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初めての町

再開します!

応援よろしくお願いします!

 土の町、と表現するのが、一番分かり易いだろうか。


「はー…。すごいな」


 あれからも、多少の寄り道はあったが、俺とマリー、そしてメルの3人は、とうとう目的の町へとたどり着いた。

 今までいた村とは、比べられない程建物が続いている。石造りの様に見える物もあれば、モルタルなのか、もしくは砂に魔術的な何かでもかけているのか、継ぎ目が見当たらない豆腐型ハウスもある。

 そしてやはり、人の数だ。これも村とは桁違いに多い。

 ずっと不安だったが、この世界にも人はたくさん居るみたいだ。


「んー? どうやら町に着いたようだなー」

「あ、メル起きたんだ」


 唐突に、これまでの道中ひたすら惰眠を貪っていたメルが、背中のカバンでゴソゴソと動き出した。

 町に着いたと言っても、そんなに騒がしいという訳でも無いし、このタイミングで起き出した理由でもあるのかな。

 この不思議な神様の事も、それなりに気になる。

 しかしやっとの事で町までたどり着いたんだ。いつまでもぼんやりしている訳にもいかない。


「マリー行くよー…。マリー?」


 そう言いながら俺は、この町が見え始めた頃から、完全に呆けていたマリーに呼びかける。

 驚きの連続なんだろうな。それは分かるんだよ。俺も元の世界では、建物がひたすら並び続けているのなんて、もう見飽きてる。それでも、この世界では初めてみたって事で、結構驚いたもんね。

 そんな事を考えつつ、呼びかけに無反応なマリーに対して、俺は両手で左右から、ほっぺたを突いて遊んでいた。

 マリーやーい?


「って何やってるんですか!」


 マリーが顔を少し赤くして、素早く俺と距離を取った。

 はい。こうして怒られるところまで、予定通りです。


「ごめんごめん。さあ行こう。早い所、この町の市場調査をやりきらないといけないからね」

「そんなに急ぐ割に、道中の寄り道が多すぎたと思うんですけどね」

「なんなのだ翔、お主急ぎで行動せねばと言っておったのに、一体今はあれから何日後なのだ」


 あれから、と言うと、おそらくメルが起きていた出発した日の事だろう。

 そうなると…。


「六日後かな?」

「予定の倍掛かっておるではないか!?」

「いやー…」

「…」


 そうなのだ。

 あの一拍した農家の家以外にも、不思議な牛っぽい生き物が居た家や、個人的に布を造っているという人など、道中色々な出会いがあった。そのいずれも、あの大きな川を利用して、何かをしている人達だった。

 俺はと言えば、コネを作っておくチャンスとばかりに、それらすべてに突撃した。迷惑そうな様子なら切り上げる想定で、顔見せ程度になればと考えていたんだ。

 でも少しばかり想定と違ってしまった。


「俺みたいなのは珍しいらしくて、話が弾む人が多かったんだよ」

「村から初めて出た私が言うのも何ですが、そりゃあお兄さんみたいのは珍しいと思います」

「お主すごいな。当然初めて会った者たちだろう? 何をそこまで話し込む事がある」

「もう過ぎた事だし、許してよ…。それにマリーには、契約先になるかもしれない人たちへの、必要な時間だって説明したじゃない」

「確かに聞きましたけど、理由も分からないでもないですけど、そんな事はした事無いのですから、実感はありませんよ」

「そりゃあそうだね」


 あのマシンガントークの中、ひたすら居心地悪そうにそばにいたマリーの疲れは、想像に難くない。そう完全に、3人組で話してると、なぜか2人と1人状態になってしまうそれ…。

 でも俺だって、マリーに話を向けなかった訳じゃ無い。

 ところがマリーは、「は、はあっそうですね!?」といった感じで、どうにもキャッチボールが得意じゃ無かった。

 無理もないかもしれない。生まれてこの方、ずっとあんなに静かな村しか知らなくて、加えて一番傍にいたのが、あの寡黙すぎるストスさんだしなあ。

 本当は真面目で頭も良くて、とってもいい子なのに、育った環境のせいでコミュ症に…大丈夫だ、これは環境が悪かったせいなのだから、きっとそのうち改善されていくだろう。


 マリー、頑張れ!

