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夢と、初めての村と

※お願い


 そろそろ、主人公がこの世界で、本格的に行動を始めます。

 その過程で、色々な知識を得意げに話すこともあるでしょう。

 しかし、同業者様はわかって頂けると思うのですが、販売戦略やその他原則は、決して一辺倒ではありません。

 なので読者の方が学んだ事と異なる理論も、そのうち出てくるかもしれません。

 あらかじめご容赦ください。

 あくまで“翔が元居た”世界の知識を、この世界で語っているんだと思います。


 これからも優しく、物語を応援して頂けると幸いです。

 今日も夢を見ている。

 相変わらず、勇者は雷鳴を響かせて激しいぶつかり合いを繰り広げていた。

 始めのうちはあまりのインパクトに、勇者のことばかり見ていた。

 しかしこうも同じ夢が続くと、ある程度余裕も出てくる。

 試しに視線を下へ向けると、何やら建物が並んでいるのが確認できた。

 これは村だろうか。

 そこまで大きくないし、集落だろうか。

 その建物の多くは、こんな状況の真下にあるということを差し引いても、ずいぶん寂れて見えた……。




 俺は日課となったマキ割り水汲みを早々に終わらせ、マリーの案内に従い山道を歩いていた。

「へえ……結構近くに村があったんだ」

「はい。大体15分くらいの道のりですね」

 どこかへ仕事に行っている以上、それなりの距離には何かあるだろうとは思っていた。予想していたよりは、かなり近い距離だ。とはいえ、歩いているのは山道だ。たかが15分、されど15分。ましてや、今マリーの代わりに担いでいる、金属でできた商品群を担いでとあっては、中々の重労働と言えた。

 これを担いで、ほとんど毎日この道を往復していたのか……。

 正直、仕事柄それなり程度とはいえ、身体が鍛えられている俺でも息が上がる。マリーはすごいな……。この世界へ来てからと言うもの、マリーには感心してばかりだ。

 それにしても、村か……どんなところか楽しみだな。

 俺はこの異世界に来て、これから俺の無双伝説の始まりかと、心底期待していた。でも未だに、これと言った力が使える気配は無い。特に力を授かる修行イベントが始まるわけでも無ければ、申し訳程度にここでは身体能力が高いなんてことも無い。まさに、戦闘力たったの5か、ゴミめと言わんばかりの、まごうことなきただの一般人のままだ。肩透かしを喰らったようで、正直意気消沈気味だった。

 しかしだ。俺は今、新たな期待を胸に抱いて、少し興奮気味だ。

 それは他でもない、今向かっている村で開催しているという、市場いちばが関係していることだ。皆様も良く考えてみて欲しい。

 店長経験もあり、それなりに業界のセミナーなんかにも顔を出していた俺が、異世界に来て最初に出会った女の子が、おあつらえ向きにお店を営んでいるという。加えて本人が、そんなにやることがないという程度しか、儲けることができていないっていうじゃないか。

 となれば、答えは見えてくる。

 これは、能力無双系じゃなく、現代知識で無双するタイプなのではないだろうか?

確信を持てる何かがある、というわけでは無い。でも、わざわざ異世界にまで呼ばれたからには、何かしらの意味があると信じたい。

 俺が持っている商業や、小売業の知識は、元の世界では業界人なら知っているのが当たり前のことも多いし、そこまで専門的で難しいものは少ない。それでもそれは、実際に売り上げの数値統計を取り、売るための仕掛けに対して、どういった結果が出るのかを、膨大な時間や資産を費やし、まとめ上げてきたものだ。人類史の叡智のひとつだ。この世界でも通用するのか不安はあるが、試してみる価値はある。

 いや、通用してほしい! 知識を駆使して一財産を築いて、夢の異世界豪遊暮らしをしてみたい! 美人な奥さんも、もちろんセットだ。お金が稼げればマリーにも、今よりずっといい暮らしをさせてあげられるかもしれないし……。

 マリーが世話をしてくれていなかったら、俺は間違いなく途方に暮れていた。もし今考えている通り上手く事が運んだら、必ず恩を返したい。

「お兄さん! 平気ですかー! 荷物、持ちましょうかー!」

 だって、こんなにいい子なんだもんな……。

「大丈夫だよ! 何のこのくらい!」

 あれこれ考えながら歩いていたら、いつの間にかマリーと距離が開いてしまっていた。踏みならされた跡があるとはいえ、舗装されてる訳でも無いのに、マリーはするすると歩いていく。健脚だなあ……。

「あと少しですから、頑張ってくださいねお兄さん」

 うん、笑顔が眩しいね。あと、お兄さんと呼んでくれる所もとても良い。癒しだ……。

 俺は少し足を速め、マリーを追いかけながら質問してみた。

「この道を毎日、荷物を担いで往復って大変じゃない? 村があるのなら、そこに住むわけにはいかないの?」

「うーん、まあ色々ありましてー」

「そうなんだ」

 また、色々あるらしい。もしかして信用されていないのだろうか。だから本当のことを隠している? 考えてみれば、俺はいきなりどこかから現れた得体も知れない人間だし、当然かもしれない。

