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本格始動へ2

 結局のところ、消去法で決めるしかないんだよな。

「うーん…」

「…」

 今改めて、見落としが無いか精査しているのは、最初の足掛かりとなる第一号店、その出店場所だ。候補地となるのは、今いるこの村、石の町、砦町の三つ…だけでは無い。候補と言うだけなら、例えばたくさんの生産者さん達に声を掛けた、あの道中の並びもそうだ。他にも、店を始めるだけなら、どこでだってできる。有力な候補地以外は、どうでもいい…なんて言うのは、非常に浅い考えだ。なぜなら、一か所だけ店を成功させて、自分が生活できればいい訳じゃないからだ。俺の目指すのは、あくまでこの貧困な状況を、商売の側面から改善に導く事。この2か月の調査で、物価などを含め、商売自体が歪になっている事もわかった。

「問題は山積み…」

「……」

 となれば、俺の働きかけが成功すれば、この世界の現状は、今後どんどん変わっていく。

 その度に、あそこを一から調査、あれを一から調査なんてしていたら、タイムリミットになるのは確実だ。ここからは、加速度的に店を大きくしていかないとならない。とてつもなく強行軍になるが、あと三か月ほど…俺がこの世界に来てからちょうど一年の辺りまでに、店をスタートさせたい。知らない人に言ったら、そんなに時間かけるとか、無能何じゃないかとか言われそうだけど、実際に店を始めようとすれば、年単位の計画になる。元の世界じゃ、ノウハウの確立している大手チェーン企業でも、新店出店の度にそのくらいかけていた。

「これは…」

「………」

 しかし、俺はそのペースでは間に合わない。代わりに、環境もまるで違う。ここには、魔術がある。ライバルとなる同じ形態の店が、おそらく存在しない。そして何より、異世界モノの定番、この世界にはない知識を持っている。それを上手く組み合わせて、成功出来るか、そこが腕の見せ所だ。

 とまあそんな訳で、一号店の出店場所だ。ずばり本当は、石の町に出したい。やはり客になる可能性のある、人の数が違う。目的を考えれば、村や砦に出すのが良いんだ。貧困、品薄な状況からの脱却、その為に正しく物を流通させる道しるべになる。でもそれは、十分な資金を確保してからでもいい。店が有名になってからでもいい。急いては事をし損じる。なんだかんだ言っても、お金は大事だ。幸先の良いスタートを切りたい…ところではある。

「ないよなあ…」

「…………」

 でも、その第一候補地に店を出そうと思うと、多分あと3か月では足りない。まず、仕入れが確立されてない。人手も一から、全部一からだ。ローナの店が約束通り、ある程度面倒を見てくれるかもしれないが…あの言葉をくれたのは、あくまでどんな店を出すか言っていないからだろう。俺がこの世界に落とし込もうとしているのは、必ず既存の店に影響を与える。この村ほどでは無くても、変わる事、への不安は少なからず持っているはずだ。あの口約束を鵜呑みには出来ない。まあつまり、石の町で一号店を出すにはお金、時間、色々足りないって事だ。

 他にも、候補地によって良い点、悪い点はあるが…やはり、これがベストか…。

「……………」

「……………」

 

 …さて。

 ぎゅっと、服の裾が掴まれる。いや、正確には、ずっと掴まれてる。こうしてブツブツと、悩みながら紙にまとめている分には、邪魔になったりもしてないし、そのままにしている。しかしながら、やはり気にはなる。

「アンシア、店先に居なくて大丈夫?」

「だい、じょぶです…。ここから、でも、わかります、から…」


 やっとの事で村へ帰ってきた俺達だったが、そうは言っても、元々住んでいた村外れの家は、魔物と共に爆破して、残骸のままだ。そして、緊急時でもない今、また宿屋を間借りさせてもらう訳にもいかない。そんな訳で、俺とマリーは昨日、アンシアの家に泊めて貰った。ハンスさんの部屋なのか、ベッドがちょうど二つある空き部屋があった。片方は、奥さんのものだろうか。この世界では、どうにも元の世界以上に、その手の事について聞きづらい。ハンスさんみたいに、どこかで元気にしてるんだったらいいけどな。


 一夜明けて現在、俺がこれまでの情報を精査するのに、一日使わせて欲しいと言ったところ、それなら、とマリーはソウさんの手伝いに行った。仕入れの話とか、為になる事が聞けるかもしれないから、という事だった。俺も後で、マリーから聞かせてもらうとしよう。

 そして俺は、アンシアに付いて来て、店先の裏スペースに出てきてた訳だけど…。

 アンシアがこうしてくっついたままだ。

 どうしたんだろうか、俺が村を出発した時も、昨日帰ってきたときも、それなりに寂しがったり、喜んでくれてはいるように感じた。でも、割とさっぱりした感じと言うか、平気そうだったんだけど…。

 どうした事か、今はこうしてずっと隣にいる。

 …いつのまにか、距離も縮まってないか? アンシアは元々、この歳で両親と共に暮らしてなくて、寂しい思いはしていたと思う。本当はもう慣れていたけど、そこに俺が首を突っ込んで、その上で離れたりしたから、寂しさが強くなってしまったとか、そういう事だろうか。それなら、思い切り甘えさせてあげたいよな。

「あ…」

 アンシアの口元がへにゃりと笑う。俺はよしよしと、その頭を撫でていた。ネコに癒されている気分だ。まん丸人形とはいえ、本当の猫の形をしているメルより、よほどかわいらしい。いや、さすがにそこは神様だし、この考えは失礼過ぎるか。しかしながら、当のメルは未だ横で眠りこけている。時刻はもうすぐお昼だ。この村でもこの寝坊助具合なのは、もうメル自身がそうなんだなと言う感じだ。

 と、気付いたら、アンシアがこちらを見上げている。相変わらず前髪は長いままなので、その隙間から、綺麗な瞳が覗く形になる。前髪っ子、何とも言えないかわいさがあるよね…。アンシア自身の儚げな雰囲気も相まって、効果は倍増だ。

 …いけない。アンシアと見つめ合っていたら、ふと、いらんことを思い出した。そう、この旅の途中で判明した事だ。アンシアがこの村で、一番強いとか言うあれだ。本当なのかそれ…? もし本当なら、そんなアンシアですら、魔物には歯が立たなかった訳で、俺はどれだけやばい存在を相手取っていたんだ? あれ、となると、一瞬でも対応していたストスさんも、結構強い? それで、ハンスさんはさらに上…? 待って。もしかして、手加減してくれなくて容赦なかったって言うのは、ただの俺の体感で、あれでも訓練中かなり抑えていたんじゃないか…?

「…?」

 アンシアがかわいらしく首をかしげる。俺が難しい表情になってしまっていたせいだろうか。どうしたのと心配する声が聞こえてきそうだ。

 …いいよな。どっちでもいい。アンシアがどれだけ強くても、アンシアはかわいい。よーしよし。

「じゃないよ!」

「っ! …どう、したん、ですか?」

「あ、ああ、驚かせてごめん。…そうだな」

「う…ん?」

「ちょっと、アンシアには先に話したい事と…あと、質問があるんだけど…」

 

 これからやっていく事は、綺麗な事ばかりじゃない。それでも、効率を上げるために、すべき事はする。

 マリーに言われてるみたいに、自分は子供っぽいままなのかな、なんて思っていた。でも、こういうところで割り切れてしまうのは、やっぱり俺も大人で、それなりに擦れてしまっているのかもしれない。

 そんな事を心の片隅で考えた。

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