俺たちの店2
店と言うのは、何もお金儲けの為だけに、運営される訳じゃない。時にはそれ以外の、目的を持って出店される。
例えば、その地域に足りない物資の供給の為に。はたまた、その店自体にネームバリューがあるなら、地域への集客の為に。
必要とされる理由、俗に言う需要さえあれば、そこへ供給を与える。それを成すための一つの形、これが店だ。
では、俺たちの記念すべき丸猫屋一号店が、達成を目指す目標は何なのか。
最終目標では無い。この店舗での目標。
それは、この村を利用する人間を増やす事にある。
現在この村が、他の町よりもさらに一層寂れているのは、ひとえに必要とされていないからだ。
そこそこ大きめの石の町から、砦までの最短ルートが出来たせいで、立ち寄らなくなった人が多い。
しかしそれでも、ここはこの世界の神樹がある村で、住む人たちも、完全に離れる事は無いと言う。
ならば、距離に違いがあると言っても、何日も掛かる行程なんだ。
村があるこちらのルートの方が、総合的に考えて、割がいい。冒険者を中心とした旅の人達に、そう思わせるようにするしか無い。
その、この村を通った方が良いと言う理由に、俺たちの店がなるんだ。
だからこそ、現代の新しいコンセプトの店が必要となる。
この村にある、この店だからこそ、そういう要素を見せつけるんだ。
記念すべき営業初日、この日の開店時刻。その時、目の前にお客さんの長蛇の列は…当たり前だけど無かった。
そもそも、オープン初日に人が並ぶなんてのは、元居た世界ですら、一つでも条件が揃わなければ発生しない。
店の知名度だったり、需要だったり、地域性で、朝一から買い物に行く人が少ない。そんな事もある。
だから、慌てる事は無い。
今まで市場に来ていたように、少しずつお客さんはやってくる。ほら…。
「いらっしゃい!」
「いらっしゃいませ! どうぞ」
記念すべきお客さん第一号が、うちの店員に連れられてやってくる。
ここは今までの市場のすぐ横だが、何と言っても今までずっと変わらなかったものが移動している。だから、何人かは市場に待機して、お客さんの誘導を行っていた。
ずっと続けるわけでは無いが、しばらくはそこにも人手が必要だ。
「これは…?」
こちらが差し出したものに対して、お客さんから疑問の声が上がる。
「はい、こちらは買い物に使うカートで―――」
そう、これが準備していた物の一つ、買い物カートだ。
うわ、そんな程度のものか、と思われるかもしれない。でもこれは、広い店内を回って貰うこの形態の店では、かなり重要な物だ。
何より、これは一つの要素なんだ。
この店の“特別”として、噂が広がる為の要素。
実はこれこそが、砦でマリーに交渉してもらっていた物の正体なんだ。
元の世界ではどこにでも見かける物だが、これが意外と、強度や重心の問題で、結構すごいものだったりする。
そこで、金属のプロであるストスさんを頼って、この世界に造り出してもらった訳だ。
その為、実を言うとこの買い物カート、元の世界の物とは結構違う。見た目はどちらかと言うと、車いすに近い代物だ。
主な理由としては、地面がツルツルピカピカの、コーティング床とは限らないところ。
このカートの運用として、例えば宿屋までそのまま使う。他に、カートごと買う事も出来る様になっている。
そうなると地面は土が基本だし、見慣れた4つ脚のカートではガタついて仕方がない。
このカートに購入需要があるかは未知数だけど、購入が無くてもそのまま備品で使える。
売れるかもしれない物を、売らない手は無い。
あまりに売れるようなら、最低元の店内分は残せばいい。
お客さんは、不思議そうな顔をしながら、店内へと進んでいく。
今までの市場と違い、立っている所から全商品は見えない。その代わりに、天井からぶら下がった案内板が、どこに何があるかを教えてくれる。
本当はこんな程度の大きさの店に、吊り下げ看板なんて必要は無い。
でもこれも、何かが違った。ここは特別だったの一つになればいい。
ここにはまだまだ、この世界にとっては新鮮な、変化を重ね続けてきた店の形が盛り込まれている。
さあ、これからどんどんお客さんが来るぞ…!




