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町への旅路2

 不定期気味になっており申し訳ありません…。

 でも今後も続きます!続きますのでよろしくお願いします!

 目の前には、どこまでも続く地平線が広がっていた。

 木々に囲まれた世界は過去のものになり、ひたすらに遮るものがない平坦な地面が続いている。まばらに雑草が生えている以外は、土の色が目立っていた。

 そんな中、視界を大きく占めるもう一つのものがあった。

「…川だ」

 ひたすらに続く平地の傍らに、こちらもまた延々と続く水の流れがあった。かなり幅が広い川で、良く見ると自然な周りの景色にそぐわない、石などで整理された様子もある。不思議な川だった。

 景色にしばらく意識を奪われた後、ふとマリーの方を見る。

 すると俺と同じか、それ以上に目の前に広がる地平に目を奪われている様だった。

 それもそのはずだ。

 物心ついたころにはあの山奥の村に居て、その閉鎖的な世界で生きて来たんだ。こうして一日程度で来れる様な場所にさえ、気軽に村から出て見に来る事なんて出来なかった。

 あの村はそういう、身動きの取れない空気に縛られていたんだ。

 そしてそれを打ち壊せる大人は、現状に疲れ切って動こうとはしていなかった。マリーやアンシアは、そこで飼われた籠の鳥だ。

 外の世界を見た事が無いのに、あそこから気楽に出ては来れまい。

「いやあ、何もないね」

「そうですね…」

「マリー?」

「…」

 特に絶景な訳では無いし、きっとこの世界でもありきたりな景色だろう。

 でも、こんなにも大きな水の流れも、木の一本もない大地も、俺とは違い初めて見たんだ。似たような物を元の世界で見た事がある俺より、目を奪われても仕方ない。

 強気な性格のせいか、全然そんなそぶりは無いけど、きっと内心は不安だろうし、道中ちゃんと見ていてあげないとな。

「マリー、とりあえず進もう。もう日が沈みかけてるし、今日休む予定の野営地まで行かないと」

「ひゃ!? そ、そうですね」

「そういえば、噂の野営地は山のふもとって話だったけど、それらしい建物とかは見当たらないね。」

「集まっている場所があると言う話でしたし、建物とは限りませんよ? それにしても、それらしい人影は見当たりませんが…」

 言葉の途中で、マリーがそれを途切れさせる。

 不思議に思いマリーの視線を追うと、夕日に紛れて見づらいが、何か揺らめく物があった。あれは、もしかして火ではないだろうか。そして…野営に火起こしは付き物だ。

「とりあえず行ってみようか」

「そうですね」

 俺とマリーは川のほとりに見える人の気配に向かい、あと少しになった今日の目的地への距離を歩き始めた。


 何かの見間違いと言う事も無く、火の立つ場所へと近づいていくと、旅の途中と思われる人たちが集まっていた。

 とは言っても、村に立ち寄る人たちの人数から、推して知るべし。人数は10人にも満たないし、ただ近くに集まって休んでいるといった風だ。

「屋根とか、そういった物も全くありませんね」

「そうだね。本当、ただ集まってるだけなんだ。雨が降ったら大変だったかもね」

「天候に恵まれているうちに、町へと付けるようしっかり休みましょうか」

「あなたたち、雨避けが無くて困ってるの?」

「えっ?」

 突然声を掛けられ、俺たちはそちらへ振り向く。

 頭からすっぽりと外套を被った女性が立っていた。目深にフード部分を下げているため、はっきりとは顔が見えない。けれどもおそらく若めの、俺と同世代あたりの人ではないだろうか。

