は、死にかけで帰ってきた挙げ句、三日間も意識不明のまま目覚めずに、姉である私を散々、心配させた愚妹への罰なんだから。もう少し、その痛みを味わって、刻み付けながら耐えなさい」

 「………うぅっ」

 「ほら、私に何か言うことがあるんじゃなのかしら?」

 「ご心配をお掛けして、申し訳ありませんでした、姉様!」

 「ふふっ。そうよ、それで良いの。そのまま床に這いつくばって、許しを請いながら猛省しなさい」

 「………はい、姉様」




 ごもっともな姉の言い分が、君親の心にクリティカルヒットする。幼い頃から刷り込まれた姉に逆らうとどうなるか、という恐怖と目が笑っていない歪な笑みに気圧され、即座に謝罪の言葉を述べるが、反射で両肩がビクつくのは止められなかった。



 ンンンンッ、ドS発言、こっわー!

 しかも、姉様のこの笑みは、マジ怒りのヤツじゃないですかー!?

 いや、うん。全部、自分が悪いのは分かってますよ?分かってますけども!

 なまじ、顔が整っているだけに怒った時の圧力と迫力が半端ではないのだ。ゴゴゴゴッという効果音が、背後に見えそうな恐怖。

 あぁ、姉様の影から般若の幻覚がっ!



 依然、ダラダラと止めどなく流れる冷や汗を拭う事も、その視線から目を逸らす事も出来ない。しばし、姉の睨みにガタガタと震えながら耐える。

 しかし、君親の答えに一応は納得してくれたのか、怒りの歪な笑み(表情)を収め一つ頷くと、普段の色香漂う柔らかな微笑みを浮かべた。途端に、凍っていた空気の緊張が一気に霧散する。

 真上にあった姉の顔が退くと、少し薄暗かった視界が(ひら)けて明るくなった。ほっと、安堵の息を吐く。

 すると、気の緩みを察した身体が姉の説教で忘れかけていた背中の痛みを復活させた。




 「――――っ!!」




 戻ってきた激痛を咄嗟に堪えるような、微かな吐息が自身から漏れた。もう、息をするだけで背中全体をビリビリビリッと尋常ではない静電気に似た痛みが、断続的に駆け抜けていく。

 意識すると、余計に痛みが増してきた。

 呼吸も荒くなり、僅かにバクバクと心音が煩くなる。何だか、身体も熱い。

 これは、いよいよ熱が出てきたかな?




 「あらあら、本当に辛そうね。秋風特製の痛み止を処方しておいた筈だけど、効果がもう切れちゃたのかしら?」

 「ぐぅっ……!(やはり、私を看病してくださったのは、兄様(あにさま)だったのか)」

 「何か、言ったかしら?」

 「いいえ!何も!」

 「そう?………まぁ、いいわ。仕方がないから、私がひっくり返してア・ゲ・ル!」

 「あ、姉様………ひっくり返していただけるのは、大変、有難いのですが。可愛い子ぶった言い方をしても、悪巧みをしていそうな顔のせいで、全部台無しでっ」

 「えいっ!」

 「ぐふぅっ!?」




 せめて、"す"まで言わせて!

 何の心の準備もなしに、ひっくり返されるとは思ってなかったよ。

 気道を塞がれたうえに、鼻頭が布に藁を詰めただけの枕で押し潰された。

 ちょっ、折れてないよね、これ!?我、重傷者ぞ??

 触って確かめたいけど、腕を動かそうとしようものなら背中が引き攣れて辛いし、億劫だ。首から上、頭を動かすだけで精一杯。

 ……………仕方がない。折れてない事を祈ろう。

 うーん、何か、余計な痛みが増えたような気が。



 チラッ。

 余計な痛みの元凶である本人を見やると、痛みに呻きながらも耐える私をニコニコ暢気に見ていた。

 くっ、この人、他人が激痛に悶える姿見て楽しんでるな!実の妹に対して、なんつー仕打ちだよ!?

 扱いが、雑すぎる!!

 怪我人には、優しくして!!!



 けどまぁ、色々(心の中で)言ってるけれど、それだけ心配をかけまくっていただろう事は、承知している。

 姉様の目の奥、怒りとは別に焦燥のようなものを感じた。この三日間、不安にさせていたんだなと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 ふぅーふぅー、荒い息を整えながら家族に迷惑をかけてしまった事、深く反省する。




 「まぁ、もう少ししたら秋風も様子を見に来ると思うから、その時にでも薬を処方してもらうと良いわ。私はその辺、専門外だから治してあげる事は出来ないわね。毒薬を作るだけなら、力になれるのだけど」

