新形態準備2
さて、マリーは問題なくやってるかな。
3グループのうち二つ目は、いわゆる研修だ。俺はこの時を見越して、少しずつ準備を進めていた。
まずは、この講義を皮切りに、今後使い続けていく事になる、マニュアル本を一冊作成した事だ。まだ、簡単な序盤の内容しか作れていないが、俺はこれを少しずつ作っていた。直筆なので、綺麗な絵などもなく簡素だが、とりあえずは問題ない。
この世界へ来て少し経ち、マリーや村の皆に色々教えている時、自分の記憶から思い出しつつ話をしていて、きちんとマニュアルが欲しいと感じた。教え漏れがあったり、教えたつもりになったりと言う事を防ぎたかったからだ。
それからずっと、少しずつ書き進めていたものが、つい先日完成した。実は武術の型などと合わせて、最近日課としていた事の一つだ。これは俺の記憶を頼りに、基本的に元の世界で使っていたマニュアルを書き起こしたものになる。もちろん、この世界で不要になりそうな部分は省いた。必要となれば、その時補足をすればいいだけだ。
中身としては、例えば店の形態の仕組みだ。この世界の人達にとっては、客側としても経験した事の無い、未知のものになる。顔を突き合わせて、その場で買う訳では無い。基本的に、個々人の判断で値段を引いたり、おまけをお客さんにあげたりもしない。この村では、基本的にただ商品を売っていただけだし、そう考えるとやっていた事は、これから始める店に近かった。でも基本的に、チェーンストアと個人経営店は、店としての質が違うんだ。
個人店が、その店にいる“人”が何かを提供する店だとすれば、チェーンストアは、“店”が提供すると決めたサービスを提供する。人は、それを維持するのに徹するのが役目だ。一個人に頼っていると、その人物が動けなくなった際に何も出来なくなる。
チェーンストアマニュアルはそれを防ぎ、いつでもどこでも、同じサービスを提供し続けるためのシステムなんだ。
まあ、これは定義とは少し違けど、全部説明しようとすると、本一冊分とかになるしな。というか実際、その手の本はたくさんあったし。
マニュアルをめくりながら、実際にマリーに講義してもらっているのは、その辺りの簡単なまとめ。それから今後、増やしていく可能性のあるサービスだ。なぜこの序盤に、開店時に使わないような事を説明するのかと言うと、忘れて貰っても良いからだ。なら言わなければいいのに、と思う人もいるだろうけど、聞いた事があるっていうのは、意外と重要だ。何かを新しく指示するたびに、何なのだそれはと、反応が遅れるようでは困る。
「といった形で、これは――――」
マリーは真剣な顔をして、まだ自分にとっても不思議であろう内容を、皆へと伝えていく。まだまだ女の子と言っても良い風貌の彼女が、大人たちへ向けて必死に弁を振るう姿は、なんだかちぐはぐで、おかしくもある。不安もあるだろうけど、マリーには出来るだけ早く、俺と同じ目線まで上がって来て貰いたい。それには責任を持って、自分の口で話すのは効果的だ。
俺と同じ立場として、一緒にやっていってくれる。そう自分で言ってたもんな。頑張れマリー。
俺は問題が無い事をそっと確認し、講義の邪魔にならないよう、次の場所へと移動した。




