表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/218

新形態準備3

 最後の一つは、簡単に言うと…建築だ。

 記念すべき、一店舗目となる建物、それを造って貰っている。

 実を言うと、この店をどうするかという点は、なかなかに迷った要素の一つだ。そもそも業務形態を真似るだけなら、別に、今の市場をそのまま利用してもいい。それをしなかったのは、ひとえに“特別”である事を示すためだ。

 前にも言ったように、俺たちがやろうとしてる店のシステムは、この世界では異質だ。となれば、お客さんは困惑する。だからこそ、明らかに不思議な、特別なお店だと思って貰った方が良い。そうする事で、最初からお客さんに、ここはどんな店だろうと、受け入れる心の準備をしてもらうんだ。これは同時に、何かすごい店が出来たらしい、という噂を流すのにも役に立つ。

 商売をする事自体に建物が必要なくても、利点は多いんだ。

「アンシア、どう? 何とかなりそう?」

「あ、翔…さん。はい、今の、ところは…」

 そうは言ってもやはり疲れるようで、かなり汗をかいていた。俺はつい、アンシアの顔をスッと布で拭う。

「あっ…ふ、ぅぁ…!?」

「…あ、ご、ごめん」

「い、いえ…やでは、ない、です…けど…むしろごめんなさぃ…」

 そのまま俯いて、動きが止まってしまった。俺が邪魔をしてどうする。

「問題があったらすぐ呼んでね。また少し外すから」

「あっ、は、はい」

 俺はそのまま、アンシアから距離を取る。しばらくは俺の方を見つめたままだったようだけど、やがて他のメンバーに声を掛けられ、作業に戻っていった。


 さて、ところでなぜ、アンシアが建築なんていう、力作業のリーダーとして動いているかと言うと、ずばり魔術の問題だ。

 先日聞いてみたところアンシアは、やはりこの村ではずば抜けて、魔術が得意らしい。そしてその中でも得意としているのが、ハンスさんと同じ土系統の魔術だ。

 この世界の土系統魔術、これがなかなかのもので、俺の目から見ると、まさに無から有が生まれているといった感じだ。硬さなんかも色々と変えられるらしい。

 まあ火やら水やらも、いきなり現れるのは一緒か。

 もっとも正確には、魔力から生み出しているので、無から造り出している訳では無いらしい。

 まあそうした理由から、一番戦力となるアンシアを、ここのリーダーとした訳だ。

 他の皆はアンシアと共に作業をする。得手不得手は有れど、魔術は使えるので、俺が作った必要な物リストから、それぞれ手を付けられる物を造って貰ったりもしている。

 初めは、そうは言ってもさすがに大型建造物を作るのは、無理があるかなと思った。

 でもこれについても、今まで住む場所はどうしていたのかと聞くと、村に今いる人間で、なんとかやりくりしていたと言うのだ。つまりこういった作業は、完全に初めてという訳じゃ無かった。昔は、大工仕事を基本にする人も村に居たらしく、これまでは、その頃から残っている大元を修理したりして、なんとかなっていたらしい。正直、魔術様々だと思う。これで、この村の建物が、木造なんだか、何なんだか、よくわからないつぎはぎハウスだった理由がわかった訳だ。

 ここまでだと、結局建築知識は無いじゃないか、と思われるかもしれない。

 でもこれについては、実は…俺がある程度分かる。

 俺は、リフォームの斡旋や案内、相談受付なんかも担当した事があるから、その時に現場の人間と話し、色々教わる機会があった。

 さらに、知らない人には嘘だと言われるかもしれないが、店長になって、新店立ち上げなんかに加わると、本当の建築現場に立ち会う事もある。俺は立ち会った。

 そこで、売り場のレイアウトがどうとか、柱の位置がそこだと、ああだこうだと、要望を出したりと言うことまであったりする。さすがにそういった口出しは、専門の部署があるのでそこの同僚がやってたけど、俺はそれも気になったから、ずっと聞いていたし、資料も追っていた。

 だから、どういった基準で建てないと危ないだとか、知っている範囲で知っている。

 もっとも専門家には、さすがに及ぶはずも無い。

 もしこれで、元の世界でやれますか、と聞かれれば怖くて出来ないと答えるだろう。

 でもそこは、この世界には魔術がある。なんとかなるはず…と結論付けた。

 それに簡単な図面は、石の町で知り合ったその筋の人に見せて、確認もしてもらっている。お墨付きも貰えているので、まず大丈夫なはずだ。

 出来れば開店までに都合をつけて、確認して貰えるよう依頼する予定でいる。

 今はまだ整地の段階だが、元の世界に比べれば、時間はかからないだろう。




 これらの担当場所を、3つのグループで交代しながら、当面のところは続けていく事になる。

 上手く事が運べば、建物が出来上がるころには基本の講習は終わり、今まで扱っていた商品以外にも慣れているはずだ。

 そこからはまた、内装作業だったり、少しばかり村と町や砦を、行き来してもらう事も出てくるだろう。


 さあ、まだまだ俺にとっての冒険は、始まったばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