甘美な不幸を召し上がれ

１ おわかれ と あめ

『おわかれ』

開いたドアの向こうで、彼女は笑っていた。

「また会えるわ」

僕は両腕に力を込める。決して逃がさないように。

「だから」

甲高い笛の音が、人の多いホームに鳴り響く。

「手を、放して？」

そうして僕の元には彼女の一部が残った。

『あめ』

生きるためには雨が必要。

だって、水がなければ生きられない。

人類の発展を支えたのは、雨。

「じゃあ、この雨も必要なの？」

頭上に迫る炎の大群は、体を醜く歪ませて大げさに頷いた。