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新しい一歩目2

ペースはそのうち戻ります…!

 幻想的と言うのは、こういう事を言うのだろうか。

 辺りの木々が、やわらかな緑色の光に包まれている。

 そして俺は、この感覚を知っていた。

 この世界へ来て、一瞬だけ目覚めたあの時に感じたものと同じだ。あの時は色々と、感覚が曖昧になっていたから実感が無かった。

 本当に俺は、この世界のこの場所で召喚されたんだな…。

 この光景に目を奪われていたのも束の間、俺たちの視線は光の中心である神樹の方へと集まる。

 もっと、とてつもなく大きな樹をイメージしていたが、意外と他の木々よりも、少しだけ大きいと言った程度だ。そして、ひときわ強い光を放つその樹の前に、何かがいる。見た目は人の形をしている様だった。それが樹の根元で目をつぶり、佇んでいる。

 しかし、俺にはそれが人間だとは、どうしても思えなかった。辺りを包む温かい光、その神々しさを、その人影から強く感じるのだ。

 これはもしかすると…。

「メルクリウ様…なんですか?」

「ええ!?」

「っ…!」

 マリーとアンシアが双方驚いてみせる。

 ちなみに二人とも、今は俺を盾にするようにして、神樹様と思われるものを見ている。

 こうして頼って貰えるのは、非常に喜ばしい。しかし本当に神様なら、少しばかり失礼かもしれない。

「お兄さん、確かにただ者じゃないと言うか、すごい色々感じますけど、メルクリウ様は樹です。どこからそんな発想が出てくるんですか?」

「あれ…俺の居た世界では、樹の神様が人型をとって目の前に…とかは、割とメジャーなんだけど、そうじゃないの?」

「知りませんよそんなの…」

「アンシアも?」

「…」

 アンシアもこくりと頷き、質問に肯定する。

 そう言われると、自分でメジャーだなどと、言っておいて何だけど、そういうのは空想の物語に多いだけで、実際に存在するかと言えば、当然そんな事は無い。

 この世界で魔法などは普通の事であっても、当然ながら俺の知っているファンタジーな内容が、すべて存在している訳では無いみたいだ。

「少しはもったいぶってやろうと思うとったが、まさかここまで早うに言い当てられるとはのう」

「!」

 それが目を開き、俺たちへと言葉を差し向けてきた。

 同時に辺りの光が、まるで蛍が舞うように霧散していく。まわりの神秘的な光景が、まるで夢だったかのように消えた。

 しかし、目の前の圧倒的な存在感は、相変わらず変わらない。

 むしろ、周りとの異質さが余計に浮き彫りになり、より特別なものに見えた。

「改めて、よくぞ参った。異界の者よ」

「異界の…じゃあお兄さんはやっぱり…!」

「マリー、やっぱり…って?」

「そ、それは…何と言いますか…」

「はっはっは。よいよい。どの道話をするために、我はこうして待っていたのだ。我が話そう」

 そう言って佇まいを直す神様に視線を向けられ、俺は神妙な気持ちで向き直る。

 見た目は中性的な、マリーと同じくらいの年頃の人間に見えるのに、とても気楽な気持ちにはなれない。

「そうじゃな…まずはこの世界の事について話そうか。この世界は今、滅びの危機に瀕しておる。数年前、この世界の神々は、世界を守る為に各々行動を起こした。ただ、元々それで済まないからこその危機じゃ。神の加護を超えて、今世界に害を及ぼすものが広がりつつある。お主の居た世界では、様々な神の在り様があったようだが、我らに出来る事は少なくてな。基本的にはそれぞれ請け負っておる力の加護を、維持する事くらいしか出来ないのじゃ。力を使って、直接的に世界の害悪を弾き飛ばす、そんな事は一切出来ん。対抗できるのは、この世界で実際に生きる者たちのみじゃ。しかし現実として、それで対抗しきれない事が、我ら神々には見えておった。どう見えておったかは、お主なら覚えがあるじゃろう?」