 「え、兄様がこちらへ?いえ、姉様、そのお気持ちだけで充分です!!(毒薬なんて冗談じゃない!それを作って私をどうする気ですか!?)」

 「あら、そう?まぁ、どうしても耐えられなくなったら言いなさい。で、隙を突かれたとはいえ、称号持ちである貴女をここまで追い込んだ奴等の正体、ちゃんと掴んだんでしょうね?」

 「………はい、それは抜かりなく」

 「よろしい」




 暫くして、私の痛みに呻く姿を見て満足したのか、それとも単純に飽きてしまったのか、姉様は私の身体を心配するように口を開く。

 けれども悲しいかな。最後の一言で前半の優しい発言が全部台無しである。

 そう言えば、姉様は私が嫌いなんだろうか?と前世を思い出す以前から時たま、姉の私に対する感情を疑いたくなってしまう時があったなー。まぁ、姉様の普段の態度や表情、目を見ていれば杞憂であると直ぐ分かるんだけどね。

 如何せん、ドS口調の姉様は自分にも他人にも厳しい性格もあって、勘違いされがちだ。本当は愛情深く、とっても優しい人なのだが、毒薬の調合と言う怪しさ極まりない趣味のせいもあってか、本当の姉様を知らない者達からは遠巻きにされている。

 ま、分からなくもないけどね。私からしても余り、歓迎も理解も出来ない危険極まりない趣味だし。



 姉様は若干、脅えの混じる私の態度へ不思議そうに小首を傾げるも、一息つくと笑みを引っ込め真剣な表情で三日前の事を問うてきた。こちらを見つめる目は薄っすら険を孕んでいて、嘘は許さないと言っているようだ。

 まぁ、ここで嘘をついても双方にメリットなどないので、正直に答える。

 何者であったのか。君親はあの日の記憶を掘り起こし、姉に詳しく話すため背中の痛みに顔を歪めながら、ゆっくりと口を開き情報共有を図った。

 しかし、私の口から放たれた言葉は、たった一言。




 「左目下、四(ひら)の桜」

 「―――!」




 でも、姉様にはそれだけで十分伝わったようで。一瞬、驚きに目を瞠るも直ぐに表情を引き締めた。

 この言葉の重要性に、気がついたのだろう。




 「たったの四人、ですって?我が一族の称号持ちに対して、随分と嘗めた事してくれるわね。最低でも、三十人は寄越しなさいよ」

 「姉様、それは私に対して、余りにも無茶ぶりです。私の技量では、十人が限界で」

 「その奇襲を実行したら、自分たちの立場が不利になるとは考えなかったのかしら?と言うか、自分たちが犯人ですって白状しているも同義じゃない。奴等、馬鹿なの?阿保なの?」

 「…………………」




 くっ、また"す"まで言わせてもらえなかった……!しかも私の発言を遮るように、食い気味で。

 まぁ、いいんですけどね。

 姉様からの理不尽には、慣れてますから!!



 柳眉な眉根を寄せ、姉様は信じられないとばかりに呆れを含む溜め息を溢した。

 気持ちは分かる。だって、人捜し中に人気のない森で一人になった所を狙って奇襲を仕掛けてくるとか。普通によくある、家出や旅等の理由ではない事の証明に他ならない。

 姉様の言うように自分たちが拐いましたと、公言している様なものだ。

 この奇襲が我が一族に対する挑発行為であったとしても、首輪(目印)を着けたくノ一を送り込んでくる杜撰さ。失敗すると何処の者か身バレしてしまうとは、微塵も思っていないのだろう。それとも、わざと自身の存在をアピールしているのか?

 (いず)れにしろ実行犯の自信の程が窺える、単純で稚拙な作戦だ。

 しかし、惜しいかな。

 瀕死の重体に追い込むまでは良かったが、私は死なず奇跡的に無事、こうして生きている。



 それと、左目下に親指の爪くらいの桜の花弁が、一(ひら)ずつ刺青(いれずみ)されているのを私に見られた時点で、その作戦は失敗するという事に、思い至らなかったのだろうか?いや、気づいていなかったからこそ、実行に移ったのだろう。

 そして、この大和国に於いてくノ一に桜の花弁の首輪(目印)を着けさせている者など、私が知る限り()()しか存在しないのだ。

 忍びの世界で、それは知っていて当たり前の常識である。



 だから、私の放った単語の羅列のような一言を聞いて、姉様は疑問に首を傾げる事もなく、瞬時に理解を示したのだ。

 "左目下、四片の桜"とはつまり、"左目下に桜の花弁の刺青を彫っていたくノ一が四人いた"と言う意味である。

因みに、柄は違えど仕える主君が何処の家の者かを示すために、そういった刺青を彫る忍びは珍しくない。ある種、それがこの世界の忍びのステータスとなってもいる。

読んでいただき有り難うございます!

次回も更新は決まってません。

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