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俺たちの店3

 これは正直、想定以上なのだが、いつもより2割増しでお客さんが来ている。

 確かにここの所、オープン予定日が決まってから、砦や石の町に行った際には、それを告知するチラシを貼って来て貰っていた。

 ほんの数人でも、客足が増えればと思っていた。予想よりかなり効果が出ている。

 この世界における現在の衰退、変化の無さには、うんざりしている人が多いのかもしれない。

 だとすれば、うちの店はそうした心理的需要にも応えて行けるはずだ。




 人は、視線の動きに法則がある。

 基本的には、手前から奥、上から下。先に横方向へ視線が動き、縦向きの動きはそれから行われる。

 現代の大手企業では、それに色彩の要素なんかも加えて、必ず決まった順番で商品を並べている。

 商品を探しているのに見つからず、店員に聞いてみたら実は近くにあった。そんな経験は無いだろうか。

 そしてそういう商品は、大抵あまり売れない商品だ。意図的に、人の視線が向き辛い位置に追いやられているんだ。

 代わりに、人気商品や興味を引きやすい商品が、目立つところに置かれる。

 こういうお客さんに足を止めて貰う工夫が、理論的に設置されているんだ。

 

 よし…いいぞ。順調だ。

「お兄さん…実際に目の当たりにすると、怪しさが半端では無いですね」

「こういう物だ。慣れてマリー」

 今何をしているかと言えば、売場で足を止めるお客さんを数えていた。それぞれの売り場ごとに、出来る限り細かくだ。

 もちろん、あからさまにお客さんを見つめている訳では無い。

 帳簿でも付けている振りをしたり、商品を整えている振りをしたり。

 しかし、意識は売場のお客さんへ向いている。

「なんというか…またお兄さんが、変な力に溺れて何かしてるように見えます」

 マリーは引いていた。

 確かに心眼とか、その手の事をやろうとしている様に、見えなくもない…かもしれない。

「必要な事だから」

「…はい」

 こう言ってはいるが、マリーだって同じことをしている。まあ俺が指示しているのだが。


 元の世界でも、新入社員の部下たちが、めんどくさそうな顔をしていたな…。

 俺の居た店では、これに加えて、データに基づく棚ごとの売上確認。そして売上の低い売場の確認、法則に基づく改善と、この確認作業の前後に、さらに別の作業がある。

 他ならぬこのデータが、レジによって集められるんだよな。

 いつか、魔術に長けた知り合いが出来たら、そういう魔術を組んで貰おう。


 こうしている今も、お客さんがふと足を止め、そしてそのまま通り過ぎていく。

 実はこれ、なんて事無い買い物の様子に見えて、非常に重要だ。

 これまでうちの市場では、目的の店に立ち寄り、必要な物を買って去る。そういうお客さんばかりだった。ある意味、それが普通ではある。

 でも今のお客さんは、パッと見で興味を持ち、立ち止まった。

 これは目的の場所へ行くまでに、一つ商品を宣伝できた事に他ならない。

 今まで、ある事すら知らなかったものが、お客さんの記憶に残ったんだ。

 そのまま、衝動買いなんかしてくれれば、もちろんこれ以上は無い。

 しかし、現状それは難しいだろう。だから、植えつける。

 この店は、こんなものがあった。

 この店は、あれがいくらで売ってた。

 この店は、他と違っていた。

 その評価が、悪いものでなければ何でもいい。

 噂になれば、興味を持つ人が増える。そうすれば、数人程度でも、お客さんが増える。

 その繰り返しだ。


 せっかく異世界に居るって言うのに、何と言う地味さだろうか。

 でも、今はこれが俺のできる事だ。

 変わってしまった夢を思いだす。

 あのイカズチと呼ばれていた青年に、何かあったのだろうか。

 俺の行動が、後々ほんの少しでも助けになると信じたい。


 結局オープン初日は、来客数に比例した売上で終わった。まあ、上々だ。

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