「それに村からだと、今度はメルクリウ様の所が遠くなってしまいますからね」

「それって、神樹様の名前だっけ?」

 どこか他でも聞いた覚えがある名前なんだよな……。どこだったか。

「はい。特に何をしているわけじゃないんですけど、定期的に様子を見に行っているんです。極々稀にですけど、異変があったりしますからねー?」

 マリーが少し首を傾げ、下から覗き込んでくる。ああ、異変って俺のことね……。俺にはとりあえず笑うことしかできない。にしても、それでわざわざこんな山道を往復しているのか。他にも理由はあるみたいだけど、できればこれも何とかしてあげたいな。

 あれこれ話をしながら歩いていると、フッと視界が開けた。今まで木々に遮られていた太陽の光も、一気に目に入ってくる。

「お疲れ様です。あとは市場まで行けば到着ですよ」

 そこにはこの世界に来て、初めての村が広がっていた。




 そのまま一気に市場までやってきた俺たちは、持ってきた荷物の中身を取り出し、店を広げていた。俺はとりあえず、マリーに言われるがままに持ってきた剣やら、盾やらを並べながら、周りの様子を窺っていた。

 なんというか、思ったよりも閑散としているんだな……。

 市場と聞いていたから、それなりにこの世界の人がたくさんいるのかと思ったのに、実際には時折人が通っているという程度だ。タイミングによっては、店の近くに誰もいないことすらある。店も、ずらりと並ぶと言うほどあるわけでは無かった。何より、お客が少ないのは仕方がないとはいえ、とても空気が重かった。それから、初めてマリーとストスさん以外の人を見たけど、どの人も軒並みやつれた顔をしていた。

てっきりマリーが、特別生活に困っているのかと思っていたけど、ここにいる人たちはみんな大変なんだな。

 そんなことを考えながら、こっそり視線を巡らせていた俺だったが、どうにも注目を浴びている気がする。まあこの規模なら、多分みんな顔見知りなんだろうし、そりゃあいきなり得体のしれない奴がいたら、目立つか……。よし、こういう時は先手必勝! 円滑なコミュニケーションは、元気な挨拶からだ。

「よし……」

「え? お兄さんちょっと!?」

 俺は素早くお隣さんの店の前まで進み、経験で培ったとびっきりの営業スマイルを浮かべて言った。

「おはようございます! 訳あってマリーさんの所でお世話になっています。今日はお手伝いとして、ついて来ました。このあたりのことには少々疎いので、ご迷惑をかけることもあるかもしれませんが、よろしくお願いいたします!」

 お辞儀もビシッと決め、本日一人目の挨拶をやりきった俺は、おそるおそる、お相手の反応をうかがってみた。

「……」

 あれ、不味い……。何かすごい怪訝そうな顔をしている。

 おかしなことをしてしまったのだろうか。ここの常識は元の世界と違うとか? マリーと普通に話が通じるから、大丈夫かと思ったけど、考えてみれば元の世界でだって、その場所での常識や作法って言うのものがある。早まってしまっただろうか。

 そう思っても後の祭りで、俺は内心を隠しながら笑顔を顔に張り付け続ける。

「えっと……」

 何か話をしてみようかと思ったその時、目の前のおばさんがふっと表情を和らげた。

「……ああ、よろしくね」

「あ……よろしくお願いします」

 なんだ良かった。普通にいい人そうだ。

 がっちり握手まで交わしていると、事の成り行きを見て固まっていたマリーが、ハッと気が付いたように近づいてきた。

「ちょっとお兄さん! びっくりするから、あまり勝手に動かないで!」

「おはようマリーちゃん。どこから連れてきたのか知らないけど、元気なニイちゃんだねえ」

「ソウさんごめんなさい。ちゃんと私が紹介しようと思っていたんだけど……」

「まあ、事情は聞いておかなきゃならないしねえ」

「うん、きちんと説明するから。お兄さん、私ソウさんと少し話があるから……」

「そっか、じゃあ残りのお店の人にも挨拶してくるよ」

「い、いやお兄さんそうじゃなくて……」

「あっはっは! まあいいさ行っておいで。どうせ他の連中も今のやり取りは見ていただろうし、問題はないさ」

「それは、そうかもですけど……」

「では、行ってきます。マリー、挨拶が終わったら店の手伝い、続きするね」

「あ、うん。いってらっしゃい」


 それから俺は、まわりのお店を順番に回った。一人ひとり丁寧に、これから仲良くしましょうという気持ちを込めて挨拶した。全体的にぶっきらぼうだったり、中には返事を返してもらえないこともあったけど、今の俺は怪しい人間、多少は仕方がない。

 なんにせよ、来たばかりの頃よりは多少、人通りも増えてきた気がする。いよいよここからが商売の本番だ。頑張るぞ!

 そういえばそれとは別に、ちょっと引っかかるんだよな。一体なんだろう?

「お兄さん、こっち手伝ってもらえますか?」

「うん。今行くよ」

 店に戻っていたマリーに呼ばれて、俺は手伝いを再開する。

「あんまり目立つ事は控えて下さいね。ここではお兄さんは……何もしなくても目立ちますから」

「うん。無闇に目立とうとは思わないけど……」

 俺が何もしなくても目立つ? 初めて来たから……っていうのは、当たり前のことだからあえて言ったりしないだろうし、だとすればどういう……?

 しばらく考えながら辺りを眺め、やがて一つの答えに思い当たった。

 あ……そうか。ここの市場の人たちは、俺以外全員、女の人なんだ。

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