帰還
胸に不安を覚えつつ、俺たちは王都から脱出した。
町では何が起こっているのか、俺たちには知る由もない。
途中に寄る村などで、王都の噂でも聞けないかと思ったが、ここにはネットなんて無い。地竜で走り抜けて来ている俺たちよりも早く、その話が届いているはずも無かった。
帰りの道中は、何事も無かったかのように平和で、今日はもう、村へと到着する日だ。もうじき、3週間振りの村が見えてくる。
王都の事も心配だが、こっちはこっちで心配していた。マリー達は、問題無くやれているだろうか。
マリーは俺と出会うまで、ストスさんと一緒に住んでいた。出会ってからは、俺がずっと近くに居た。
今だって周りに、アンシアのおばあさんや、ローナ、店に出ればソウさんも居る。でも、普段の生活で、頼る相手が居ないのは、人生で初めてなのではないだろうか。
俺が近しい相手かって言うのは、マリーの中でどう思って貰えてるか次第だが…それでも、頼る相手が減っている事に変わりは無い。
彼女はまだ、20歳にもなっていないはずだ。18か、19か…この世界では、出会った頃すでに、成人扱いだったみたいだけど、やっぱり若いは若い。どうしても心配してしまう。
でも、なんだかんだで、村への帰還は早く済みそうだ。
許可証も、当初の予定と違うとはいえ、入手できたし、これは良い事だ。それを入手してくれたのが、この腕の中にすっぽり収まっている小さな女の子って言うのは、なんとも情けないけど…。
いや、そういう扱いはしないんだったよな。
頼りになる女の子が、俺に出来ない事をしてくれた。普通に感謝して、その分、自分に出来る事を頑張ろう。
「翔…さん。あれ…」
「ん…ああ」
そうこう自分に言い聞かせている時だった。
アンシアから声が掛かり、しっかり前を向くと、そこには懐かしの門が見えていた。
「帰って来たかー…」
元の世界でも、出張はよくあったけど、やっぱり拠点に戻ると安心する。
地竜はのしのしと山道を駆けあがり、開けた所まで出てくると、誰かが門の横に立っていた。あれは…。
「マリーさん、ですね…」
「うん」
俺たちが戻るかもしれないのは、今日が騎竜便の仕入れなんだから、わかっていたはずだもんな。
何か、ホッとした様子に見えるのは…錯覚では無いと思う。でも、ああして元気そうで良かった。
「アンシア、とりあえず今日はゆっくり休んでね」
「は…い」
そんな軽いやり取りをして、再び前方のマリーに視線を戻した時だった。
…どうしたんだ?
先程までと違って、慌てている様に見える。それに、俺たちよりも上の方を見て…そこには空しかないはずだけどな。
次の瞬間、突然影が落ちた。
何だと思ったのも束の間、続いて風を切る様な音が聞こえてくる。
…正直、確認するのが怖い。
でも確認するしかないと、俺はそっと上を見た。そこには何と…つい先日遠目で見かけた、飛竜の姿があった。
嘘だろう…?
今度はマリーに続いて、俺が呆然とする番だった。