「よかったら、少しついておいで」

 俺たちは顔を見合わせ、その女性に付いていく。

 特に離れた場所という訳では無く、すぐ近くに少し動いただけだ。

 そこには、俺の背負っているリュックよりも、二回りは大きい荷物が置かれていた。

「まあとりあえず座りなよ。今晩はここで休むんでしょ?」

「はい。あの、あなたは?」

「んー? あたしはねー…」

 そう言いながら、彼女はその荷物を立ったまま覗き込み、何やらゴソゴソと探していた。

 それはいいのだが、先ほど俺は促されて座った訳で、そうなると視線の問題と言うか、彼女の膝辺りまで伸びている外套の裾が揺れる訳です。

 この世界に来てからと言うもの、一番歳が近くてもマリーくらい年下だった俺としては、こうなかなかくるものが…いや、中に何かちゃんと着ているのは分かってるんだけどしかし―

「お兄ーさん?」

「はいっ!」

 圧力の籠った声に反応し、一瞬で視線を真っ直ぐに戻す。地面の石ころに集中した。

 マリーは最近本当に容赦がない。いや、遠慮が無いと考えれば、良い事ではあるけどね。

 でも俺も成人男性なんだよ。この世界へ来たばかりの頃も、チート無双でいい奥さん捕まえてとか、妄想してた普通の人なんだよ…。

「あったあった。これ、どうかな? お安くしとくよ?」

「これ、何なんです?」

 マリーの言うとおり、差し出されたそれは、一見何か分からなかった。

 布製の袋の口が、巾着の様に閉じられており、中に何かがパンパンに詰められている。頭に浮かぶのは、良くある簡易携帯グッズのそれだ。雨合羽とかが入っているやつ。ただそれにしては、少々大きい。短い野球のバットくらいはあるだろうか。

「よくぞ聞いてくれた! ふふ~ん、きっと驚くと思うよ。そこらには出回ってない物だからね」

 すると、彼女は中身を抜き出し、これをこうしてなどと呟きながら、手際良くそれを組み立てていく。中から出てきたのは、棒状の何かが複数本と、大きな布が一つだ。

 これはきっと、アレではないだろうか。

「へえ…テントがあるんだね」

「えっ?」

「テントなんですか、これ? なるほど…この短い棒が繋がって、支柱になる訳ですか。お兄さん良くわかりましたね」

「ん?」

 反応から察するに、テントは普通に存在するみたいだ。けれどこれがテントだとはすぐわからないと。

 フードの女性も不思議そうに口を開けているし、考えられるとすれば、これが折りたたみ、あるいは簡易と付きそうなテントである事だろうか。案外、現代の便利さを得たのは極々最近という物も多いしな。

 こういうのは、店をやる上でも重要になってくる。

 つくづくこの世界における、標準的な常識を知らないのが、もどかしくなってきた。

 頼みの神様は、相変わらずスヤスヤ寝ているままだし、どうしたものか。

「君…」

「え!?」

 いつの間にか、女性が四つん這いになり、こちらに顔を近づけて覗き込んで来ていた。

 まず、綺麗な人だと思った。今まで隠れていた瞳は、非常に力強さを感じさせる。そして、気のせいか肌にもハリがあるみたいだった。

 別にこういう事に、詳しいという訳では無い。

 でもこの世界で普段触れあってきた人たちは、総じて栄養不足気味で、やせている事が多かった。でもこの人は、それに比べて健康的に見えた。

「良くわかったね? これがテントだって」

「い、いや、たまたま似た物を知っていたから、わかっただけだよ」

「知ってた? 偶然わかったんじゃなくて…?」

「うん…」

「ふうん…」

 そう言いながら、こちらに乗り出していた身体を引っ込めると、少年のような動きでドカリと腰を下ろした。

 先程間近で見た美人さんには、何とも似合わない動きだ。しかし、そんなところも魅力的かもしれない。

「あたしは、世間一般についてそれなりに詳しいつもりだけど、これに似た物が、他にもあったなんて知らなかったなー。ねえ君、その似た物って、どこで見たの?」

「あ、それは―」

 元居た世界で、と答えようとしたところで、俺はふと思い至った。

 これは、言い触らしても良いものなのだろうか…?

