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そして砦町へ3

 来る…!

 ハンスさんの目がこちらを向いた瞬間、即座に警戒せざるを得なかった。この圧力…これが所謂、殺気と言うものなのだろうか。いや、それとも微妙に違うような…?

「っ!?」

 ごちゃごちゃ他ごとを考えている場合では無かった。

 ハンスさんが振り向き様、こちらへ鋭く踏み込む。加えて同時に、横薙ぎに剣を振るってきた! 狙いは胴体の真ん中辺り。簡単にしゃがんだり、跳んだりで対処は出来ない。まして俺は無手だ。

 となれば俺は、これを後ろに…絶対避けてはいけない!

 俺はこちらからも、思い切り相手に踏み込み返した。狙うのは剣の間合いの内側、腕が振り抜かれる前に、自分の身体を相手の手首の辺りにぶつけていく。そしてすかさず、手首を掴んで対処をする!

 しかし相手も、こちらの思惑通りに動いてはくれない。俺の狙いを読んだのか、単に超近距離を嫌ったのかは分からないが、お返しだと言わんばかりに、俺を身体ごと押し飛ばしてきた。体重がそう違うようには見えないのに、軽々と押し返される。俺はあえなく詰めた距離を空けられてしまった。


「「…」」


 お互い無言のまま、動きが止まる。しかし、先ほどの衝突で力はわかった。と言う展開にはしてもらえない様だ。向こうからの圧力が、全くもって緩んでいない。そうなると、一切気を抜けない訳だけど、俺に出来る事は限られている。

 護身用だとかで、師匠に色々教わっていて良かった。

 相手が武器を持っている時は、避ける、距離を空けると言うのが、正解だとは限らない。そのまま振り返り、ひたすらに逃げていいのならともかく、対峙するなら、むしろ相手より早く近づいて、武器を有効に使えない状況にしないとダメだ。ましてここは室内、下がって避けるなんて事をしていたら、あっという間に壁に追いやられる。そうなれば、俺は前へ出るしかない。

 だから、その一択に行動を絞り込まれる前に、まだ選択肢があるうちに前進しなければならない。


 俺は自分側から見て右側、部屋の広い方向へ跳び、行動できる範囲を確保する…と言うフェイントを仕掛け、即座に方向を変える。

 すると相手は、こちらを追う為にわざわざ自分から近づいて来てくれる。 

 その分の距離と自分の動きを合わせて、ハンスさんの足にぴったりとくっつくらい傍に、全力で自分の足を踏み入れていく。

「っむ」

 先程の様に弾き飛ばされる前に、相手の重心を自分に乗せる。意表を付けたのか、ハンスさんが嫌そうな声を漏らした。

 ここまで距離を詰められれば、剣はむしろ邪魔になる。このまま相手のバランスを崩して…!


 思い通りに動けたのはここまでだった。


「っくぅ゛!?」

 な…んだ?

 ハンスさんの体重を抱えたほんの一瞬、そのタイミングで、下方向から横腹へきつい衝撃を受けた。

 確かに無理な体勢からでも、俺に打撃を入れる事は出来るだろう。でも身体が半分浮いた状況で、しかも下からこの威力…!?

 俺は痛みに耐えながら、視線を向けその正体を確認する。

「つ…ち? 岩か…?」

 先程まで何も無かった空間に、突如として岩の塊が出現していた。俺の身体はその岩と、ハンスさんの体重でサンドイッチにされてしまった状態になっている。魔術…土の魔術だ。

 くっそ…衝撃が大きいはずだ…!

 その時、幸か不幸か下を見ていた俺は、ぬらりと動く影に気が付いた。気が付くことが出来た。

 剣を振りかぶった!

 俺は現在の状況から、身体を離した瞬間ハンスさんが切りかかってくる未来を想像した。瞬間、なりふり構わず身体を横に捻る。その勢いのまま、自分の体重を支えている岩を利用して脚を振り回し、蹴りを繰り出す。勢いのまま、ハンスさんと逆方向に岩から転げ落ちる。それにより、なんとかハンスさんとの距離を、再び空ける事に成功した。

 …いや、距離を空けざるを得ない状況に持って行かれてしまった。自分が先程まで、距離を詰める為に行動していた事を思い出し、状況に愕然としてしまう。剣を持つ相手への数少ない対抗策である、超近距離での対処をこうも簡単に返されては、これからどうしたらいいと言うのか。


 必死に次の手を考えていたところへ、ハンスさんは次に剣では無く、言葉を差し向けてきた。

「いやあ、実はね。君の強さ自体は、ある程度分かったし、本当はもう止めても良いんだけどね」

 それ俺が妄想してた展開!

 ならなぜ、ここまでされているんだ。そして未だに向けられているこの圧力は一体…!?

「翔君、君の事はマリーちゃんからだけじゃなくて、うちのアンシアからも、良く聞いているよ。良い人物のようだと思っていた」

「な、なら」

「でもね」

「ひっ!?」

 これまでで一番の圧力が、俺に降りかかった。本当にあの、さっきまで温和で怒る事があるかすら疑問だった人と、同一人物なのか?

「つい先日も、実はアンシアに会って来たんだ。例の魔物の件以来、やっと落ち着いたからね」

「…はい」

「一時は怪我も負ったと聞いていたし、それはもう心配もしていた。でも会った時は、もうすっかり元気でね。それはそれは安心したものだよ」

「…」

「そして、大丈夫だったか話を聞いたんだ。当然だよね。元気な姿を見れても、その時の話くらいする。そこで翔君、君の話も出て来たよ。すると、どうだい」

「何か…問題があったのでしょうか…」

「君の事を話す時の! あーの表情は何だね!? 明らかに今まで君の事を話していた時と違う、ああぁあの表情は! 声色は!? 確かにアンシアもそういう歳だしお相手が現れてもおかしくないしかしぃいああああああ!!」

「えぇえええええええええええ!?」

 俺は、いきなりの豹変ぶりに大困惑して叫んでしまう。しかしハンスさんは、次の瞬間にはもう、表面上は落ち着いたトーンに戻っていた。

「だからね。僕はアンシアの事が大切だから、ちゃんと応援しようと思ったんだ」

 え、あれ!? 今の話繋がってた!?

 と言うか今の、話から察するに、アンシアが俺の事を、こう好きになってくれて、みたいなあれだよな? 無い無い無い! 仮にそうだとしても、何歳離れていると!? 下手すれば兄妹より、親子の方が有り得そうだよ!? アンシアはただでさえ、見た目も歳の割に小さいのに…。普通は、そのうち熱も冷めるさって、笑って流すところでは…!?

「という訳で翔君」

「っはい!」

「こうなった以上、これからも先日の様に、うちのアンシアが危険に晒されるような事では困るんだ」

「…はい」

 言いたい事がかなりあるが、はいしか言えない。

「数日程度は、この町に留まるんだろう? 毎日ここに通うようにしてくれ。なぜかは…君は聡明なようだし、分かるね? では…続きと行こうっ」


 この日の記憶は、途中でぶっつりと途切れて終わった。

 俺は…何のために今、旅をしてるんだっけ…?

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