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黄色の王都11

 皆様、いつも応援ありがとうございます。

 この度なんと、前回の話数をもって…この小説のブクマが、100人を突破いたしました!

 自分の一次小説に、ここまでのブクマが付くのは、もう感動しきりです。

 時にはペースが乱れる事もあるかもしれませんが、出来る限りどんどん書いていきますので、今後も是非、よろしくお願いいたします!

 前回の旅の時よりも、じっくりと腰を据え、俺たちは調査を続けた。

 俺が暮らしていた世界に比べれば、娯楽関連の店が無いとか、いくつか違いもある。城下町だと言うのに、遊びに関する店が一つも無いのは、少し意外だった。

 でも基本的には、特に違和感も無く、普通の店が立ち並んでいる感じだ。

 このシンプルさは、やはり国全体の苦しさが関係しているのだろうか。俺は、国の財政状況なんて知らないし、その辺りはわからない。

 アンシアが、例の試験後の呼び出しで、何かしら情報を得て来たりしないか、とも期待していたが、こちらもどうやら、口止めがあったらしい。箝口令と言う奴だ。

 こっそり聞いても良い気はするが、アンシアには、そういう悪い事を持ち掛けたくない。そんな事言ってる余裕あるのかと聞かれれば、確かに無いのだが…どうしたのもか。

 カイン経由で、国の偉い人とパイプが出来たりしないかな…?

 いや、現状は有名な冒険者って感じだと聞いたし、それは無いか…。あの夢の状況になるなら、いずれはこの国一番の有名人ってレベルになってそうだけどな。なんせ、この世界を背負って戦う立場になるって事だし。

 そして俺も、間接的にとはいえ、それを知った上で、助ける事が出来る人間だ。自分も有名になるのかは微妙な所だけど、やっぱり人目は気にしないといけないな。




 そうして、あっという間に3週間も過ぎ、騎竜便のおじさんと落ち合う日のお昼頃。

 約束の時間まで、まだ時間があるからと、最後に一番メインの市場を、もう一度回っていた時だった。

「ああ! よかった。みつかった!」

 突然、声を掛けられたと思ったら、そこには今日落ち合うはずだった、騎竜便のおじさんがいた。

「どうしたんですか。そんなに急いで…あ、す…すみません。まさか時間を間違えて…? アンシア、こんなに早い時間だったっけ?」

「いえ、そんな事は…無かったと…?」

「…我も、もっと遅い時刻だったと思うがの」

 どうやら、俺の覚え違いという訳でも無いらしい。ならば、どうして…?

 おじさんは、やがて息を整えると、話を続けた。

「…深くは言えないんだけどね。君たちすぐに出られるかい?」

「えっ…まあ、はい。それは構いませんが、一体なぜ…? 荷物を積む時間の問題で、この時間はまだ出発できないはずじゃ…」

「それは、今急ピッチで進めて貰ってる。もう済ませて貰えるはずだから、とにかく急いで」

「…わかりました」

「はい」

 俺たちは、よく分からないまま、おじさんの後ろに付いて行く。

 一体何なのだろうか。この世界には、どういうからくりか、内緒とか、秘密とかが多い気がする。

 こういうのこそ、欲しかったコネの中の一つである、国の中枢人物との繋がりがあれば、俺も秘密を知る側に立てるかもしれないのになあ。


 そのまま俺たちは、急ぎ足で騎竜便のところへとやって来た。もう準備は整っていて、順番に地竜の背に乗せて貰う。

「では、出発しますよ。振り落とされないようにして下さい」

「わかりました」

「…っ」

 ここへ来た時とは違い、今回は最初から、アンシアも地竜の上だ。

 座れる場所は限られているので、俺の前に彼女がすっぽりと収まっている。さらにメルが、その胸の前に収まってる感じだ。

 アンシアはなんだか、小さな身体をより小さく縮こませている気がする。

「アンシア。もう少し、楽に座ってても良いんだよ。俺にもたれかかってていいから」

「は、はいっ…」

 うん。

 やっぱり途中、万が一落ちたりしたら大変だもんな。もっとも、彼女なら、華麗な体捌きで着地してみせる気もするが…。

 そんな中、地竜はゆっくりと歩み始める。町の中では、来た時もこうしてゆっくりだった。

 でも、なんだか記憶よりも、早足な気がするな。

「あの、ところで結局、どうして急に」

 時間が変更になった理由を、訪ねようとした時だった。


 突然、大きな鐘のような音が響き渡った。


「な、なん…でしょう…?」

 アンシアが不安そうにしながら、そっと頭を付きだし、俺の身体の横から後ろを覗き込む。

 音はどうやら、今向かっている出口とは逆、町の中心の方から聞こえてきている様だった。

 この町には3週間も居たけど、こんな音は初めて聞く。とても荒っぽく、そうまるで…警鐘のような…。

 そう、考えた時だった。

「敵襲ーーーーー!」

 そんな声がどこからか聞こえてきた。

「え、ちょっとこれって」

「気にせず、このまま町を出ますよ。少し急ぎます」

 おじさんはそう言って、さらに地竜の速度を上げていく。

「い、いやいや、敵襲って…これ、とんでもない事が起きてるんじゃ」

 町の人達の様子も、あっけにとられた様子から、次第に困惑したものへと変わっていく。

 これは…なんだ? どうするべきだ?

