黄色の王都10
いつもの夢。
やはりあの程度の事で、即時解決するはずも無い。
俺は、昨日までと変わらぬ、切羽詰った彼を見た。
未来の勇者、カインとの出会いを経て、その後…。
ここまで運んでもらった騎竜便は、現在すでに、村へと出発してしまっている。荷物を積んだらすぐ出発とは、本当に凄い生活状況だ。おじさんも地竜も、大変そうだと感じてしまう。
そしてその為、再び往復して、村へ向かう時に乗せて貰うのが最速となる。
その時は荷物がある上、俺達まで乗る事になり、少し申し訳ない。でも本当に力強い走りだったし、俺の良く知る動物とは、その辺りの常識も違うのだろう。
そんな訳で、それを待つまでの3週間…俺たちは町の探索をメインに過ごしている。
今日も今日とて、町を練り歩く。
これは実際に、元の世界でもやっていた事だ。
ライバルになるお店、つまりは競合店の調査をするのは、この業界に関わりの無い人でも、イメージが湧く人は多いと思う。
でも実際には、それだけという訳では無い。その地方の風習や、どんな住まいが多いかを調べたりもする。年代別人口、学校の有無などもそうだし、その調査対象は多岐に及ぶ。
それらはすべて、お客さんの事を知るためだ。一言で表すと、客層を調べていると言う事になる。
「…」
「…」
そんな事をしながら、俺とアンシアの二人は、現在市場の外れの辺りを歩いていた。そう、二人だ。今日はメルが一緒に居ない。
どういう事なのか、用事があるからと一人、どこかへ行ってしまったのだ。あのまん丸ぬいぐるみの姿で、である。
先日といい、どういう心境の変化なのか。そもそも用事とは何なのか。いつものごとく教えてはもらえなかった。俺と離れないと言うのはどうなったのか? 離れて行動している間、絶対に町からは出るなと言う事だったけど、それが関係しているのかもしれない。
世界を統治するものとして、神には制約も多いとか言ってたもんな…。
とまあ…それは重要な事なんだが、今の問題はそこでは無い。
アンシアと、二人きりに…なってしまったと言う事だ。
先日のカインとの会話、それで俺は、この世界における指切りの意味を知った。その後、即アンシアと顔を合わせたのもあり、ひとまず当初の予定通り、何も知らないままと言う体で接している。困惑していて、とっさに言い出せなかったのだ。
本来なら、知らずに軽率な事をしたと、一言謝罪してしまえば良いと思うのだが…。
「アンシア、次はそこの路地へ入ってみよう」
「…はいっ」
うーん…この今までより、少し弾んだ声。
それでもマリーとかより声は控えめだし、話すテンポもゆっくりなのだけど、今までとは確かに違う。そんな変化だ。
それは、先日の突発的な魔物との戦いで、何かの自信を得た結果だろうか。
そんな女の子が、今現在俺の服をそっと掴んで、慎ましくくっ付いてきている。成長を感じて感慨深いのもあるし、心から可愛らしいと思ってしまう。
そう、可愛らしいとは思うんだ。こうして懐いてくれるのも、すごく嬉しい。
でもやっぱり、こう…子供を見守る気分なんだよな。
独り立ちした人間であると扱うのと、自分の恋愛対象になるかは、やっぱり別の問題だ。
というかそもそも、アンシアが俺にそういう感情を持っているとは限らない。仮に持っていたとしても、いわゆる小さい頃の憧れ的な感じで、将来的には同年代の誰かと恋をして、俺の事は過去になるだろう。
いや、まあ俺なんか、情けない所ばかり見せている気がするし、そういう風に見て貰えているとも思えないが…。
俺は今、アンシアの近くに居る唯一の男だし、そういう意味で、父性を求める…みたいな物じゃないかな。
だから、甘えて貰えるうちは、好きなだけ甘えさせてあげようと思う。
うん、そうだよな。
俺はそう考え、ひとまず指切りの件を気にするのは止めた。
調査中とはいえ、こうしてアンシアと二人だけで、ゆっくり過ごすのは珍しい。俺の方が一方的に、よそよそしくしたりしたら、なんだか可哀想だ。
自分の中で落としどころを見つけた俺は、そんなアンシアの頭を、なんとなくポンと撫でた。
それに対してアンシアは、なんだか不思議そうに俺を見上げた後…どういう訳か、なんと腕を組んできた。
「ア、アンシア…?」
「だめ…でしょうか…」
「い、いや、いいよ…?」
「…はい」
「…」
今日も、良く晴れてるな…。
やっぱり少しばかり、反応に困るかもしれない。
そんな思考をなんとか端に追いやり、俺は引き続き調査を続けた。