 今までは特に気にもせず、あの小さな村の中だけとはいえ、俺が異世界から来たことは周知していた。

 でも、それはつまり異端であると言う事だ。

 何が起こるか分からない以上、あまり知られないようにした方が良いかもしれない。

「ねえ、どこで見たの?」

「…どこかで見た!」

「「は?」」

「…」

 それぞれ理由は違うだろうが、二人の声がシンクロしていた。気が合いそうだね…。

「ちょっと、何それー? 最初、普通に答えかけてたよね? 嘘でしょそれ? ね、ね、ね?」

「いや、そん、な、事無い、かなー?」

 女性は先ほど同様、四つん這いでグイグイと距離を詰めてくる。

 マリーは、なぜか少し不機嫌そうに見ているだけで、助け舟などは出してくれない。

「んー?」

「そ、そんな事より! さっきのテント珍しいよね! 他にもこんなのがあるの? と言うかあなたは何者?」

「ん? ふふーん、あたしはね、しがない旅の商人さ! こういう珍しい物を仕入れるアテがあってね。それを広めつつ、まあ色々あって村や町を回ってるのよ」

「おおー」

 俺はパチパチと拍手なんかして、このまま追及を逃れる流れへ持っていこうと試みた。

 しかし、彼女が俺を何者か気にしたように、こちらも向こうが何者か、非常に気になる。

 村で得た知識しかないとはいえ、この世界の住人であるマリーが知らない物を持っている。そもそも彼女自身が、珍しい物だと言っているそれを、仕入れるアテがあると言う。そのアテとは、一体何なのだろうか。

 気になる、非常に気になる。

「ふふーん。他にも珍しい物が、たくさんあるんだよ。見る?」

「お、是非是非!」

「あ、じゃあ私も」

「その珍しい物が手に入る、アテって言うのも教えて貰えるの?」

「それはー企業秘密かなー? ま、なーんか君も普通とは違うみたいだし? 何かの縁って事で、答えられる事なら教えてあげても良いけどねー」


 ―――!


「ほんとに!?」

「うわっ、えらい食いつきだなー…。あ、お約束のスリーサイズがどうとかは無しだよ? あたしそういうの大っ嫌い」

「そんなのは良いって! それより、ずっと旅をしてきてるし、この世界の事についても詳しいんだよね?本当に色々聞いても良いの?」

「…! うん、いいよ。…でもそんなの扱いはひどいなー? 意外とショックだねこれ。こんな失礼な事普通言われないから、貴重な経験したかも…」

「そ、それはごめん。初めての旅で、ちょうど色々聞きたい事があった物だから、聞ける相手が出来て嬉しかったんだよ」

「まあ、雨が降ったらやばかったーみたいな事を言ってるくらいだもんね。そんな事だろうとは思ったよ」

 そう、これは非常に嬉しい事態だ。

 この世界でどんな物が、珍しいという扱いをされるか、現品を交えて見ることが出来る上、分かる事なら答えてくれると言う。

 神はここに居た!

 あれと、それとこれと、あとそれから…。

「…あ、じゃあ私はやっぱり、寝る事にしますね。今日は疲れましたし」

「え、さっきは興味ありそうだったのに、君は見ないのー?」

「ええまあ、気が変わったと言いますか…戦略的撤退と言いますか」

「うん? まあよく分かんないけど、疲れてるならしょうがないね! しっかり休むんだよー?」

「はい。あの…ご検討を祈ります」

「??」

 気づくと、マリーが何やら寝袋を広げ始めていた。

「あ、あれ。いつの間に?」

「なんかお疲れみたいだよ? 駄目だよー女の子は気遣ってあげなきゃ」

「そ、そうなんだ…?」

 俺なんかより、体力はあるはずなんだけど、体調を崩したりしていないよな…?

「ま、ゆっくり休むって言うんだから、今日は気にしてもしょうがないよ。ほら、こっちおいで」

「そりゃそうだ。あ、最初の質問なんだけど―」


 こうして旅立って初めての夜は、新しく知り合った人と過ごす事になった。

 これからを左右する貴重な情報が、得られる事もあるかもしれない。

 この出会いに感謝して、“最大限”活用しないとな!

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