世界からの要求
先程までより、少し空気が張り詰めた。
「…はい。私から、あなたに…依頼をさせて頂きたいのです」
「依頼…ですか」
イエローからも、お願いがあると聞いていたし、この手の話なのは予想出来ていた。問題は、その中身と理由だ。
そもそも、関わりなんてほとんど無いに等しかったはずの俺を、なぜわざわざ、竜を寄越してまで呼びつけたのか。そこが不思議でならない。何か、とんでもない事でなければいいけど…。
「単刀直入に言います。翔さん、あなたにこの城で、役職に就いて欲しいのです」
「職に就く…と言うと、一つ二つ何かをこなせばいい…という訳では無いのでしょうか」
「はい」
「これから、ずっとですか」
「可能であれば」
短絡的に返答するのは避けた。避けた…が、それは…無理だ。
俺には、この世界にチェーンストアを築くと言う、大きな目的がある。ここで雇われの身になってしまったら、それを成すのはまず不可能だろう。
「ちなみに、仕事の内容と、俺をこうして遠方から呼んだ理由を、教えて頂く事は…?」
「…この件を受けて頂けないのであれば、話せません」
「そうですよね」
だろうなあ。
これは別に、おかしい事でも何でもない。むしろこの返答で、安心できたくらいだ。
元の世界でも、一般人に内部事情を話すなんて、そんなのは信用問題だ。守秘義務と言う奴である。
一企業レベルでもそうなのだから、国の事情ともなれば、話せないのも当然と言える。
「どうか、この件を受けては頂けませんか」
「それは…」
正直、気持ちだけで言えば助けになりたい。
どういう事情か知らないが、こんな若さで王をしていて、そんな人が俺に助けを求めているんだ。俺がただ、大きな富を得たいとか、そういう理由でチェーンストアを目指しているなら、一度この話に乗るって手もあったが…。
「申し訳ありません。俺にも、重要な目的があるんです」
「っ…そ、そこを何とかなりませんか。私に出来る限り、最大限もてなします。お連れの方々も含めて、何一つ不自由させません…!」
「いえ…お話を受けられない理由は、富や名声と引き換えられる物じゃないんです」
「どうにか…なりませんか。私には今、人材が必要なのです…」
人材…? ここはこの国の中枢で、一番人材が集まっている場所のはずじゃないのか?
俺がわざわざ呼ばれた理由が、結局わかっていない。人材を求めているのが、仮に本当だとして、なぜ俺に白羽の矢が立ったんだ。
俺とイエローは、たかだか一晩、話をした程度の関係しかない…はずだ。
俺の心に不安が過った。この依頼は、果たして本当に、目的の為だからと断っていいものなのか…?
でも、それでも…そのもしもの為に、この場所で拘束されるのを、良しと出来る訳でも無い。どうする…。
「あー女王様? ここはもう、事情を話しちゃうのも手だと思うよ?」
イエロー…?
「し、しかし…」
「大丈夫だよ。確かに他の人達には、そうそう話して良い事じゃないけど…ほら」
イエローがちらりとこちらを見る。
な、なんだ?
「翔君は、こっち側だから」
「…」
「…はい?」
女王様は神妙な表情で黙っている。
一方俺たちは、揃って困惑していた。アンシアから、暗にどういう事ですか、というような視線を向けられているが、俺にもわからない。
こっちとは、どっちの事だ。
「わかった上で行動してるんだから、何かそれを上回る事を知らないと、翔君は考えを変えてくれないよ。大丈夫だって」
…イエロー。本当に君は何者だ?
俺の事を、単なる一商人程度に扱ってはいない…のは、ここまででもわかっていた。しかし…どう見ている?
それに、なんだか女王様に対して、敬意を払っているようで、それとは少し違う気もする。
「わかりました」
「え」
「翔さん、くれぐれも、これから話す事は、内密に願います」
「は、はい」
本当に話す…のか?
「あなたにやって頂きたいのは…この国の将来に関わる事なのです。その中でも…経済や、物流について」
「っ…」
国の将来、と言う単語に、ついビクリと反応してしまう。
それはつまり、この世界の将来にも関わると言う事で、あの夢にも関係があるかもしれないからだ。
「まず、翔さん。…あなたから見て、今この国の商業を…どう思いますか?」
これは…もしやこれまで不思議に思っていた事が、明らかになるかもしれない。




