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王都でのお仕事2

 俺は死んでいた。

 …ただし今度は、我慢して心の中でだけだ。

 端的に述べよう。彼らに必要なのは、政治レベルの難しい話じゃない。

「はい! それではまず、皆さんには流通の仕組みの話からしていきます!!!」

 俺はやけくそ気味だった。

 今から講義する内容、それは…元の世界で言う所の……小学校社会科!!

 ただただ、泣きたい。しかし、冷静に考えると、これも仕方ないと言えた。

 そんな事も知らずに、と言いたい状況ではある。しかし、その“そんな事”と言うのは、情報化社会である元の世界だからこそだ。

 歴史があって、それが当然のように継承されていて、どうなるのか、どうしてそうするのかを、教えてもらえる。そういう環境だからだ。

 でも、この世界はそうじゃない。

 村の市場だって、そうだった。俺にとっては当たり前の、販売の原則みたいなものを知らずに、それぞれ店を営んでいた。それは学ぶ場所も、経験できる環境もなかったからだ。

 なら、ここでも同じだ。本来伝えるべき事を、伝えられないような何かが起これば、歴史が、知識がリセットされてしまう。

 仕事で能力が必要になるのは、判断や対処をする時だ。既存の作業をしているだけなら、意外と何とかなってしまう事もある。子供だと続ける事すら難しい作業なんて、実は社会でもほとんど無いんだ。

 どうやら国民には、城内のいざこざを知られないように立ち回っているようだが、これではボロが出るのも時間の問題だ。おそらく、俺がみているここ以外も、相当ガタが来ているに違いなかった。

 でも、ここには俺が来た。どうにか、立て直せるといいけど…。

 要するにこの国は、0からスタートするのと同じなんだ。

 本来使えたはずの、この国の英知を失った。女王様を筆頭に、新しく学んでいくしかない。

 なに、無理難題と言う訳じゃないはずだ。いつ、どんな国だって始まりはあったんだからな。

 スタートにしては、この国は今、規模が大きすぎるが…その代わり、になるかはともかく、俺の世界の知識がある。これを出来るだけ、ここの子達に落とし込んで、後はしっかりと、やっていって貰うしかない。俺にだって、やらなきゃいけない事があるんだから。

 だと言うのに…。

「えっと…皆、聞いてるかな」

「聞いておりますので、どうぞ続けなさいな」

 おー、お嬢様っぽい口調…って、そんな感想を抱いてる場合じゃないな。

「あ、あのー」

「どうしたの、ロア君」

「ぼ、僕がちゃんと、聞いてますから…話を続けて下さい」

「…」

 実際、彼はよく聞いていると思う。

 むしろ、聞いているのは彼と…アンシアくらいだ。

「翔…さん?」

「あーはい。とりあえず、続きを…」

 俺は再び、講義を続ける。


 当初の予定では、アンシアとローナ、二人とも村へと戻ってもらう予定だった。

 今回は、もうこれから何が起こるかはわかっている。先日出発した時のような、不確定要素は少ない。

 だから、当然戻って、マリーについていてもらう予定だった。

 しかし、それに対しての返事は、二人ともノーだった。

 アンシアは、俺が村を離れている間、傍に付いているのがマリーとの約束だからと言う。

 そういう話になっていたのかと思いつつ、それでも、その話をした時とは、状況が違うしと説得もした。でも、結局今の所、帰る気は無いみたいだ。

 ローナの方は、元々自由に行動してしまうし、言う事をそのまま聞いてなんてくれない。むしろ、夢に見たお城だと、目を輝かせているような状態だ。お姫様に、憧れみたいなのがあるっぽいしな…。

 そして、王女様側としては、二人を村へ戻す手伝いなんて、わざわざするはずも無い。当たり前のように、二人にも留まる許可が出てしまった。

 俺が、どうしても二人を帰らせると言えば、おそらく優先して貰えるだろう。でも、アンシアはともかく、ローナはそんな事したら、どう動くかわからない。

 いやむしろ、強制的に村へ帰すなんて、無理だろう。それこそ、囚人みたいに、縛り付けでもしないと…。納得していない限り、きっと戻ってきてしまう。この二人、性格に似合わず身体能力高いからな…。だからって、本当に動けなくして追い返すのは、抵抗がある。

 結局、説得を続けるしかなかった。


 まあ、アンシアはこうして、一緒に講義を聞いていれば、後々役立ててくれるかもしれないし…。

「って、君たちどこへ…?」

 突然、ロア君以外の子達が、席を立って出口へと向かい始めた。

「私達、そろそろお茶にします。あと明日は来ませんので」

 そう言い残して、部屋から出て行ってしまった。

「そ、そっか…」

「す、すみません…」

「いや、ロア君が謝る必要はないけど…いつもああなの?」

「は、はい…来ない事も多くて…。おそらく、明日はばれない日なんですよ」

「ばれない?」

「本当は、毎日仕事ですから…自主休暇と言うか…まあ…」

 要するに、あの子達の身の周りで、ばれると不味い人が、明日は居ないって事か。というか、この世界…休みって言う概念あったんだな…!

 俺はまた、変なところに引っかかっていた。

 まあ、それはともかく。

「そう。ならまあ、放っておけばいいよ」

「え、ええ!? その、ちゃんと出席させたりとか、して下さったりしないんですか…?」

「しないよ。俺は期限付きで、ここを手伝うだけだし、俺が居るから正しく動くって状態にしても、意味がないから」

「そ、そんな…。じゃあこれからも…僕がその分やるしか無いんですね…」

「いや、そんな事もないと思うよ」

「えっ…何でですか!?」

「だって、王様が変わったんでしょ? 多分、このままって事は無いと思う」

 もしこの状況を把握して、何の手も打たないなら、俺から話をしに行ってみるしかない。でも、大丈夫だろう。こうしてなりふり構わず、俺を遠方で捕まえたりするくらいだしな。時機にアクリョンがあるはずだ。

「そうだと…良いんですけど…。正直僕、王様ってただただ怖いというか…」

「まあ、事情は聞いたしわからない事も無いけど…。とにかく、皆居なくなっちゃったし、今日はここまでの内容で、わからなかった所が無ければ、一度仕事の方に戻ろうか。今度は俺が、そっちの事を覚えるよ」

「は、はい! ええと…分からないところ…あ、ここが…なんだっけ…」

「…こ、ここは、基準となる…場所が違って」

「な、なるほどぉ」

 え…!?

 意外だ。質問を待っていたら、アンシアが横から、先に教えてくれていた。

 ロア君とは、さっき会ったばかりのはずなのに…。もう人見知りだからって気を使うのも、失礼になっちゃうかなあ。

 こうして子供は時に、一気に成長して…ん?

 ロア君…なんだろうねその熱い視線は。なぜアンシアに、そんな視線を向けている?

 確かに俺は、マリーやアンシアには、同年代の男性が居ないし、良い出会いでもあればとは思っていた。

 …でも、もしそういう気があるなら、それはもういい男になって貰わないといけないよ?


 せっかく成長したアンシアに比べ、成長してないおっさんが、性質の悪い父親みたいな事を考えていた。

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