連れ去られたのは2
部屋…なのかこれは。
いや、部屋であるのは間違いない。しかしそこは、広間とか、ホールと呼ばれる規模の大きさだった。そんな空間の中に、そこそこの数の装飾。少々意外な事に、それほど豪華と言う感じでは無かった。
そして、扉から真っ直ぐ行きつく位置に、最も目立つ物がある。大きな椅子…所謂玉座と言う物だろう。そこに、一人の女性が腰を落ち着けていた。
と言っても、歳はかなり若そうに見える。少なくとも、イエローよりは年下だ。なぜイエローと比べたのかと言えば、その髪だ。かなり似ている。今居る王城が基調としているのと同じ、明るい色だ。
俺はそっと、イエローの方へと目線を向ける。
しかし彼女は、自分は知らぬとばかりに、何も言ってはこない。絶対にこの、正面に座っている人の関係者だと思うのにな。
それでも俺は、口に出してそれを突っ込む事はしなかった。なぜなら、イエローがとても、真剣な様子だったからだ。
こんな風に、唐突に俺たちを攫ってくるくらいだ。やっぱり…事情があるって事か。
それなら、まずはシンプルに、目の前の人に向き合おう。
「お初にお目にかかります。とある村で商人をしている、翔と申します。本日は、お会いできて光栄です」
と…こんな感じだろうか?
敬語ならともかく、こんないかにもな人に対しての言葉使いなんて、さすがに知らないぞ。ご機嫌麗しゅう…とか言った方が良かっただろうか。これは違うか…。
「…はい。こんな所まで、わざわざす…ご苦労様です。面を上げて下さい」
あれ、何と言うか…向こうも慣れてない感じ…なのか?
「えー…恐れながら、そちらは…やはりこの国の?」
「はい。私が、この国の王です」
「…」
「…」
どうしよう。
話があるって事だったはずだけど、会話が終わってしまった。
普段なら、それとなく水を向けたりするのだが、やはり目の前にいるのは王様らしいし、失礼に当たったりしたら困る。こういうのって、ひたすら聞かれた事だけ答えて、余計な事は言わないのが正解ってイメージがあるんだが…どうなんだ? 最終的には交渉したいとか考えていたんだし、こっちから話し始めても良いかな…。
お互いに固まっていると、女王様がほんの一瞬、ちらりと俺の横へと視線を向けた。まるで何かを咎める様な、不満を向ける様な表情だった。
釣られて、ちらりとその方向を見ると…イエロー、なんでそんな口元をヒク付かせている…? さっき見せた真剣な表情はどこへ行った。
正面に視線を戻すと、女王様は、もう威厳を保った表情へと戻っているが…。
これはあれだ。なんとなくこの女王様から、アンシアに近いものを感じる。表面上は演じているみたいだけど、内面はもっと、やわらかい性格をしているんじゃないだろうか。
でなければイエローがこんな、真剣にしなきゃ…みたいな、それでいていつも通り笑ってしまいそうな、微妙な顔をしている訳が無い。緩みすぎだ。
イエローとは、そんなに一緒に過ごしたわけじゃ無い。でも、きっと悪い人間じゃないって思ってる。
だから多分、大丈夫だろう。必要以上に、気を使う場面じゃないのかもしれない。
「女王様」
「っ…はい」
どことなく、緊張を含んでいるように取れる返答。
「今日俺が、ここへ呼ばれた訳を聞かせて頂けますか?」
立場は違っても、同じ人間だ。
自分らしく、今までの経験を活かして、話を聞き出していこう。




