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新しい一歩目

 お待たせいたしました…。

 誰でしょうか、大筋は決まっているから、ちょっと話を詰めればイケると言ったのは…。

 話を書くより考える方が大変とは、良くいったものです。

 実はこの期に及んで、まだ細部が詰めれていないのですが、また進めていこうかと思います。

 新しい冒険の始まりです。

 夢の中では相変わらずの光景が映し出されている。

 この単身で死力を尽くす勇者を、少しでも支えるにはどうすれば良いだろう。



 今は無くなってしまった家からの帰り道、マリーに今後のプランを話してから、数日が経った。

 あの後マリーは、村へ帰るや否やさらりとストスさんに告げた。

「ちょっと旅に出てきます」

「えっ…」

 本当に、今日もちょっとそこらへと言った風だった。数秒そのまま固まった後、ぬるりとこちらを射抜いたストスさんの目や、そこからのプレッシャーは忘れられない。

 俺の事は何一つ言っていないはずだが、元々マリーは、次の転居先を俺に伝えに来ていた。それが戻ってきたら、こんな事を言い出すのだから、そりゃあ原因は俺くらいしか考えられないよな…。

 ストスさんは、相変わらずの寡黙っぷりで、特に何も言ってはいなかった。しかしだからこそ、悪い方への想像が膨らんでしまう。

 一体何と思われていたのだろう。

 また良くわからない事に娘を巻き込みやがって、だろうか。それとも手を出したら承知しねえ、だろうか。

 いや、さすがにそれは無いか。歳、結構離れてるし、精々怪我負わせたらただじゃおかねえ、とかだろう。

 …いや、それ普通に怖いな。

 あの魔物と全力を尽くして追いかけっこした日の、ストスさんの姿を思い出す。

 強かった。少しの間とはいえ、あんな化け物と正面からぶつかり合ってみせた。まさに異世界の住人と言った強さだった。そんな人に、ただではすまない目に合わされてしまった日には…考えたくもない。

 とにかく、マリーは俺の旅に付いてくることになった。ストスさんは文字通り何も言わなかった。正直説得出来なければ、最初の想定通り一人でと思っていたので驚いた。年頃の娘さんで、心配では無いのだろうか。

 俺が信用されてる…事は無いよなあ。


 そんなこんなで俺とマリーは、その日から旅の支度をし、完了して今日に至る。ストスさんが工房勤めになったから、マリーは店を続けられないし、ちょうど良かったのかもしれない。

 そうして俺とマリー、それにアンシアは、いざ旅立とうと言う今日この日に、とある場所に向かっていた。そのある場所と言うのは…。

「メルクリウ様、だっけ? その神樹様って」

「はい、もうすぐ付きますので」

「だって。アンシアも、もう少し頑張って」

「…だい、じょうぶ、です」

 そう、話に聞いていた神樹様のところだ。

 実のところ俺は、まだこの神樹様のある場所に、一度も行った事が無かった。

 行こうと思えば行く事は出来たが、特に用事は無かったし、行くにはマリーに案内してもらう必要があった。

 だから、あえて行ったりはしなかった。という程度のものなのだが、良く考えれば俺が一番最初にこの世界へやってきたのは、その神樹様のところだったはずなのだ。意識がはっきりした時に、いきなり剣を向けられたり、その後も目の前の事が新鮮だったりで、すっかり意識から外れてしまっていた。だからこれはいい機会だと、マリーに付いてきたという訳だ。

 マリーが神樹様の所に向かう理由は、昔からの習慣らしい。以前にも少し聞いた通り、誰かが定期的に神樹様の様子を見守るんだそうだ。

 なんだかひどく、曖昧な習慣だけど、ずっと昔からこうだったのだろうか。曲がりなりにも神様なら、もっと儀式めいた事でもやっていたりしなかったのかな。

 それからアンシアは、マリーの代わりに、神樹様を時々見てくれる事になったらしく、いわば引き継ぎの為に付いてきている。そのままそれが終わったら、旅立つ俺たちを見送ってくれる予定だ。

