表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/218

世界からの要求5

 衝撃の事実を知って、一夜が明けた。

 この世界に来てから、わからない事だらけで…ずっと不安だった。

 しかし、昨日のやり取りで、おおよそこの世界の現状が見えてきた。その代わり、判明した事実はとんでもない物だったが…。

 俺は、慣れないベッドで目を覚ます。隣には、離れるのが不安だったらしく、一緒に眠ったアンシアがいる。そういえば、彼女の寝顔は初めて見たかもしれない。近くにいる事は多かったけど、いつも俺のする事を、しっかりと横で見ていた。

「…んぅ」

「…」

 世界が今のまま進めば、こんなに頑張り屋な女の子も、あの暗い塊に飲み込まれてしまう。

 俺は…やっぱり死に物狂いで頑張って、少しでも何かを成さないといけない。

 そこまで考えて、俺はもう一人、守ると決めた女の子の事を思い浮かべた。村に残してきたマリーだ。

 結局ここ数日のいざこざで、ローナまでこちらに来てしまい、さらに気を許せる相手は減ってしまっている。

 ソウさんを含め、市場の皆が、親身にはなってくれるだろう。しかしマリーはどちらかと言うと、皆に気を使う側に回りがちだった。

 お世話になってきた人達だから。今は形式上とはいえ、自分がそんな人達の上に立っているのだから。そんな風に仕事に取り組んでいた。

 その点俺は、どういう扱いであれ、マリーが言いたい事を、好きに吐き出せる相手ではあったと思う。だから心配なんだ。それでなくても、ずっと歯を食いしばって生きてきた彼女だからこそ…。

 今まで通りの生活なら、しっかりと踏ん張り続けるかもしれない。でも今現在、マリーは俺の立ち上げた慣れない店で働き、さらにそのトップに居るんだ。何かがあれば、負担は彼女に掛かっていく。

 店をやっていて、トラブルが起きないなんて事は無いんだ。

「…!」

 寝ぼけているのか、アンシアが俺の手を、ぎゅっと握りしめてきた。

 そういえば…アンシアには今まで、服を掴まれている事の方が多かった。でも今回の事を経て、彼女とはこうして、手を繋いでいる時が増えた気がする。

 単にこれだけなら、ただ女の子が、甘えて手を繋いでるとしか、感じていなかったかもしれない。

 でも俺にはこれが、アンシアなりのメッセージだと思えた。

 守られているだけじゃない。服を掴んで、付いていくだけじゃなくて、時には自分も、俺を引っ張ってみせる。そういう決意の表れのように感じるんだ。

 …現に、先日の許可証の件で、助けられてしまったもんな。

 俺は頼るのが下手、か…。

 自分の手の届く範囲でしか、今まで生きて来なかった。頼らずに何とかしてきた。その弊害。

 一人で何とかしてきたと言えば聞こえは良いが、要するに俺は…誰も信頼せずに生きてきたと言う事だ。

「…はぁ」

 このままじゃきっと、俺は…この世界に応えられない。

 最悪、自分がカバーすれば問題ない。事態は、そういう範囲でどうにか出来る状況では無かった。本当の意味で、任せる事が必要な時が来るだろう。その相手を信じて…。いや、まさに今が、その時なのかもしれない。

 そう考えると、店長なんて楽なもんだったなあ。自分の育てた部下でも、他の店へ行けば、当然自分のカバー範囲ではなくなる。頼られれば相談には乗ったが、そういうのとは訳が違う。

 今の俺は、言うなれば社長的な立ち位置だ。この立場の人間は、仕事を任せる事が出来なければやっていけないんだな。

 向いてない…なんて、言っていられないか。

「…よし! とにかく起きるか」

「ん…は………ふ…ぁ!? しょ、翔…さん。おはよう、ございます」

「おはようアンシア」

 目を覚ましたアンシアと視線が合う。気付いた彼女が、慌てて少し距離を取る。

 やっぱり女の子だし、恥ずかしいのかな。こっそり部屋を抜け出しておいて、起きるまでそっとしてあげれば良かったか。

「…あ、メルー…朝…だよ」

「え?」

 いつの間にか、メルが掛布団に潜り込んでいたらしい。

「我はまだ眠いー」

「うちもぉ…」

 やれやれ。この王都に居る間は、結構しゃっきりしている印象のメルだけど、やっぱりねぼすけなんだよな。

 ………?

 俺は掛布団を取り払った。

「な、なんで居るの!」

「王子様とぉ…大きなーベッドでー……」

 そこには、丸くなり猫のように眠る、ローナの姿があった。

 俺は慌てて後ろへ飛び退く。

 というか気付けよ俺。また考え込んで、自分の世界に籠っちゃってたのか…?

「まあ…仕方ない。とりあえず、ローナも起こして……」

「………」

「ど、どうしたのアンシア。何かあった?」

「…いえ。平気…です」

 アンシアが少し、しょんぼりしているようだった。さっきの今で、どうしたというのか。

 俺はこの姿を見て、なぜだか同時に、マリーにジト目で睨まれている錯覚を覚えた。


 と、とにかく準備しよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