王都でのお仕事
あちらも、相当参っていたらしい。あの後、俺の提案を聞いた女王様は、ほとんど二つ返事で、それを受け入れてくれた。
個人的に、要求したのは相当厄介な物だと思うのだが…。それとも、魔術なら意外と簡単なのだろうか? まあ、俺にとっては、間違いなく大きな対価だ。向こうの負担が少なくて済むなら、世界の為にもそれでいいか。
さて、そんな訳で、俺はとある一室の前にやってきていた。問題の、この国の流通や、財政なんかを管理している部屋だ。
ここで、かわいそうな無茶振りを受けた人達が、例の無茶苦茶な事をしでかしたという訳か…。
話は通してあると言う事なので、さっそく部屋に入って、状況把握から始めたい。流れが早すぎて、こんなに簡単に、俺みたいな身元不明者を、国の中枢に関わらせていいのかと不安になる。まあ…行くけど。
俺はドアをノックした。
「はぁい!!!」
「!??」
中から、ずいぶんと元気のいい声が聞こえて来た。そしてそのまま、勢い良く扉が開かれる。
目の前に現れたのは、細身の青年だった。
てっきり、年上のおじさん達が、暗い雰囲気で机を囲んでいるのではと考えていたので、少し意外だ。
「あの!」
「あ、はい」
そんな俺などお構いなしに、目の前の青年は、勢いもそのままに俺の手を取り、訴えかけてくる。
「あ、あなた様が、話に聞いた翔さんですか…?」
「そう…です」
様…?
なぜだろう。とても目を輝かせている。
「だずげでぐだざい゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃい゛!!」
「…」
と思ったら、泣いた。
なるほど…。
俺はひとまず中へ入れてもらい、話を聞いた。
なんと先程の青年が、現在ここのリーダー的な立ち位置らしく、名をロアと言う。他にも数名、部屋の中には人がいたが、いずれも歳若い。そして女の子だ。
やはり戦闘要員は、基本軍部へと配属されるため、こんな重要な場所でも、こういう構成になっているらしい。それにしても、もっと熟練の人間が居るべきだろうと思う。でもそういう人達が、不当に…処分されたせいで、こんな状態だって話だったし、おかしくは無いのか。
「僕はその…魔術も、剣術もからっきしで…」
「それは、大変だね」
ロア君が嘆く。俺もこの世界では、戦闘面がかなりひどいし、気持ちはわかる。
こうして話をしている間にも、なぜだかロア君は、まわりの女の子たちにこき使われ、時折席を立っていた。話を進めづらい。
なんと言うか…この部屋の裏勢力図が、すでに見えて来たな…。
そんなこんなで、聞き出したところによると。
ここで働く人の中には、大人もちゃんと居るらしい。でも今は、基本的にこの部屋へは来ていないそうだ。なぜか…それは、簡単に言って、サボっているかららしい。
俺は冗談だろと言いたかった。
どうにも彼らは、いわゆる貴族でもあるらしい。要するに、その地位としての仕事が政治関係なのだ。これはまあ、良くある身分制度だ。
だがそれ故に、ありがちな問題も発生している。より偉い貴族が、仕事を押し付けて美味い汁を啜るとか、そういう系のやつだ。
どんなところでも、色々な考え方の人間が居る。例えば、自分が生きている間、やりたい放題出来ればそれでいいと言う人間。そしてそういう人が、組織の中枢に居座ると…誰かがその煽りを受ける。
今、一身に負担を背負っているのが、彼という訳か…。
そういう上手く立ち回れる人間っていうのは、おそらく前国王の処分も、上手く逃れてきているだろう。この現状も、納得と言えば納得だ。
要するに、まともな人材の割合が小さくなっているんだ。
「とりあえず、大まかに状況を把握したいんだ。次は、仕事の方について教えてもらえる?」
「仕事の方…ですか。でも、そんなに大した事はやってないんですよ。女王様を話をされたと言う事ですし、なんとかそれを続けているというだけで…。いや、量とかすごくて、本当泣きたいんですけど」
…いやいや。それはおかしいだろう? こう、業務に携わる者として、資料がこうでとか、普段の業務の流れがとか、あるだろう?
………ま、まさか。
「わ、わかった。じゃあ、次は今から俺が話す内容について、知っているかどうかを答えてほしい」
俺はこの時、最悪のさらに下の存在を感じ始めていた。




