むじなでがす
有る日のことである。
稲井の村さ一匹の、むじなが居たっちゃや。
つぁんざん悪さをして旅人を困らせたっちゃや。
んでよ旅の途中の上人が村びとさせがまれて、退治をして瓢箪さ閉じ込めてしまったっちゃや。
その瓢箪が山寺の本堂さ百年がな間
祭られてだおん。
さてある春の日、山寺さ小さな小坊つぁんがお勤めする事さ成ったっちゃや。
和尚つぁんが出かける時さ、仏間の瓢箪はみだりさ触ってはいかん。
と云う事で、出かけて行ったっちゃや。
山寺ゆえ一日何事も無い。
閑で飽き飽きした小坊主は、
仏間さ入ると、何やら大きな瓢箪が有ったっちゃや。瓢箪の上さは一枚お札が貼ってあり、つやつやと光って居たっちゃや。
小坊つぁんは何故か気さ成り、瓢箪さ触れ、あいづこいずゆり動かして見たっちゃや。
すると、何やら瓢箪の中からちっこい声が聞こえて来たっちゃや。
「うお~い。そごの小坊主。」
驚いた小坊つぁんは。
「何だささは。」
瓢箪の中からか弱い声で
「後生んだがらら、瓢箪の札を剥がしておくれ。」
小坊つぁんは和尚つぁんの事を思い出し、
「やんだおん。」
と断ったっちゃや。
「この瓢箪から出してくれたらきっと偉い坊つぁんさしてやるぞ。」
小坊つぁんは
「坊主が、むじなの世話さなるがなか。」
すると瓢箪の中のむじなは
「成る程。」感心したそうな。
「大金持ちさしてやるぞ。」
すると小坊つぁんは
「そいづだけか。」
「…。」
「ほだなさ力が有るならおれで出て見なさい。」
すると瓢箪の中の、むじなは、
おれの無力さを悟ったほでがす。