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日常は唐突に3

 目の前だけ見れば、昨日までと変わらない。

 そんな平和な今日も、もう夜になった。

「あ、あの…、お兄さん…? お邪魔します」

「いらっしゃい。今日もお疲れ様」

 約束通り、俺は部屋でマリーと落ち合う。

「…」

「マリー、そんなに緊張しなくていいよ。…あれ、珍しいね。いつも夜には、髪ほどいてるのに」

「こっこれは…その…、色々その…気合を入れてと言いますか…」

 なるほど、そんなに真剣に、意気込んで来てくれたんだな。

 重要な話とはいえ、先の事なんだから、もっと気楽に来て貰えばよかったか。

「じゃあ、始めようか」

「ふぁあああああいきなりそ」

「マリーの考えてる通り、確かにあの光のあった日、少し状況が変わった」

「………」

 …なんだろう。

 マリーがいきなり、虚無感を背負ったような顔をしている。

「マリー?」

「…っはぁ……」

 天井を仰いで息を吐いたと思ったら、今後は乱暴に髪をほどいてしまった。

「あ、あれ。気合入れて、縛って来たんじゃ」

「続きをどうぞ」

「はい」

 触れない方が良いと察した。


 俺は気を取り直して、話を始める。

「ええっと…、そう。状況に変化があったんだ」

「はい」

 …う、うん。

「それで、マリーも知ってる通り、俺たちは次の段階…店舗の数を増やして行く為に、まず国の許可証が必要だよね」

「そうですね。…もしかして、それの日取りを決めたと言う事ですか?」

「うん、大体はだけどね。色々と考慮したけど…今から約半年後、ちょうど今の店を始めて、一年経った時期を見据えて動こうと思う」

「あと、半年ですか…」

 マリーは今、こう聞いてどう判断しているだろうか。


 実を言えば、今回決めた日取りは、俺が考えていた第一候補より、早くなっている。

 あの夢の内容を受けて、俺の伝手を増やすタイミングが、このままでは遅すぎると判断したからだ。

 俺は、結局のところ、未だにこの世界の知り合いがほとんど居ない。

 この先見据えている事を考えると、元々出来るだけ、早いに越したことは無かった。

 そして伝手が増えれば、それだけ出来る事も増える。

 こちらに無理のない範囲で急ぐことで、そのほんの少しの違いが、どこかで巡り巡って、勇者の助けになるかも知れない。

 それを願って、今回の日取りに決定した。


 店の運営に慣れると言う意味では、確かに一年あれば事足りる。

 でも、店には一年の流れと言うものがある。それを体感して初めて、やっと一回、経験した事になるんだ。

 だから本当は、最初の一年は俺が指揮を執り、二年目から、マリーにすべて店を任せる。

 それで問題なくやっていけるか、半年は見守りながら、出来る事を裏で進めようと思っていた。その間、ほんの数日ずつくらいなら、例えば店を離れてもリカバリーが効くと考えたからだ。


 しかし、俺が今伝えた日付は、開店からちょうど一年後。

 ずっと店を営んできた人たちばかりなのだから、心配しすぎだと思われるかもしれない。

 でも、今この村にあるのは、丸猫屋なんだ。何とかするだけでは無く、店の在り様、イメージも守って貰わないといけない。

 これが崩れてしまえば、俺の計画は破綻してしまう。

「では、お兄さん。その時までに、私も準備を…王都に行くなんて、ちょっと想像ができませんね」

 っ!?

