帰還2
何だこいつは…!?
まず、デカい。今乗っている地竜もかなりの大きさだけど、翼のせいもあってか、とてつもない大きさに見える。
そしてそんな巨体が、まっすぐこっちに近づいて…!
「おおおぉお!?」
「翔さん!」
「お兄さん!」
抵抗する暇も無く、俺は次の瞬間、器用にもかすめ取るように掴まれ、飛龍と共に宙へと浮いていた。
なんだ? どういう事だ? そもそもこいつは、敵なのか、それとも…。
そんな一瞬の疑問は、意外にもすぐに解消された。
「やー。ひっさしぶりだねー翔君!」
「…は?」
こんな非常事態に相応しくない、あっけらかんとした声。それが飛龍の上側から聞こえてくる。俺は、今その飛龍に掴まれているので、声の主の姿が見えない。
でも…この声は聞き覚えがある。久しぶり…そして俺の事を翔君って呼ぶのは…。
「ま、まさか…イエロー!?」
「え゛、イエローさん!?」
「や、マリーちゃんもひっさしぶり! そして急で悪いんだけど…ちょっと翔君借りてくね?」
「色々意味が分からないのですが!!?」
どうやら本当にイエローらしい。とりあえず、命が危ないと言う様な状況では無いみたいだ。
しかし俺も、本当に意味が分からない。
「翔君、ちょーっと、困った事になっちゃったんだよ。だから、一緒に来て?」
「い、一緒に来てって…」
「というか、もう行くね?」
「問答無用!?」
よく分からない事は多いが…何か緊急事態と言う事か?
また会いたいとは思っていた相手だが、こんな飛龍に乗って現れるとは、やはり只者では無かったみたいだ。そんな相手からの、救援要請…。
「仕方ない。とりあえず話を聞く…って本当にもう飛び去る体勢入ってるし!」
飛龍は低空旋回を止め、村から離れ始めていた。
「お兄さん!」
そういえば、この後時間を取って、自分が居なくて大丈夫だったか、マリーとしっかり話そうと思っていたのに、それも出来なくなってしまう。元気そうなのは良かったが…、とりあえず、とりあえずはー…。
そんな風に、色々この瞬間に何を言うべきか迷った結果。
「と、とりあえず! 地竜便の仕入れ! しっかりね!」
「…」
「…」
「そ、それ今言う事ですか!? お兄さーん!?」
そ、そうだよね。ちゃんと帰ってくるからとか、そういう場面だよね。
信用してないとか、馬鹿にしてるとかそんな感じで、怒ってるっぽいなあ…。
俺とマリーが、そんな半分漫才みたいなやり取りをしている時だった。
この状況に対して、アンシアが別のアクションを起こしていた。
「…!」
「うわっ」
「ひゃ!?」
いつの間にか、地竜から跳び下りたらしいアンシアが、魔術を使っている。地面から鋭い巨大な岩を、こちらに向けて伸ばしていた。そしてなんと、そのままその岩の上を駆けあがり、こっちへ近づいて来ていた。
…そうか! 俺やマリーはともかく、アンシアはイエローに会った事が無い。とにかく慌てて、こちらに駆けつけようとしてもおかしくない。
「ア、アンシア、無茶しないで…っ」
「…んやぁ!」
止める間もなく、アンシアがこちらへとジャンプした。
…がしかし、微妙に届かない気がする。まずい。どうにか出来るのかもしれないが、もうすでに結構な高さだ。このままだと落ちる…!
俺は精一杯腕を伸ばし、彼女を掴もうと試みる。だがしかし、それも空しく失敗に終わった時だった。
「アンシ…ア…!?」
事態が目まぐるしく変わっていく。
アンシアのさらに向こうから、一つかなりの速度で近づいてくる影があった。その影は先程のアンシアと同じく、岩からこちらへと跳び出してきた。そして途中アンシアと、彼女が抱えていたメルを回収しながら、まとまって俺の腕の中へと跳び込んでくる。
「ぐん゛んあ!?」
「ひゃあ」
「アンシアちゃんはぁ、体術の方はまだまだだねー」
「ローナ!?」
「す、すみません。ローナ…さん」
「出来ない事は、しちゃだめだよぉ?」
「…はい」
と、とにかく、無事で済んで良かった…けど、事態はまだまだ終わってない。
「イ、イエロー! イエロー!? とりあえず上に引き上げるか何かしてくれない!? 俺の腕力で、この風を受けながら…二人抱えるのは無理!」
「んー? 何々、何やってるの翔君?」
「お願い! すでにここから落ちたら、シャレにならない高さになってるから!」
「じゃあうち、寝るねぇ…」
「しょ、翔さん…わたし、自分で掴まります…から」
自由すぎる!
そしてアンシアは、やっぱり優しいなあ…。
俺たちは、そんな風にドタバタしながら、広い空をどこかへ向けて飛んでいた。
…あ、立て込んでて、マリーとの話が本当にさっきので終わっちゃってる。これは…次会う時が、怖いなあ。