「私、お兄さんが碌でもない事考えている時は、もう手に取るようにわかるんですよね。そこまで長いお付き合いでもないのに、不思議です。ええ、不思議ですねお兄さん?」


 最近マリーさんが本当遠慮なくて、俺は嬉しいよ。


「我は何でもいいから、急いだ方が良いと思うぞ」

「そうだね、行こう行こう!」

「お兄さーん?」


 そんなこんなで、俺は呆れ気味の神様と、かわいらしく少し膨れた妹様を引き連れて、この世界で初めてとなる、町の調査へと繰り出した。



 さて数時間経ち、とりあえず目に見えて店が固まっているエリアを、まとめて巡回し終わったところだ。その結果だけど…。

「私、お兄さんがなんで頑なに、調査だ調査だって言っていたのか、やっと実感できました」

「なんぞよく分からんが、元気を出すとよいぞ?」

 メル、よく分からんってなんだよ…。

「まあ、俺も想定よりアレな状態で、少し戸惑ってるけどね」

「今までの感覚が全部崩れてしまいました。常日頃旅をしている人たちは、変だと思わなんですかね」

「どうだろう…そこも、イエローに聞いておけばよかったね」


 俺たちがとりあえず見てきたのは、シンプルに売り物の内容と、その値段だ。

 それを確認すれば、この町においての需要がどう偏っているかわかる…と、考えていた。

 しかしそうはならなかった。

 端的に言うと、基準として記憶していた村の値段に対して、相場がてんでバラバラなのだ。

 例えば、村ではアンシアが経営していた生地物の店、それがこの町ではべらぼうに高い。

 さして質に差があるようには見えない、どころかこの町の生地屋においてあった商品の方が、品質は下の様に思えた。他の商品群についても、本当にバラバラ。そりゃあ地域による入手難易度の問題や、需要供給などの関係から、こういう事は起こりうる。でもたかだか、歩きで三日程度の距離にある場所同士で、ここまでのバラつきが出ているのは予想外だった。

 想定では、村の価格の方がおおよそ高くて、騎竜便なんかの輸送コストを、何とかしていく方向になると考えていたんだけど…これだと話が違ってくる。

 たまーにゲームとかである、特産品でも何でもないのに、うちの村では〇〇が安いんですよ、とか唐突に商人が言い始めるあれに近い。終盤、村から村への瞬間移動手段を手に入れると、転売しているだけで手持ちのお金がカンストするやつだ。

 この世界はゲームじゃないし、物を客から買い取ったりなんてしてないから、実際には出来ないけど。

 そもそも、元の世界の現代基準で、物の価値感が統一されていると思っていたのが馬鹿だったか…。

 この世界にはネットなんてものも無いし、用が無ければ村からずっと出ないのも普通の事だ。となれば当然、商品の価格はその場所のみで確立されていく。

 他の場所ではこういう値段だから、対抗してうちも値下げをしよう、なんていう感覚がそもそも存在しないのではないだろうか。

 イエローみたいな旅商人はもちろんその限りではないと思うが…。

 安く多く物を売るか、高く少なく物を売るか、そのどちらでも、やっていけるだけ売れれば、店はやっていける。どちらの方針に近づいていくかは、経営者次第だ。

 それが、それぞれの村や町で、完全に独立した価値観となって根付いているとしたら…?

 元の世界でだって、国によって物価は違うし、100円くらいでおにぎりが食べれる国もあれば、500円くらい無いと食べられない国もある。

 でもそれとは違う問題なんだよな…。


「もともと世界に影響を与えるレベルを、最終的には目指すために動いているけど、さらに難易度が上がったよ…」

「なあ翔よ。我にはどうにもわからん。様々な商人がおって、各々が値段を工夫し、やりくりしておる。あまりにそぐわぬ行いをしておれば、商いは立ち行かなくなり、何かを改めたり、商売から足を洗う。それでうまい事、世は回っておるではないか。何がそこまで問題なのだ?」

「まあその理屈だけで行くと、俺は自分が立ち上げる店で、それこそ勝手に、自由な値段で商売して、駄目ならつぶれるってだけなんだけどね。そうじゃないんだよね…」

「お兄さん、今日は日も暮れてしまいますし、そろそろ宿を取りませんか?」

「そうだね…続きは明日だ」


 町に着いた初日から、先行き不安すぎる事態となってしまったが、とりあえずはゆっくり休んで、頭をリセットするとしよう…。

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