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見つめて

 夢。

 夢は今も、毎日のように見続けている。

 その内容は、魔物の一件で変わって以来、変化していなかった。




 時刻は夜、場所はストスさんとマリーの新居。その屋根の上に俺は居た。


 ぎりぎりだった。

 肉体的にも、精神的にも無理をしている。暑さと身体の痛みが合わさって、しっかり眠る事さえ出来ない。

 でも、多少の無理なら、これまでの人生でもやってきた事だ。死ぬ気でやれば、大抵何とかなるし、してきた。きちんと考えて、効率よく行動すれば、今回も何とかできるはずだ。

 …本当に出来るのだろうか。

 元の世界では、同じ人間なのだから出来ないはずはないと、諦めたりすることは無かった。しかしこの世界では、同じ人間ではあるけど、そうでは無い。魔術の有無が大きいし、今回の旅で、この世界についての知識が増えたとはいえ、ネットや書物が有る訳でも無い。だからこれまで仕事の時やってきたような、満足のいく量の知識は得られていない。仕方のない事ではあるけど…。

 そう、仕方ない事だ。むしろ過去現在の壮大な情報を、当たり前に入手できると言うのが便利過ぎたんだ。

 それが当たり前になっていた。経験を活かして、とりあえず動いてきた。俺の目指す先の為に、準備を進めてきた。でも後になって、判明する事が多すぎる。きっとここでは、これからもそうだろう。

 人間は、自分が何を知らないのか知っていないと、それについて調べる事は出来ない。今回の件もそうだ。

 俺は、ローナさんのところで、出店について問題ないかは確認していた。その時、もう少しくらい強くなっておけ、とは言われた。しかし、出店自体については、可能と言う返答だった。当然だ。俺は、複数の町や村を跨いで、商売を広めていくとは言わなかった。だから、特に国の許可証については触れられなかった。それで、このまま行ける体で進めていたら、これだ。

 国の法律一覧、みたいなのがあれば良いんだけどな。

 それについても聞いてみたが、かなりいい加減な物だった。いくつか、国が取り決めるルールはあるが、基本的には村や町、それぞれが独自にルールを決め、その中で生活しているらしい。そんなつぎはぎの様な状況で、国のルールの中に、よりによって商売を制限する項目がある。一体どういう理由なのか、一つの町でしか商売をしてはいけないなんて、そんな風に大雑把な制約を付けたら、そりゃあ、夢で見た未来みたいに、国全体の衰退が進んでも仕方ない。

 この世界にも通貨はあって、歪な状況だろうと、それで経済が回ってるんだ。あのひどい未来になる、原因の一つなのは間違いない。なら、先にそちらをどうにかしに行くか? 出店を先延ばしにしてでも、うわさに聞いた王都へ、足を運ぶのを優先するか?

 …いや、駄目だ。

 メルと会って、あの夢がこの世界の未来だと言う事は確定している。想定される猶予は10年かそこらだ。唯でさえ、スタートダッシュに失敗しているのに、この上さらに一店舗目の出店が遅れては、貧困な状況を脱する前に、タイムリミットが来てしまう可能性も上がる。そもそもがきつい制限時間なんだ。何日かかるか分からない。加えて行ったとしても、このおかしな国のルールを、どうこうできるアテも無い。

 俺はまだ、店を国中に広げるどころか、その第一歩すら、踏み出せてないんだよな…。逆境は燃える性質だけど、ほとんどがどうにもならないって言うのがきつい。まずは、今後の為にと続けて貰っている戦闘訓練に見切りをつけて、一店舗目を始動させるか? それも一つの案だ。複数店を出すのに、許可証が要るとしても、それは二店舗目以降の話だもんな。でも、いざ営業を始めた後に、許可証を取りに行ったり出来るだろうか。いつかは自分が居ない店舗も増えていくんだから、自分が離れても大丈夫でないと、困ると言えばそうなんだけど…。


 俺は真夏の暑い夜に、夜空を見ながらぐるぐると考え込んでいた。いつかもそうだったけど、この世界は夜になると、本当に静かだ。

 そんな静けさの中に一つ音が鳴って、近くの窓が開いた。俺がこの屋根の上へ来るのに、通ってきた窓だ。

「あ、居ました。まーたそんな変な所へ登る…。黄昏るのも良いですけど、どうにも見ていて恥ずかしいので、せめて部屋でやって下さい」

「マリー、結構遅いのに起きてたんだ。…というか何気にひどいね」

「…すみません、違いました。こんな事を言う為に探していたんでは無いんです」

 マリーはそのまま窓枠を乗り越え、屋根の上に降り立つ。そして、俺の目をしっかりと見て言った。

「お兄さん、少し、お話しましょう。今後の事とか、しっかりと」


 俺は、今まさに考え込んでいた今後の事について、マリーに話を振られたことに驚いた。一方で、こうしてマリーと二人でじっくり話すのは、久しぶりかもしれないなと、呑気な事も考えていた。

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