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新しい一歩目3

 ぽむんぽむんぽむんぽむん。


 俺たちは神樹様のところから移動し、普段よく見ていながら、決してくぐる事の無かった村の入り口へとやってきていた。

 アンシアとは、ここでしばらくお別れとなる。

 この世界では数少ない仲のいい知人だし、結構寂しい。

「それじゃあアンシア、行ってくるね。どのくらいかかるか分からないけど、一度は必ず戻ってくるから」

「はい、翔、さん…気を付けて」


 ぽむんぽむんぽむんぽむん。


 名残を惜しみつつ俺が一歩離れると、アンシアが何やら迷うような仕草を見せた。両手の指を合わせ、もじもじとした様子だ。目にかかる程長い前髪に合った仕草で、何ともかわいらしいななどと考えていると、やがてアンシアは視線を上げる。そして普段通りたどたどしく、けれども意を決したように声を出す。

「あの…マリー、さん。ちょっと…」

「なんです…?」

 要件があるのはマリーに対してだったようだ。

 呼ばれたマリーはアンシアに駆け寄り、何やら小声で話をしている。俺よりよっぽど長い付き合いだし、何かしら秘密にしたい事でもあるのだろうか。


 ぽむんぽむんぽむんぽむん。


 さて、皆さんは気になっているであろう。

 あの時神樹様がアンシアへと跳び込んでいき、その後どうなったのかと言う事を。それには先程から、俺の頭の上でぽむんぽむんと跳ね続けているぬいぐるみが関係している。と言うよりも、ずばりこのアンシアが抱えていたまん丸猫のぬいぐるみが、現状神樹様その人である。

 詳しい理屈なんかは、ここの世界の神様理論が関わってきて分からない。

 しかし現実として、神樹様はぬいぐるみに宿り、そうする事で俺に触れる事が出来ている。

「神樹様、いい加減俺の頭の上で跳ね続けるのは止めて下さい…」

「いいや、これくらい、で、我の、怒り、は、収まらん!」

 光が弾けて消えた後、神様は我肉体を得たりと言って、以降この調子だ。よほど機嫌を損ねてしまったらしい。ただの布の塊だから、特に害は無いのだが、さすがに自分の頭の上で、何かがずっと跳ね続けているのは、気が散って仕方がない。

「仕方ないなー…。気が済んだら大人しくするんだよ?」

「ばっ、馬鹿に…~~~~~!」

 

 ぽむぽむぽむぽむぽむぽむ。


 さらに跳ねる速度が上がる。

 いや、ぬいぐるみに入ってからと言うもの、ますます神々しさが感じられないからと言って、元の見た目通りの、子供にするような対応をしている俺も俺なのだが…。

 正直、行動や反応が完全に子供のそれである。

 神と言う種族として生まれただけ、というような事も言っていたし、メルクリウ様はメルクリウ様であり、こういう子だと考えても良いかもしれない。

「ねえメル」

「…は?」

「神様の事だよ。メルクリウ様だからメル」

「とうとう我の事をそんな愛称で呼び始めおった!?」

 あ、ぽむぽむ止まった。

 メルは今度こそ完全にへそを曲げてしまったのか、旅の支度で大きく膨らんだ背中のカバンへと跳び移り、そこで黙り込んでしまった。

 少しからかい過ぎたかもしれない。

 ほんの数時間前は、神様だから敬意を払って、失礼の無いようにと考えていたはずなのに、一体どうしてこうなったのか。自分でもよくわからない。でもどことなく、安心できる何かが有るんだ。


 そんな事をしていると、話を終えたマリーがこちらへ戻ってきたのだが…何やらぐぬぬ、といった難しい顔をしている。しかもそれに加えて、少しばかり顔が赤くなっているように見えた。

 一体何の話をしたら、そんな表情になるのだろうか。

「お待たせしました…」

「うん、別に構わないけど…何の話だったのか、聞いても良いのかな?」

「えっ!? い、いえ大したことではありませんよ。戻って来たら、遠慮も容赦もしないとか、そんな程度です! 色々問題はありません!」

「本当に何の話だったの!?」

 やはり女性と言うのは、どこの世界でも分からないものみたいだ。

「も、もういいでしょう。そろそろ出発しましょう。唯でさえ予定より遅れてしまっているんですから」

「そ、そうだね。じゃあアンシア、今はメルが中に入ってるけど、このぬいぐるみを俺だと思って、待っててよ。寂しい思いをさせてごめんね」

「ぬ? 何を言っておる。我はお主についていくぞ」

「え、そうなの?」

「こ、こやつもはや我を敬う気が…はぁ、とにかく、我は旅についていく。お主を呼んだ事で、我に力などもうほとんど残ってはおらんし、それならば自分でやった事の行く末を、見守っていかねばなるまい。この姿では、今までの様に遠視も出来んしな」

 どうしよう、メルがどんどんただのマスコットと化していく。

 でもそれはそれとして、そうなるとアンシアは、この村で同年代の話し相手がいなくなってしまう。問題はもちろん無いだろうけど、少し後ろ髪を引かれてしまうな。だからと言って、代わりに渡せる形見みたいな物も持ち合わせがない。

 いや、別に死地へ向かう訳でも何でもないのだが、知らない場所ではあるし、不安があるしな。

「じゃあせめて、また指切りしよう。出来るだけ急いで戻る事にするね」

「ふぇぁっ…!?」

「ちょっ!?」

「ふむ…」

 俺は片手でアンシアの小指を取り、指切りをした。同時にもう片方の手で頭を撫でる。

 アンシアには、命がけで守って貰った恩もある。絶対に戻ってくると言う、俺なりの決意表明だ。なんだか、反応が大げさすぎる気がするが…まあ良し。


 そうして、俺とマリー、そしてメルを加えた3人?は、まだ見ぬ町への一歩を踏み出した。

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