 もしかして、これによって、夢に出てきたような、ひたすら荒廃しきった世界になってしまうんじゃないのか…!?

 あるいは、時期的に考えて早すぎるし、その引き金かもしれない。

 俺…に、何かできる事はあるだろうか?

 敵襲だなんだと騒いでいると言う事は、間違いなく荒事だ。俺が何とかできる事態の可能性は…低い。でも、ここで本当は、俺が何かすべきなのだとしたら…?

 不安はある…けど…。

「お、おじさん。一度止まって貰えませんか。ちょっと俺、ここに残って様子を…。また次に往復し終えた時にでも、乗せて頂ければ」

「何言ってるんだ! 上手くいけばいいが、おそらくしばらく、ここはゴタつく。このまま、町を出るよ」

「い、いやでも、もしかしたらですね…!」

 ああ、どう説明すればいい?

 そりゃあ確かに、ただの商人である俺が、どう考えても危険なここに残るなんて意味が分からないだろう。俺だって、逆の立場だったら、こんな最悪戦場になる所に、知り合いを置き去りにはしない。

 でも俺にも事情が…全部今から説明するか?

 最悪それでも、おろしてもらった後、歩いてここへ戻れば…。もしくはいっそ、このまま地竜から跳び下りて…。

「翔…さん! あれ…!」

「えっ?」

 強行策も止む無しと、視野に入れた時だった。

 アンシアから声が掛かり、何やら上の方を指さしている。俺はその先に視線を向けた。

「…は」

 どうすればいいのか、ますます混乱してきた。

 なんとそこには、空飛ぶ竜に跨った、あのカインの姿があったのだ。そして彼は、そのまま一直線に城へと向かって行ってしまった。

 なんだなんだ…? どういう状況だこれは?

 あれか、カインが救援に駆けつけてて、まさにターニングポイントのイベント発生中、と言う感じか?

 まさか、敵がカインとか言う、とんでもない展開じゃないよな? 闇落ちが今まさに、起こってしまうとかじゃないよな…?

 これは、ますますここに残らないといけない気がする。そうさらに考えた時だった。

「大丈夫ですよ」

「え?」

「確かに万が一に備えて、脱出を急いでいますが、心配は要りません」

「い、いやいや、おじさん心配がいらないとかじゃなく…て…」

 ………。

 いや、待てよ。

 そもそも、おかしくないか?

 だって、おじさんが急いでいたのは…この警鐘がなる前からだ。それってまるで、この騒動が起きるってわかっていたみたいな…。

「とにかく、そのまましっかり座っていてください。大丈夫、どう転んでも、今よりひどい事にはなりませんから」

「…!」

 間違いない。おじさんは何か知っている。その上でこうして、行動しているんだ。

 ただの、運送屋さんでは無かった…?

「いったい何者なんです…?」

「…私は、ただの騎竜乗りですよ」

 その後に、私は、ね…と続きそうな、そんな言い方。何か、もっと今の騒動に関わる誰かと、繋がりでもあるのか…?

「放っておいていい…んですね?」

「私たちが出来る事は、少なくとも無いでしょう」

「翔…さん」

「…」

 アンシアは不安そうで、メルの方は何も言わない。

 信じていい…のかはわからない。

 でも、確かに荒事では、俺が活躍できないのも事実。ここで跳び下りたら、間違いなくアンシアも付いてくる。つまり、彼女も危険に巻き込むことになる。

 それは、避けたい。

「わかりました」

「はい」

 気になる。それはもう、この事態が何なのか気になる。

 でも、明確に何かが出来るというアテも無いのに、危険を冒しても仕方がない。村への魔物襲来の時とは、状況が違う。

 ここはこのまま、一度村へと戻ろう…。

 俺はそう決めて、アンシアをしっかりと抱きしめ直した。町のパニックで、何かが飛び出してくるかもしれないし、その時バランスを崩したら良くないからね。

「は…う…」

 俺たちは、そうして最後の最後で、大きな問題を目の辺りにしながら、王都を去る事となった。


 カイン…どういう状況なのかは知らないけど、頼れる人には頼って、その代わり、力の限り頑張れよ…!

 俺は心の中で、そう応援する事しか出来なかった。

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