「あの夢の事…ですね?」

「左様。ちなみに、あれでもかなり、マシな未来になった方なんじゃよ。最初はそれはもう悲惨であった。ほとんど抵抗など出来ず、この世界のすべてが滅んだ」

「ちょ、ちょっとお兄さん…何の話ですか。世界が滅ぶって…何か知っていたんですか? そんな事一言も言っていなかったじゃないですか」

「そういえば言っていなかったっけ。この世界に来てから、ずっと、同じ夢を見ていたんだよ。まるで、何かを伝えようとしているみたいに…」

「そう感じておったのなら、もっと早うにここへ来ればいいものを…」

「あ、申し訳ありません神樹様、今何と…?」

「何でもない。気にするな」

 いけない。

 マリーに返事をしていて、神樹様の話を聞きもらしてしまった。何と言っても神様だし、失礼の無いようにしないとな。

 早口でずいぶん小声だったし、今のは本当に俺たちに言ったんじゃ無いみたいだけど。

 マリーもアンシアも、面食らった様子で俺の服を掴み、不安そうな表情だ。

 日々魔物の脅威や、生活に不安を抱えながらも必死に生きていたのに、結局世界が滅びるなんて聞かされたのだから、無理もない話かもしれない。

「あーどこまで話したかのう…そうじゃ、そして、我らはそれぞれ、世界の為に出来る限りの力を使ったんじゃ。それについては娘っ子よ。お主らが知っておろう?」

「すうねん、前の、神託…?」

「一斉に魔力の跳ね上がった人が現れたり、突然何もない所から人が現れたと言う、あの件ですね。そのすべてが、並では無い力を持っていたとか…。ただの噂かと思っていました」

「なるほど、そんな事があったんだ…。あれ、とすると、なぜ俺だけは、その信託とやらから、数年後に呼ばれたのでしょうか」

「…それは、じゃな」

 …? 一瞬視線が泳いだ…?

「それは、我が他の奴らと違って、聡明で思慮深いからじゃよ」

「他の奴ら、と言うと、他の神様達の事ですか?」

「左様じゃ。あ奴らときたら、敵に対抗するためと言って、相談もせず、とにかく素養がある者に力を与えて、それを持って事態を処理しようとしたんじゃ。じゃが、力のある者が増えたとて、それですべて解決する訳もない。世界の資源などがやがては尽き始め、それを解決できないがために、結局力を受けたつわもの達も、それを振るえなくなる有様という訳じゃ」

 なるほど、その結果、あの衰弱しきった様子の勇者が、最後に立ち向かうといった場面になる訳か。しかしなんだろうか。先程から感じるこの何とも言えない感じは。

「そこで! 我が満を持して動いたという訳じゃな。我の象徴たる商売を発展させる事で、あの惨状を解決してやろうとした訳じゃ」

「メルクリウ様は、商売の神様だったんですね」

「うむ。もはや世界を救うには、何か画期的なものが必要じゃったからな。そこで異世界にまで目を向け、その叡智を借り受けようと、お主を呼び寄せたという訳じゃな」

「そうでしたか…しかし、なぜ俺を?」

「まあまずは、順応性の高そうな所じゃな。ここへ呼んでも、嫌だ嫌だと駄々をこねられたら敵わん。その点お主は、普段から空想にふけっとる事も多い。何やら奇怪な行動をしとる事もある。何だかんだで図太そうじゃった」

「お兄さん、元の世界に居た時から、あんな痛い行動を続けていたんですね…」

「…っ」

 マリーからは憐みの目が、アンシアからは、良くわからないけど大丈夫かな、と言った風な目が向けられる。

 少し静かにしててお願い…。

「後は何と言っても、商売の知識じゃ。これを持っておらんと話にならんからな。その点お主は、あんなにも大きな店で、てんちょうと言う、一番偉い人間だったであろう。だからじゃ!」

 確かに俺は、チェーンストア形態の大きな会社で、それなりに大型の店舗を任されていた。何でも全力でやり込んでしまう性質だし、同期や先輩を含めても、かなり知識はある方だと思う。

 でも…。

「なるほど、しかし一番偉いとなれば、俺の上には社長だったり、他にもより知識を持った人は、それなりに居たのでは無いですか?」

 俺が想像で行きついていた通り、この世界を丸ごと救おうと言うスケールで人を呼ぶのであれば、もっと経験を積んでいる先輩たちの方が、適任だったのでは無いだろうか。

 果たしてどんな特別な理由で選ばれたのか、オラワクワクすっぞ!

「…ぬ?」

「…え?」

「あっはっは、何を言っておる? それなりにじっくり眺めておったが、お主が一番偉い人物なのは、間違い無かったはずじゃぞ?」

「いえ、確かに店の中で一番偉いのは、俺と言う事になりますけど、その上にはエリア統括者が居たり、各部署の長が居たり…こういう形態の事は、ご存知ですよね…?」

「…」

「ご存知では無い…?」

「う、五月蠅いぞ! 知るはずなかろう! 知らぬからこそ、知識を借りるためお主を呼んだのじゃぞ!」

「し、失礼しました!」

 そういえばそういう話だった。

 そうだよな。俺の世界の事を、この世界の神様が知ってるとは限らないよな。

 いくら商売の神様だからって、あくまでそれはここでの話だ。それなら、この世界の商売について、定石や在り様などを詳しく教えて貰えばいい。

 そうだ。そういえばちょうど、そういった事に詳しい人に、色々聞く事が出来ればと思っていたじゃないか。

「いいから、お主はその叡智を用いて、この世界を何とかせよ! 我は商売の事なんぞ、てんでわからんのじゃからな!」

 あれーーーーー!?

