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本格始動へ

 砦に着いてから、約ひと月が経っていた。

 マリーには、ストスさんとの話を詰めて貰った後、その試作と改善をしてもらっていた。俺の方は、その試作中のブツが完成となるまで、ひたすら戦闘訓練の日々を送っていた。空いた時間に店の構想を練るのも、もちろん忘れなかった。

 いや、そもそも店について考える事の方が、時間潰し扱いな現状は、一体なんなんだとは思うけども。俺の目指している物とは一体…。


 とにかく、ストスさんへの発注品も、ひとまずの完成を果たした。そんな現在、いよいよ俺たちは、砦を発ち、元の村へと向かっていた。何だかんだで、村を出てから二か月程度はかかってしまっている。当初の予定では、もっとスマートに、ひと月程度で戻るつもりだったので、約倍だ。

 アンシアが、あまり心配してないと良いけどな…。

 道中にかかる日数からして、途中にあった製造者さんたちのところに立ち寄ったせいで、余分に何日も掛かっている。その上、各町の視察についても、イレギュラーが重なった。この上、砦から村への道にも何かあれば、さらに日数がかさむと不安だったが、特に何もない。道中に何かしらあったのは、結局村と、石の町の間だけだった。その石の町と砦の間には、舗装がしっかりされた一本道があるだけ。そして、今歩いている砦から村への道は、道こそあるが、崩れた箇所も見られる山の中だ。

 国が作ったって言う、大きな舗装路が無かった時は、製造者も含めて、上手く回っていたのかな。村も、砦も含めて、商売の流れが…。

「あ、ここも崩れかけかな」

「わかりました…っと」

 今何をしてるかと言えば、自作の簡単な地図に、補修が必要そうな道の位置を記していっていた。当面、この砦と村の間で商品運搬する予定は無いが、今後は分からない。最初に村から石の町へ向かっていた時も、同様にチェックをしてある。現状この道のせいで、騎竜便しか仕入れ方法が無くなっている。そんな状況への改善を、自分たちで行うべき時が来るかもしれない。そうすれば、騎竜便への支払いコストは減る。あれは、なかなか高い。コスト削減を狙うと言う奴だ。

「もうそろそろ、村も見えて来るかなあ」

「そうですねーそうだと思います」

「あー…」

 さて今現在、こうして普通に二人で仲良く歩きつつも、マリーがそっけなく、ジト目状態なのには、理由がある。一言でいうと…訓練で無理をし過ぎたのだ。つまり、また俺のやり過ぎが原因である。


 最初のうちは、それはそれは心配そうに俺を出迎えてくれた。

「昨日無理はしないようにって言ったじゃないですか! もう!」

 そう言いながら手当てをしてくれるマリーを、本当にいい子だなあなどと和みながら見ていた。連日ボロボロになって帰ってくる俺に対して、途中心配からか涙ぐんでしまった時もあった。しかしながら、仏の顔も三度までである。最終的には、ああ、心配しても無駄ですねと言わんばかりの表情になってしまった。むしろ多分、おそらくその通りに思っている。でも許して欲しい。今回は、俺が一人で無茶したわけじゃ無い。ハンスさんが容赦なさすぎたんだ。周りの人も、こういう怪我なんて見慣れているのか、容赦なく俺をボロボロに追い込んでくれた。特に変な事など無い、といった風だったんだ。


 あんな風に毎回ボロボロになるまで訓練だとか、元の世界では絶対無理だよな。そんな道場があったら、今の世の中クレームで即潰れそうだ。にしても、俺とマリーの関係、一歩進んでは一歩戻ってばかりな気がする…。

「…ところでお兄さん、村へ戻ったら、いよいよ実際に行動を始めるんですよね。具体的に、何からやっていくんです? 確か、あの町で見た大きなお店より、さらに大きなお店になるんですよね。それを村に建てるところからですか?」

「ん、そうだね…と言うよりも、まずは第一号店を、どこで出店するかが問題というか」

「…え? どこでって、村じゃないんですか!? 私てっき」「ふおおおおおおおおおおおおおお!」

「うわあ!?」

「ふあ!?」

「おお…どうやら我の樹が近いようだの…生き返るようだ…」

「メル…びっくりしたあ…」

「メル様! 目が覚めたんですね。ずっと眠ったままなので、心配していたんですよ」

 ああ、マリーの心配そうな優しい表情、久しぶりに見たなあ…。

「ん? 何を言っとるのだ。道中で寝たままだったのは、先日と一緒だろう。…ん? そういえば、次は砦町に行くと言っておらんかったか? なぜ我の樹の気配が…予定でも変更して、村へ戻って来ておるのか?」

「え? えっと…メル様、砦町には立ち寄りました。でもメル様はずっと寝たままだったんです。何かしようにも、どうにも出来ず…」

「メル、俺も心配だったよ。何だかんだでひと月くらい寝たままだったし」

「ひ、ひと月!? …というか待て、我はその、砦の町の中でも眠ったままだったのか? 我だけどこぞの山道に、放置してた訳ではあるまいな?」

「そんな事するわけないでしょ…」

「…そうじゃな。……ここまで、力が落ちておるか」

 メル、なんで肯定しつつ、本当か? みたいなタイミングで跳ねた? そしてマリーはなぜ、それが伝わったかのように頷く?

 …待って、俺ってそんなひどい事をしかねない人だと思われてるの? そこまで信用が無くなってる? くっ、メルがいるのは背中のカバンの上だから、本当にそんなアイコンタクトがなされたか分からない。

「ねえメル、力って? 石の町の方では起きてたのに、砦では眠ったままだったのと関係あるの?」

「うん? むー、何と言うのか、世界には我々神の力の源が本来十二分にあってだな…それが足りんのじゃ。それさえあれば、我だって、こんなまん丸で面妖な憑代に入らずとも、母体の樹から離れられるし、長く眠ったりもせんのだがの…」

「へえ…」

「とにかく、メル様がお元気そうで、安心しました」

 貧困で、色々と不足して困っているのは、人間だけじゃないって事か。確かに、そんな様な事を、最初に会った時も言っていた気がする。神様の加護が弱くなったのは、その力の源が減ったせい? それで人間たちが、こうして貧困な状況になってしまっているのか? いや、でも俺が色々した結果、マリーの店での売上なんかは、増やす事に成功している。…その世界に溢れていた力って言うのは何なんだ? 一番最初の原因はどこからのものだ?

「ねえメル、その辺りの関連性とかって」

「あっ、お兄さん! あれ村じゃないですか?」

「え…、ああそうかも」

 どうやら、俺たちはしばらくぶりに、村へと無事帰還を果たしたらしい。マリーの声が、普段より少し弾んでいる様に感じる。やっぱり、生まれてからずっと暮らしていた村を離れて、不安だったんだな。

 ひとまず話を中断し、安堵の表情を浮かべるマリーと、のん気に欠伸なんぞしているメルと3人で、俺達は懐かしの門をくぐった。

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