 …そうか。そこも、まだこれから伝える予定だったもんな。

「マリー、そうじゃない。マリーは…連れて行かない」

「…え? な、なんで!」

「マリーには、この店を守ってもらう。半年前の旅みたいに、どのくらい時間がかかるか分からない以上、俺とマリーが、二人とも王都に向かう訳にはいかない」

「で、でも前は私達二人で…」

「その時は、まだ店は無かった。マリーなら、冷静になればわかるはずだよ」

「…わ、私が居なくても、ソウさんが居ます。皆さんだって、素人では無いんですから」

「本当にそう思う?」

「………いいえ」

「…うん」

 この村の中で、他ならぬマリーが、一番それを理解できる。

 俺の知識を、一番教えて、伝えてきたのはマリーなんだ。


 組織を正しく維持するには、余裕が必要なんだ。

 おそらく俺とマリーが居なくても、半年後の皆なら、ちゃんと丸猫屋を続ける事は出来る。

 でもこれは、何事も無ければの話だ。

 お客さんとの、特殊なトラブルがあったらどうか。ちゃんと、丸猫屋の看板を背負った上での対応が出来るのか。

 万が一、ソウさんが倒れてしまったらどうだ。誰が店を指揮して行ける? おそらく他の誰かでは、まだ難しい。どこかで綻びが出てしまうだろう。

 個人の店ならいい。

 でも、組織としての店を運営し、人を雇っているのなら、迷わず指揮を取れる人間が、二人以上は必要なんだ。

 そうで無ければ、たった一つ。何かがあっただけで、取り返しが付かなくなるかもしれない。

 代わりを出来る人間が複数いるだけで、その危険性はぐっと低くなる。


 だから、マリーにはここに居て貰う。

「頼んだよマリー。俺が一番信頼してる、君に任せる」

「…し、仕方がありませんねっ」

 そう言って、ふいっと横を向いてしまう。

 望みとは違う事をして貰う事になって、申し訳なく思う。

 でも、こうして任せられる人がいるからこそ、俺は先に、店をスタートすることが出来たんだ。

 そうでなければ、俺は許可証の取得から、先に始めないといけなかった。

 そのおかげで、俺がいない間も、店で働く皆の経験は溜まっていく。順序が逆になっていれば、年単位の遅れになっていたかもしれない。

 まだまだ、歳相応な部分もあるけど、本当に良く、俺の教える事を吸収してくれてると思う。

 マリーが居て良かった。

「そういう訳だから、明日から日中の指揮を、マリーにお願いしたいと思う」

「あ、明日からですか!? 急ですね…」

「うん。何せ、もう練習が出来る期間は限られてるからね」

 マリーが対応しきれなくても、俺が居る。すぐにそんな事は言えなくなる。

「それで? まだ何かあるんでしょう?」

「さすがマリー。あー…言いにくいんだけど、また、夜の勉強会を復活させよう。もちろん無理のない範囲で。余計に頑張って貰う事になって、申し訳ないけど…。明日からも、毎晩俺の部屋に来てくれる?」

「…お兄さんは、もう少し自分の発言を、振り返った方が良いと思います」

「ええ!? な、なにそれ。何の話? 今日の皆への話とかで、何かまずい事言ったりしてた?」

「はー…。そういうのじゃないので、気にしなくても良いですよー。わかりました。私が、毎晩、ここへ通ってあげます」

「は、はあ」

 そんな事を言われても、気になるのだが…こういう時のマリーは、粘っても絶対に教えてくれない。

「久しぶりに、お兄さんとの時間が増えるのは、嬉しいですしね…」

「??」

「それで、今日はどうしますか?」

「あー…今日はおしまいにしよう。明日からも、そんなに長くやったりはしないから」

「わかりました。では、帰りますね」

 そう言って、マリーは部屋の出口へと向かう。

「また明日」

「はい。…お兄さん」

「うん?」

「色々、これからもよろしくお願いしますね」

「うん。こちらこそ、よろしく」

「ではではー…あ」

「っ…」

「ん? どうかした?」

 なぜか、マリーが出て行きかけた部屋の入り口で、動きを止める。

「いいえー。なんでもないですよ。おやすみなさいお兄さん」

「そう。おやすみマリー」

 結局そのまま、マリーは帰っていった。

 何だったのだろうか。


 何はともあれ、これで当面の行動が決まった訳だ。

 これ以上、何事も起きなければいいが…。

 おっと、マイナスの事ばかり考えるのは良くない。皆にも偉そうに語ったしね。

 今日はもう、ゆっくり休むことにしよう。


 俺は今日一日、頭を酷使した反動か、そのまますぐに眠りに落ちてしまった。

 きっと疲れていたのだと思う。

 そして、だからだろう。俺は気付いていなかった。

 先程の話を聞く影が、マリー以外にもいくつか存在していた事に。


「…翔…さん」

 一つは、小さく身近な存在。


 そして…。

「ふむふむ。やっぱり翔()はそうだったかー。多分そうだろうなーとは思ってたんだよね」

 人気のない夜の村を、何者が動く。

「ふふっ。翔君、もう少し、このまま頑張ってみて。そしたら、あたしが力になってあげられるかも知れないよ?」

 そこにはもう一つ、どこからか射した光に照らされ、黄色く輝く髪をなびかせる女性の影があった。




 …。


 そうして、月日は流れていく。

 俺たちはまた、新しい一歩を始めようとしていた。

 皆様!

 この作品を読んで頂き、本当にありがとうございます!

 ここからは、いわゆるあとがき的な何かとなりますので、興味の無い方は、スルーして頂きますよう、よろしくお願いいたします。


 改めまして、らいずです。

 こんな所まで読んで頂き、ありがとうございます。

 お陰様で、この作品も無事、第2章の完結を迎えることが出来ました。

 さらに、それに合わせて、なんと先日、総合ポイント200点に到達することが出来ました。

 本当に本当に、励みになります。

 貴重な意見なども頂けて、そのおかげで、見直すきっかけを得る事も出来ました。

 論文か何かの様だった改行なども、少しは小説らしくなってきた…と、思います。

 今回ぎりぎりではありますが、目標通りの期間でここまで書けたのは、間違いなく支援あっての物です。

 某、超有名なラノベの、超有名作家様の言葉を借りるなら、やる気Maxファイアで書いた方が良いに決まってる! というやつです。

 なのでこれからも是非是非、感想ご意見、評価での叱咤激励、お待ちしております。


 さて、今回はあとがきらしく、裏話的なのも一つ。

 気になっている方もいらっしゃるかもしれないのですが、この小説は、翔の視点以外でのシーンが書かれていません。(こういう作品は、他にもあります。)

 実はこれ、この作品のコンセプトにも関わってくる、理由あっての事なのです。

 その為、そうは言っても、ここは読者様には伝えないと意味が分からない。

 そういう所を除き、極力、翔が知らない事は読者様も知らないままとなっています。

 でも実際は、翔の知らない所で、登場人物たちは、確かにドラマを繰り広げているんです。

 そのまだ見ぬドラマや、コンセプトの答えについては…翔のお話が完結した後に、お届けする。

 そんなことが出来れば、幸せだなあと考えています。

 …いつの話でしょうかそれは!!???

 頑張ります!


 これからなのですが、力の限り、良い作品をお届けしたいので、また少し、次の駅までの内容を詰める期間を頂こうと思います。

 間が空きますが、必ず続けていきますので、どうか引き続き、応援頂けたら幸いです。

 また、次の章までの間に、再度一つ、人物紹介が挟まる予定になっています。

 そちらも興味がある方は、是非読んで行ってください。


 ではでは、今後ともどうか、どうかお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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