「ちょ、ちょっと待って下さい! 商売の神様なんですよね? この世界の商売について、その現状を教えていただけたりとか、しないのですか?」

「せんわ! お主の世界ではどうか知らんがな、神と言ってもただの種族じゃ。我は商業の神として、力を持って生まれたと言うだけの事。人間は向き、不向きがあるという言葉を、良く使うようではないか。神だって同じじゃ!」

 いやいやいや、確かに言っている事はわかる。でも何と言うか、期待していた神様像と違い過ぎる。

 加護?みたいなものを請け負ってはいるみたいだけど、本当にただの象徴的役割って事か。

「せめて、俺をこの世界に呼んですぐに、すべて説明してくれれば…」

「…!!!」

 そうだよ。

 そもそも、やっぱり俺を呼んだ神様が、ちゃんと居たって事じゃないか。それならすぐに説明をして、早い所行動を始めていれば、もっと有意義に時間を使えた。絶望的なほどに、時間がいくらあっても足りないと言うのに…。

「…いわ」

「?」

「ふざけるでないわ阿呆ーーー!」

「ええ!?」

 神樹様が今まで纏っていた、神々しさの皮が剥がれ落ちた。いや、すでにボロボロだった気もするが、今は見る影もない。

「それは、それはこちらの台詞じゃ…! なんじゃお主は。確かにそこの娘に、目覚める前に連れて行かれてしまったのは、誤算じゃった。不運じゃったとも。じゃがお主、普通は気になるであろう! なぜ我の所に全然赴かぬ! もう半年は経っておるぞ!」

「え、あー…。でも、それならあの夢を見せるみたいに、呼んでくれれば良かったのに」

「あれは未来視を、夢として流し込んでおるだけじゃ。言葉を届ける事は出来ん!」

「そんなの知らないよ…」

「それにしたって、お主この世界へ来てからも、力が欲しいだなんだと、奇行を続けておったではないか! なぜそれで、そう言った事が起こりそうなここへ真っ先に来ないんじゃ!」

「いや、世話になってるマリーに余計な負担を掛けれないし」

「お兄さん、やっぱりあれ、神樹様にまで奇行だと思われてますよ」

「マリー、少し静かにしてて、ややこしくなる」

「というかお主、先ほどから何か態度が変わってはおらんか!?」

「…そんな事無いよ、ほら落ち着いて?」

「ぬがああああ! 絶対、変わっておる! 我の事を馬鹿にしておるな、お主! 許さん!」

「え!?」

 そう言うや否や、神様が頭上で両手を合わせて握り、それを思い切りこちらの頭上に振り下ろしてくる。

 そんなダイナミックかつ直接的な方法で!?

 俺は驚きつつも、腕を横向きで頭上に差出し、そのままとりあえずいなしてしまおうと構えていたが…、備えていた衝撃は腕に伝わらず、神様はするりと身体をすり抜けた。そのまま勢いで、俺の後ろまでつんどめった様に進んで行ってしまう。

「うう…そうじゃ、直接触れる事は出来んのじゃった…!」

 どれだけ頭に血が上っていたら、そんな根本的な事を忘れるのだろう。

 もう最初に感じたあの神々しさは、幻か何かにしか思えない。ここへきてやっと、何らかの力なり、知識なりが与えられるのかと期待したのに、結局頼れるのは自分のみなのかな…。

「じゃが収まらん…我の怒りは収まらんぞ…!」

 うん、自力で頑張るしかないみたいだな。

 ま、まあ収穫はあった。

 想像でしかなかった世界を救うと言う目標が、正しいと証明されたんだからな。それだけでも、うん、価値はあったさ。

 そんな事を考えて自分を納得させている中、神様は恨めしそうな目でこちらを睨んでいる。何やら口元で呪詛のようなものも呟いているし、もはや完全に駄々っ子だ。

 そう考えていると、なにやら俺の少し横を見て、これだといった表情になった。

「それじゃ!」

 と言うか本当にそうだった。

「ふうん!」

「「「!?」」」

 神様が何やら気合を入れると、ここへ来た時に見た色の光に、身体が包まれていった。そしてそのまま神様は、俺の隣、アンシアの方へと頭から跳びかかっていく。

 ルパンかお前は! 何だ何をする気なんだ!?

 あまりに奇抜な行動で、一瞬気を取られ、アンシアを庇うのが遅れた。

 俺は全力で腕を伸ばし、アンシアを庇うべく動いた。かろうじて手のひらだけは間に合ったが、先ほど同様すり抜けてしまう。そのまま神様がアンシアの胸のあたりに飛び込むと、辺りが一瞬で光に包まれた。

 一体、どうなってしまうんだ…!?

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