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日常は唐突に

 近頃はもう、めっきり暑くなった。そんな日の昼下がり。


 休日は、何をしても自由だ。

 皆、初めは何をすればいいやらと言った様子だった。

 しかし、それも慣れて来たのか、最近はそれぞれ、有意義に過ごしているみたいだ。

 一日おしゃべりに興じる人達が居たり。

 実はド定番と言う事で、商品としても扱っている。各種ボードゲームに興じて見たり。

 中には、彫刻にハマって、芸術を極めんとしている人も居る。

「ここが…こう…で…」

 そんな中、今日は俺も休日だ。

 一体何をしているかと言えば…仕事をしていた。

 ここまでの収支や、予定とのズレなど、考える事はいくらでもある。

 え、それ駄目な奴やろ…と、思われるかもしれない。

 まあ実際、その通りだ。例え店長でも、休みの日に休めないなんて、どこかで破綻している。

 でも、仕方がないんだ。

 元の世界ではパソコンを使って、複数人で管理していたような物を、ほとんど俺一人で管理している。

 確かに量は少ないが、だからと言って、行程が減る訳では無い。計算が人力で出来るレベルで、助かったと言う程度だ。

 俺はここへ来て、心の底から文明の利器と言う物を実感していた。

 しかし、別に苦では無い。元の世界でもそうだったし。

 …それはそれで、問題ではあるかもしれないけど。

 今は踏ん張る時なんだ。店の数を増やすとなったら、嫌でも、まともに機能するように整える必要がある。

 その時に、基準となるデータが要る。

 ゆっくりするのは、そう出来るようになってからでもいい。

 お手本になるべき俺が、ちゃんと休まないのはどうかと思うけどさ。


 さて、先ほど仕事は苦じゃないと言った。

 けれども、別の苦悩が俺を襲っている。

「おうじぃ…様ぁ…」

「…」

「ピィーー…スゥー…」

 現在、床に座って、台に資料を広げている俺の周りには、他にも人がいた。

 まずは、安定のローナとメル。この二人は、いつものように眠っている。

 なぜわざわざ俺の真横でと言う所だが、理由はある。この部屋には、冷風機が置かれているんだ。

 実はこの冷風機、あの例のお客さん以降、まだ全くと言う程売れていない。

 正直そうなる事も、俺は想定済みだった。

 このご時世だし、もう少しこの世界が豊かになってからが、本番になる商品だと思っていたからだ。

 季節を先取りどころか、時代を先取りした宣伝を兼ねていた訳だな。

 ただこの結果を受け、マリーがあまりに悲しい顔をするので、とりあえず俺が一つ買った。

 そう言う訳だ。

 そして話を戻すと、メルはともかく、ローナは非常にその…身体に良くない。

 近くどころか、身体のあちこちがくっ付いている状態で、時折寝言も聞こえてくる。

 集中している時は良いが、気を抜いた瞬間に刺激されて、なんとも心が休まらない。

 ここまでなら、まあ何とか、鋼の精神を持って、意識の外へ追いやればいい。

 今日はそれに加えて…個人的に、非常に困る状況にある。

「…」

「…アンシア、部屋寒すぎたりしない? 大丈夫?」

「…は、い」

「そっか」

 そう、今日はアンシアも、俺の横に居るのである。

 しかも、そっと服の裾を掴んだ状態で、俺の作業を見続けている。

 休みのサイクル上、ローナとアンシア、どちらかと休みが重なる時はそれなりにある。けどこうして、3人同時なのは珍しい。

 この両手に花、プラス一匹の状態は、さすがにこれまで経験が無い。

 正直、くっそおおおおお後10歳若ければ! そんな事を考えてしまう。

 これまでも、二人が今している事を、それぞれバラバラにされた事はあった。

 それなのに、二人一緒だと、なぜこうも背徳感が湧くのだろうか。

「…」

「…えっと、退屈じゃない?」

「………はい」

 しばらく俺の顔を見つめた後、大丈夫だと返事が返ってくる。

 アンシアはなあ…こういう仕草がかわいいんだよなあ…。

 下から見上げられたとき、長い前髪がさらっと流れるのがまた魅惑的…駄目だいけない正気に戻って俺。

 こんな事を考えるのは、この反対に居るローナのせいだ。人のせいにするのは良くないが、これはそうだから仕方がない!

 俺としては、アンシアはもっと、歳相応に楽しい事を見つけて、遊んだりして欲しいんだけどな。

 いや、俺の思う歳相応って言うのも、元の世界ではの話か。

 こうして、自分で望んで俺の横に来てくれるのだから、変な意味では無く、それを喜んでおけば良いのかもしれない。




 平和だった。

 不安だった店も至って順調で、皆今まで通り生活できている。

 それどころか、休日まで取れるようになって、間違いなく目的へと前進していた。

 そんなある日の事だった。

 何の予兆も無かった。


 はるか遠方の地に、特大の光の柱が立った。


 それは、この世界においても、明らかに日常とはかけ離れた規模だった。

 この村だけじゃない。

 砦の皆も、石の町の人達も、まだ見ぬこの世界の人間が、この光を見ているはずだ。

 やがて、その光は次第におさまり、目に映る景色は、何事も無かったように戻る。

 でも、元の通りと行く訳はない。

 どうする事も出来ない。

 この日は、世界のほとんどの人間に、さらなる不安をもたらした日になった。




 あの光を見て、俺も嫌な予感はしていたんだ。

 この日見た夢は、やはり内容が変わっていた。

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