二度目の旅立ちと2
新しい旅立ちの日を迎えて一日…どころでは無く、当日の夜。
…早くも問題が発生した。
「…」
「…」
「すぅー…ピィー…」
今、騎竜便のおじさんは、地竜の世話をしに行っている。
俺は今、そこから少し離れた場所に居て、野営の準備を進めないといけない…のだけれど。
なぜだろうか。ここには今、俺以外の人物がいる。
「ぴゅぅー…」
一人目は…もう寝息でわかる。メルだ。
確かに付いて行くとは言っていた。でも俺としては、曲がりなりにも神様だし、マリーの方を守っていて欲しかった。
だから、出発の時見当たらなかったので、そのまま置いてきたつもりだったんだが…。
いつの間にか、地竜の背負った鞄の中に入り込んでいたらしい。
俺だって、どうしても、メルが俺に付いていないといけない理由さえ聞けば、従う。でも、聞いても答えてくれないんだよな。
そういう神様としての、決まりみたいなものでもあるのだろうか。
まあ、メルの事は、元々一緒に行く想定もしてたし、それでいい。問題は、もう一人の方だ。
「…」
相変わらず、目元が隠れていて、表情が読めないのが困る。
お互い無言になってしまっているけど、なんだか小さくなっている様に見える。怒っている訳では無いし、怖がらせていたりしなければいいんだけど…。
「えっと…アンシア、どうしてここに?」
「そ…の…」
そう、なぜかついて来てしまったもう一人は、アンシアなのだ。
今日の移動を終え、地竜が鞄を降ろしたところ、その中にメルを抱えたアンシアが入っていた。
寝ていたのにも拘らず、メルが潜り込んでいたのは、アンシアが運んできたからという事だろう。
見つけた時は驚きしか無かった。でもアンシアが、メル…というか、このぬいぐるみを抱える姿は久しぶりで、今思い返すと少しかわいい。
鞄の中で丸くなって、ぬいぐるみを抱える控えめな女の子…この妄想は止めよう。
何と言うか、ひどく失礼な気がする。
「とにかく、一度帰る手段を探してみよう。マリーも心配してる。どこか町の近くを通った時にでも、おじさんにお願いして降ろしてもらって」
「い、いえ…! マリーさんは…知って、ます…ので」
「え」
マリーが知ってる…?
まさか、最初からアンシアを付いて行かせるつもりだったのか?
俺に黙って…そこまで心配だったのか。
「えっと、つまりマリーの方は、アンシアが居なくなって慌てるような事は無い訳だ」
「…はい」
「うーん…」
マリーが承知の上だとしても、戻って貰った方が良い気はする。
何があるか分からないのは事実だし、人見知りのアンシアに、旅は大変だろうに。
でも、マリーがアンシアを無理やり行かせるわけない。きっと、二人とも同意の上なんだよな…。
それに、おじさんに無理を言うのは、正直避けたい。
どこかの町にわざわざ寄って、待って貰うよりは、このまま連れて行ってもらった方が、迷惑は掛からないだろう。
「わかった。アンシア、一緒に行こうか」
「あ…はい…っ」
とても安堵した声だ。
実際通常業務だけなら、店の方はアンシアが減っても回せるはず。
こういうのも良いだろう。アンシアにとって、良い人生経験になるかもしれない。
「さて…そうだアンシア、ずっと鞄の中に居たんでしょ? 大丈夫だった? どこか身体痛くしてない?」
「大丈夫…です」
「そうか。じゃあおじさんに、アンシアも連れて行ってもらえるよう、お願いしてみよう」
「…はい」
こうして今回の旅に、思わぬ連れが出来た。
より一層気合を入れて、アンシアの事だけは守らないとな。もし何かあったら、彼女のおばあちゃんも悲しむだろうし。
ちょっとしたハプニングがありつつも、出発初日の夜は更けていった。




