表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/218

生活はどうなった5

 暑かった夏は、とうに過ぎ去っている。

 新しい体制を動かし始めて、もう数か月が経っていた。

 今ではすっかり寒い季節だ。

 お店も、建物自体はトラブルも無く完成し、先日知り合いの職人に、強度も確認してもらった。

 問題無しだ。

 その確認依頼の為に、一度石の町へ行った訳だが、そこで一つ成果があった。


 そして、それを持ち帰った俺は、さっそく運用テストの為、ここのところマリーに試してもらっている。

「あ゛あ゛…あ゛ぁ゛っ…ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 試して…貰っている…。

 マリー…またそんな乙女がしちゃいけない声出して…。

「今日も、問題無く動いてるみたいだね。これなら、良い目玉商品に出来るかもしれない」

 そんな呑気な俺の声に、キッ!っと鋭い、マリーからの視線が飛んでくる。

「ひ、ひひひ他人事だと思って…、最低です! さては、私をこんな目に合わせて楽しんでますね!?」

「いやそんなわけないよ。大切なマリー」

「そう、っひぃあ~~~! 言うならっ、お兄さんも、こっちへ来てはどうなんです!」

「…あえて近づきたくはないかなー」

「お兄さんのっ…変態ぃ…」

 変態要素は無いでしょ…。


 マリーが今、何をしているか。

 実はなんと、この世界ではまだ全く出回っていないと言う、とある冷房装置を起動してもらっている。

 そう、冷房装置だ。

 この寒さの中だが、冷房装置だ。

 待って欲しい。一つ一つ説明したい。


 初めて石の町を訪れた際、店員がぶっ倒れていた、変な店があったと思う。

 実は、俺はマリーと別行動になった後、あそこを再び訪ねていた。

 あの、不思議な何でも屋だ。

 そこで俺は、俺にとっては見慣れた、とある物を発見していた。

 それは扇風機だった。

 なぜそんな物があるのか気になっていた俺は、店主に聞いてみた。

 すると、以前にイカズチと出会った事があり、その時に扇風機を聞いたと言うのだ。

 そして店主は、無類の発明好きで、色々な物を造っては売り出す、町の中では変人扱いを受けているらしい。

 あのイカズチが扇風機を知っているとなると、やはりまさか…とも思った。

 けど重要なのは彼女が、イカズチに聞いたこういう物、と言うアイデアだけを元に、扇風機を作り上げたらしい事だった。 

 俺は、ともかくこれはチャンスだと思った。

 だからこう言ったんだ。

 そういうアイデア、もっとたくさん欲しくは無いかと。

 そしてつい先日、ついでにその店を覗いた結果…何と早くも成果が出ていたという訳だ。


 この世界には魔術があるが、誰もがずっと使い続けていられるような代物では無い。

 よって、気温による寒さ暑さは、生活における悩みの一つだ。

 その悩みを解決できるかもしれない一品だ。

 これには電気の代わりに魔力、基盤やらの代わりに、術式が組み込まれているらしい。

 魔力を流し込むことで、術式が起動し、冷たい風が出るようになっている。

 この世界においては、そもそも誰もがほとんど魔術を使えるせいか、こうした術式を用いた魔術は、あまり扱われていないそうだ。

 魔力効率的にも、今まで無用の産物だったらしい。

 そこで俺は、知る限りの科学の知識を、何でも屋の彼女に伝えておいた。

 例えばこの冷房装置。俺は魔術の詳しい事はわからないが、冷気を生み出すよりも、熱量保存を利用して、冷たい空気を確保する方が、エネルギーが少なくて済む気がしたのだ。

 結果から言えば、その予想は正しく、少ない魔力で実用的な起動時間を確保するに至ったらしい。

 まさに科学と魔術の融合作だ。

 といっても、この冷風機、まだまだ改良の余地がある。

 まず、エアコンとは違うので、とにかく冷たい空気を出す。

 周りが寒かろうと、お構いなしに出す。

 あとは、スイッチのオンオフが出来ない。

 魔力を込めると、術式が発動し、冷風が出る。とにかく出る。

 そして魔術的な物なので、風の出る方向など存在せず、全方位式だ。

 冷房性能としては、かなり優秀な気がする。


 それがこの、マリーがガタガタ震えている原因、ようするに冷風機である。

 さすがに起動テストくらい済ませない事には、商品には出来ないと言う事で、持ち帰った日から魔力を込めて貰っては、様子を見るようにしている。

 がしかし、先に言ったとおり、この冷風機、魔力を込めれば即冷風が出る。

 そんな物をアンシアの家の中で、この真冬に使う訳にもいかない。

 よってどこで起動しているかと言えば、耐久テストも含めて屋外で行っている。

 そう、この寒さの中、数十秒とはいえ、冷風にさらされるハメになる。


 正直、心が痛い。出来る事なら俺が自分でやる。

 でも俺は、相変わらず魔力が無い。

 もたらされる結果からすれば、微々たる魔力で良いようだが、それでも足りない。

 だから、仕方がないんだ…ごめんマリー…。

 そんな事を考えながら、俺は目をつぶり、涙をのんでいた…が。

「あああああああああ冷たい! 冷ったいいい!?」

「私がこんな思いをしてるのに、そんな所でニヤニヤ見ているのがいけないんです! お兄さんの体温であっためて下さい!」

 いつの間にか、マリーがこちらに近づいてきており、そのままがばりと抱きつかれていた。

 寒い! 冷たい!

 というかニヤニヤはしてないでしょ!?

「待って! 家の中に戻った方が、絶対あったかいでしょ!」

「私の事、大切なんですよね? なら辛い事も分かち合いましょう」

「分けなくていい辛さを分け合って、どうするの!?」

 いや、本気で冷たかったのは、最初だけだったしいいけどさ。

 …というか、思い切り抱き着いてるけど、恥ずかしくないのかな。

「やったなマリー!」

「わひゃあ!?」

 俺は俺で、もう勢いでマリーを持ち上げて、そのまま回転したりしている。

 これもう、あれだ。

 完全にじゃれ合う親子みたいな奴だ。

「王子様ぁーーー!」

 いやあ、確かに抱き合ってくるくる回っているし、王子と姫のイメージでもいけるかもだけど、俺とマリーだしな。

 …ん?

「えっ」「へ?」

「うちも負けないよぉ!」

「ちょっ」

 この後俺は、新たに増えた女性一人分の重さに耐えられず、あえなく押し倒されたのだった。


 というか、なぜローナさんがこの村に!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