 いつのまにか、マリーと二人でそう決めていたみたいで、今日アンシアと合流した時は、おやと思ったものだ。

 二人はずいぶんと、俺が来たばかりの頃より仲良くなったように見える。今も、俺が以前作って渡した、まんまるな猫の人形を、アンシアは今日胸に抱えているのだが、それをマリーが指で突いたりして、何か楽しそうに笑い合っている。

 ほほえましい光景である。

 こんな光景を守る為にも、俺はこの世界を救う。そう決めたんだ。

 とは言っても、実際のところは正直不安でいっぱいだ。

 商売で世界を豊かにしていく事に決めた。それは実際、貧困な暮らしがあちこちで続いているそうだし、達成すれば無駄にはならないはずだ。

 しかし、夢との絡みについては、状況証拠からこれで勇者を助けられるかもしれない。そう考えただけであって、何の確信も無い。

 よって俺が異世界に来た意味というのが、果たしてこれで合っているのかもわからない。特に意味なんてありませんでした、とはなって欲しくない。本当は、それについてきちんと知りたいし、出来ればついでに、便利な力なんかも与えて欲しいものだ。忘れかけていたけど、何の説明も無しに異世界に放り投げるなんて、この世界に俺を呼んだ何者かは、親切心が足りていない。

 最初に出会ったのが、マリーでは無かったらどうなっていた事か…。

 俺は適当に辺りを見渡していた目線を、マリーの横顔で止める。

 やはり痩せすぎているけれど、鼻立ちはとても整っている。もう少し健康的な食事を取れるようになれば、もっとかわいらしくなる事請け合いだ。

 そしてそれは、さらに向こうを歩いているアンシアも同様だ。

 性格上、アンシアは今の儚さを感じさせる体系も、似合っているように感じはするけど、やっぱりもっと、この際少しぽっちゃりするくらい、自由にお菓子とかを食べさせてあげたいと思う。

「お兄さん、なんだか目線がいやらしいです」

「えっ!?」

「何私たちの身体を、舐め回すように見ているんですか。身の危険を感じます」

「…っ」

 そう言ってマリーは、自らの身体を両腕で抱き、身を守るようにむこうを向いてしまう。

 いつの間にか、二人の事を見ていたのがばれていたらしい。

 同時にアンシアは、そのマリーを壁にするように、俺から見えない位置にずれて歩き続ける。

 正直その恥ずかしがる仕草をする事によって、世の男性たちはさらにかわいいと思うのではと、俺は考え…では無い。

「いやいや、身の危険って…冗談でも勘弁してよ。ストスさんの耳にでも入ったら、どうなるか…。見てたのは否定しないけど」

 マリーは、いつものこちらを責める目つきになり、警戒した様子だ。このジトッと見られているのが、いつものだと感じてしまう現状は、果たしてどうなのだろう。

 どうしたものかと、マリーと見つめ合っていると、アンシアが頭を少し突きだし、こちらを覗き込んでくるのが見えた。

 あの事件があってから、アンシアはなぜだか、俺との距離が開いた気がする。特に嫌われる事をした覚えは無いのだが、最近は仲良く色々話したりしていた分、少しショックだ。

「大体お兄さんはですね…」

 いつものお小言が始まってしまうかと身構えた時、ふと目端に、不思議な光が掛かった。俺がその光の方向、今進んでいる進行方向へと顔を向けると、つられて二人も前に向き直る。

「なんですこの光…?」

 日の光とは違う、少し緑がかった様な、やわらかさを感じさせる光だ。それが木々の間から、まるで舞っているかの様にこちらに漂って来ていた。

「神樹様の所まで、あと少しって事だったし、そこの光って訳じゃないの?」

「確かにこの光は、神樹様の居る方から来ているようですが、こんな光は初めて…初めて、見ました」

 何か少し引っかかっていたようだが、この光はいつも出ているものでは無いらしい。

「なんだか、あたたかい、ですね…」

「確かにそうだね。なんだか、安心する」

 マリーだけは、いつもとの違いに少し不安そうだが、悪い事の様には思えなかった。

「とにかく、急ぎましょう」

「うん」

「はいっ…」

 少しだけ歩くペースを上げ、俺たち3人は、いよいよ神樹様の所へたどり着こうとしていた。

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