本格始動へ3
果たして俺の行動は、この世界にとって有意義な物になっているのだろうか。
変わらず見続ける夢は、ここの所、内容の変化を見つける事が出来なかった。
さあ、いよいよ行動開始だ。
「皆さん、今日は仕事上がりに、時間を取って頂いてありがとうございます!」
「いや、このくらいは当然さ。ほかならぬニイちゃんの頼みだからね」
「ありがとうございます」
後ろにはマリーとメルが、目の前には、村の市場の人達が揃っている。ソウさんが代表して、俺の呼びかけに答えてくれた。皆に会うのは久しぶりだし、全員こうして、話を聞きに集まってくれるとは思わなかった。いくら先日の魔物騒ぎで、結果的に村を救っているとしてもだ。救ったと言っても、時間稼ぎになっただけだけど。
…まあでも、これから話す事に対しては、当然すぐに頷いてくれる、なんて事は無いだろうな。やろうとしてる事、かなり悪人に近いし、これはチート勇者コースに選ばれなかったのも、仕方ないかもなあ。
俺はそんな事を頭の片隅で考え、思わず笑った。そうこうしている間にも、話は進める。
「単刀直入に言います。俺は、この村に新しい店を作ろうと思います」
…。
反応はすぐには返ってこない。まあ、ここまででは、それで何なのかといった話か。
「…それでニイちゃん、わざわざこうして皆を集めたんだ。何か有るんだろう?」
さすがソウさん、話が早い。相手が不信感を抱くかもしれない話をするときは、その前に、こうしてあくまで対話です、という形になっていた方が、受け入れられやすいからな。
「はい。具体的に、端的に言うと、ソウさんが扱う各素材だったり、アンシアが扱う生地物だったり、そういった物すべてを、取り扱った店を出したいと思います」
集まったうちの何人かが、驚きや不安の表情を見せる。ここでは逆に、話を切ってはいけない。一気に話しきって、あくまでいいお話…っぽい風にまとめる。
「そこで皆さんにお願いしたいのは、その新しい店で、皆一緒に働いて欲しいと言う事です! 俺が色々と、商売に関する知識を持っているのは、皆さんもご存知だと思います! これでもう、こんなにいつも、ぎりぎりで、不安を感じながら暮らす日々とはおさらばです!」
ざわつきが広がる。それはそうだ。はっきり言って、ここまでじゃあ怪しい宗教の勧誘そのものだ。いくら恩人補正みたいなものが働いても、無理がありすぎる。
ざっと表情を見る限り、まだ判断付いていない様子なのが5割、否定が4割くらいか。ソウさんを含めた残りの数人は、どうやら頭が切れる。納得した、あるいは、諦めたと言う表情をしている。にしても、反対4割と言うのは、予想よりかなり少ない。少しは信頼を勝ち取れていたのか、まだまだ流されるままに、ただ日々を耐えているだけの人が多いままなのか。
「それでニイちゃん、あんたの店で働くのはいいが、もう今日から動くのかい? 本当に自慢にもならないが、あたしたちは、そういうの勝手がわからないよ」
「そうですね、まずは」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。わたしはそれに参加する気はないよ! そんな聞いた事の無い、よく分からない店に、皆して移ってどうなるって言うんだい。それで今の生活すら出来なくなったら、どうしてくれるっていうんだい!」
集まった人の中から、ストップがかかる。何人かもこの意見に同意していた。ここまでは予想通りだ。後は…。
「待って下さい!」
「え?」
マリー…?
「皆さん、考えてみて下さい! 私たちのこの村は、お兄さんが居たから、こうして今無事でいるんですよ? 皆、あの時死んでたかもしれないんですよ! それに、お兄さんの知識の数々は、さっき言った通り、知っているはずです! なのにそんな…ここでっ」
「マリー、ありがとう。でもストップ」
「ふきゅっ!?」
俺はマリーの頭をポンとたたいて、言葉を止める。そうか、なるほどな。
実は、第一店舗を村で出す。市場の皆で一つの店をやっていく形に出来るよう話をしてみる。そうマリーに言った時、ただ、結局そうなったんですねと言うだけだったから、疑問だったんだ。マリーは、こんな風に反対の意見が出るなんて、思っていなかったんだろう。こういう話をすれば、市場の皆が、今こそ恩を返すとき、みたいに一致団結して、賛同してくれると思っていたんだ。
純粋だなあ…。
俺はそんな風には、夢にも思えなかった。マリーの事は、大人扱いしようだとか、女扱いしようだとか、色々距離感を掴みづらい状態が続いている。でもやっぱり、まだまだ無垢な子供の面もあるんだな…。
そんな風に、全員が今こそ決起の時! みたいになってくれれば、それはそれで、熱い展開で良いんだろうけどね。
「ここまでの話で、納得がいかないのも、もっともだと思います。なので、少し長くなりますが、この話をするにあたった理由、そして俺の…俺たちの目的を話します。どうか、それを聞いて判断して下さい」
「「「…」」」
辺りが再び静かになった。
「お兄さん、その、色々と…事情を話してしまうんですか?」
「うん、詳しく聞かれなかったから言ってなかったけど、最初から話すつもりだった」
「そう、ですか…。…お兄さんと二人だけの夢だったのに」
何かボソッと最後に言っていた気もするが、マリーも了承してくれたみたいだ。
俺は改めて、目の前の皆へ向けて話を始める。
商売の力で、この貧困な状況を脱したいと言う事。
それをこの村に留まらず、世界全体に広げていくつもりだと言う事。
ゆくゆくは、俺たちの店が流通の中心となっていくつもりだと言う事。
俺はその先も見据えているが…今はここまででいいだろう。とにかく今伝わって欲しいのは、今、ここに居る俺達で、世界を救ってやろうと言う夢なんだ!




